第16回 平成9年9月26日
アーバンしもつけ



森利孟
突き挿せるごとく鉢植ゑ蔓珠沙華
氷詰めして汐の香の初さんま
目の粗き手籠を受けて林檎狩
倒木を沈めて淵の水澄めり

会田比呂
銀の太刀うち重ね初さんま
貌中を眼に蟷螂の空威張り
紅葉茶屋石で留め置くお品書き
水澄むや母呼ぶ声の遠くまで

岩本充弘
秋水の心を洗ふはけの道
堤に沿ふ暮らしのありて秋刀魚焼く
名刹の鐘楼映す秋の水
秋扇妻の指図に従ひぬ

小又美恵子
猫の影ガラスに写り秋刀魚焼け
水澄むや路地の地蔵に置くおはぎ
水澄むや金の穂揺らす雀かな
吊り革の腕より匂ふ秋刀魚かな

茅島正男
秋桜の束ねられたる雨あがり
初秋刀魚あわててつける換気扇
山もみぢおまへは黄色か我は赤
こぼれさう両手ですくふ萩の花

川村清二
水澄みて魚の姿もよくのぞき
畦道の川面に浮かぶ名残り月
雀らを肩に話の案山子かな
秋刀魚焼く煙掠めて猫の声

後藤信寛
大漁の人群れ運ぶ秋刀魚かな
秋刀魚焼く備長炭の煙かな
板前の中骨さばき青秋刀魚
焼き秋刀魚辛味大根富士のやう

田仲晶
邯鄲や町の銀座の街路灯
水澄むや史跡に塔の蘇る
指切りで約す秘め事天高し
親潮の飛沫に染まる青秋刀魚

田中鴻
渓流に魚影疾し水の秋
庭先に秋刀魚の煙立ち登る
山肌に秋の銘水人の列
今年また郷土訛のさんま売り

高島文江
架けかへの橋晒されて水澄めり
夕暮て秋刀魚いよいよ光りけり
萍の流れ滑らかに水澄めり
焼きたての秋刀魚皿よりはみだしぬ

永松邦文
鶏頭にすひこまれゆく細き雨
庭下駄を染めて崩れし秋海棠
低気圧去りて秋刀魚の溢れけり
雲低くビルに谺す運動会

仁平貢一
水澄むや佐渡金山の深き坑
ひとり焼く秋刀魚の炭を払ひけリ
秋刀魚焼く母の齢を計りけり
秋の水そふづに注ぐ夢の宿

福田一構
初秋刀魚荷台たちまちあふれけり
秋時雨縦縞著るす露座仏
暴風雨止む束の間の法師蝉
札の皺伸ばし贖ふさんまかな

三澤郁子
トロ箱を跳ねて出さうな青秋刀魚
水澄みて逆さ男体山定まれり
初さんま高原大根ともに売れ
「こんにちは」花野の中の日曜日

堀江良人
水澄みて釣人の影見当らず
手折らずに過ぎ一面の蔓珠沙華
居酒屋の灯しのくすみ焼秋刀魚
遠尾根の目に迫り来て水澄めり