第17回 平成9年10月17日
アーバンしもつけ
柿紅葉元祖本舗の蒸鰻頭
咳払ひして唐突の「天高く」
水の香をいささか加へ走り蕎麦
休耕の日に捨て植ゑの豆乾らぶ
会田比呂
紐古りし大き乳型鵙日和
初時雨来てヴアイオリン横抱きに
更科も信濃もよろし走り蕎麦
力むたび肥ゆる赤子や天高し
岩本充弘
陽の落ちて妻涙腺の脆き秋
那珂川の蛇行のうねり崩れ梁
新蕎麦で長寿を祝ふ姓内
天高し二礼二拍手打つ祠
小又美恵子
紅葉狩り咽喉にさらりと蕎麦とおる
新蕎麦を啜れば宴の鎮まれり
天高し頬に冷たき辞書枕
しやがむれば空の青きに花野映え
里の木々渋滞横目ここも秋
天高し鰯や羊遊ばせて
新蕎麦やつゆも付けずに一すすり
天高し紅白玉の放物線
川村清二
紅葉を湯舟に映し露天風呂
新蕎麦を打つ手五十路ののれんかな
紅落を湯舟に浮かし旅の宿
天高し裾野の燃ゆる那須ケ岳
後藤信寛
新蕎麦の店主三立て自慢して
水蕎麦の口いつぱいに香りたつ
石引きの香りひき立つ新蕎麦粉
田仲晶
十六夜や小舟を紡ふ村の岸
秋風や雲の触れゆくポプラの秀
七十の母の手力今年蕎麦
瀬音澄むいよいよ高き夜の天
新蕎麦を打ちて二人の暮らしなり
翻る祭旗紅白秋高し
風にまかれ人にまかれて秋祭
天高し少女からから笑ひけり
永松邦文
天高し昇任試験の朝明ける
天高し警らの巡査蔵の町
新蕎麦粉入荷と記す草書体
つんぬける天の高さや杉並木
仁平貢一
新蕎麦の香りただよふ「道の駅」
命生る旅はばなれし鮭の綱
みちのくや天主聳へて天高し
新蕎麦を打つ母の手に齢見る
福田一構
鈴虫や耳先の立つ眠り猫
通勤はいつもこの道天高し
たはむれに吹く尺八や秋の風
新蕎麦をこねる亭主の太き指
布圃干す陽ざし和らぎ天高し
筑波嶺の裾の定かや天高し
暮れ合ひの野に刻戻す蕎麦の花
今日もまた畑一面の蕎麦の花
三澤郁子
新蕎麦や文人の寄りし店に来し
天高しダービー目ざす三歳馬
待ち合せ多き単線草もみぢ
蕎麦咲ひて真白き盆地浮きあがる