第6回 平成8年10月25日
文化センター
縋るものまづ紅葉せり御神木
初霜や息吐き合ひて挨拶す
松茸や一子口伝の在りどころ
身にしむや胸汚したる粉薬
池田孝明
初霜に重ね着をしてペダル踏む
霜深し庭木に白く残りをり
急ぎ足菊の香に触れしばし佇つ
月明かり水辺に映す合歓の花
伊藤均
黄昏て我が手を見るや落もみぢ
朝の日を浴び血の色のもみぢかな
初霜や戦場が原は人絶えて
時を知り鳴きからすかな虫時雨
岩本充弘
草紅葉こぼるるばかり実をつけし
紅は黄に黄は紅誘ふ散紅葉
美術館の庭を染めたる散紅葉
単身のドア鍵開ける霜夜かな
陽が射して目に染む赤き紅葉かな
初霜や鼻先冷えて目が覚める
お供への団子の冷たさ十三夜
単行本握りて眠る夜長かな
片山栄貴
あたりまで夕霧深し初紅葉
霜柱ふんで故郷の冬思ふ
稲刈のにほひ残りし散歩道
筑波山稲刈る人の影長し
茅島正男
懐石の膳に添へられ色もみぢ
霜降りて日めくり紙のあとはなし
咲き倒れ添へ木あてがふ秋桜
縁側の小春日和や布団干し
小林美智子
透き通る紅葉の影を踏みくだく
電灯の下雑草の霜光る
空濠の底を照らしぬ草紅葉
湖を燃やして漆紅葉かな
きらきらと牧柵光る秋の霜
団栗を拾ふ算数きらひな子
田中功一
バスの中乗客窓辺に山紅葉
紅葉山錦の衣裾野まで
初霜や車の屋根の虹の色
郊外の川面に群れし渡り鳥
田仲晶
草紅葉没日大きくなるばかり
初霜や手に強張れる厨水
十六夜や牛舎より漏る咀嚼音
文化の日耳学問の男来て
手塚一郎
荒ぶりし王の古墳や照紅葉
櫨紅葉色づききたり寒さ知る
城跡の踏み分け道や紅葉狩
銀杏紅葉の夕日をあびて色をかへ
繕ひの母に日の射す秋の昼
金賞の頭重たき菊手折る
名を呼べど応へぬ猫も秋思かな
車窓より雑木紅葉を遠眺め
永松邦文
十八の振袖欺く紅葉かな
庭下駄も白く輝き今朝の霜
菊の紋両毛の鉄路一直線
湯豆腐の湯気の向ふに君がゐて
福田匡志
紅葉して暗き桜の径かな
鳶緩く湖上に舞へる紅葉かな
霜の朝赤味ましたる茶臼岳
霜の庭はらりと落つる朽葉かな
堀江良人
もみぢ山裾野は緑の佇まひ
もみぢ葉の赤引き立てし松古木
欄干に島の足跡朝の霜
風止んで霜おり始む宿の軒
SLの軋みて峡のもみぢかな
木道の先に木の橋草もみぢ
筑波嶺の朝あかねして今朝の霜
出勤の刻の迫りし今朝の霜
山田秀夫
炭がまの煙り高きて薄紅葉
照紅葉鐘の音一つ雲厳寺
初霜やとび立つ雀ぎこちなく
霜柱ふみ足音の遠ざかる