第5回 平成8年9月27日 
文化センター

会田比呂
糸舐めて通す針穴雁渡る
闇に色預けて花野昏れにけり
光帯の海に整せる良夜かな
遠花火のごと焼けにけり栗の毬

池田孝明
月陰り木立の闇に惑ひたり
いが栗の重さに耐へる実りかな
栗拾ふ園児の声の弾みたり
杉木立抜けて安堵の月明かり

伊藤均
雨上り薫りたつかな金木犀
喧噪や皇居内堀彼岸花
日に焼けて顔をのぞかす三つ子栗
十五夜へ銀河鉄道まつしぐら

岩本充弘
魂の光りは黄泉へ秋螢
新蕎麦を打つ母の手の力瘤
栗の子の落ちて毬より飛び出せり
遠き世の帝も観しか今日の月

小又美恵子
乱れ萩溢れて埋める遊歩道
窓に月浮かんで家路の仕度する
読み耽り目を休めれば窓に月
小さき手重ねて運ぶ栗一つ

片山栄貴
花びらの一片いとし金木犀
名月や芒野に響く鬼ごつこ
迷ひたる勝手場の栗残されし
栗落ちる屋根の響きで目覚めたり

茅島正男
水澄むや向ふ岸まで石渡し
濡れ縁の益子の壺の芒かな
仲秋の明るき道や塾帰り
生栗や爪でしぶとる帰り道

高島文江
皎々と良夜の門扉照らさるる
カーテンを開けて寝やうか今日の月
手の力抜きて毬栗手のひらに
毬栗や人は気づかぬ科持てり

田中功一
縁側に月見団子で酒を飲む
名月に陰踏み遊ぶ庭の子ら
早朝の散策道に栗一つ
高き枝に毬栗の実色づきて

田仲晶
満月や野の幸を盛るはつり盆
もう覚めぬ母と戻りぬ無月道
三毛猫の無頼顔して月の路地
壮年の父より知らず丹波栗

手塚一郎
ふり向かず虫喰栗の芝栗に
土の道を好み芝栗落ちにけり
虫の音も心地良かりし栗ひろひ
いがぐりを跳とばせし子の泣きつ面

手塚須美子
香煙に目覚むは秋の彼岸かな
木犀の香り残して街暮るる
やうやくに炊けて栗飯湯気高く
髪切りて襟元涼し月夜かな

永松邦文
休耕の田をコスモスの埋めつくす
星の振るタクトに合はせ虫時雨
ままごとの雪洞にして彼岸花
雨上り木犀の花突然に

福田匡志
男体の風のにほひや草もみじ
月光や川音さやけき小径ゆく
月光にさそはれ鳥居くぐりけり
見上げれば口開きたる栗のいが

堀江良人
夕陽受け色艶やかに屋敷栗
夕月に急かされて竿収めけり
切り通し行く手に月の収まりぬ
木漏れ陽の陰色増して栗ひろひ

三澤郁子
栗の香のまつ毛に触るる夕餉かな
UFOの飛んで来さうな月の夜
炊きあがる栗飯匂ふ厨かな
満月の空の高さのいわし雲