第21回 平成10年2月27日
アーバンしもつけ
梅咲くや壁に窓無き美術館
谷合ひの畑をはづれず風の蝶
尾を揺することを覚えて蝌蚪生まる
麦青む矩形に畦の一枚田
会田比呂
はこべ生ゆ寄りたるものにせり上がり
浮雲や蝌蚪生れて立つ砂煙
初蝶や凡夫詰め込む座禅堂
曲がる時光る小川や猫柳
岩本充弘
永き日や東照官に帯祝
下萌ゆる乳房をゆすり牛歩む
町制となるも昔のかとの水
渓風を避けて初蝶翅やすめ
片山栄機
キヤンパスに芹摘む人の二三人
掬ふ掌の端より逃げて蝌蚪の水
濡縁に座せば梅の香真つ直ぐに
初蝶と戯むる妻のかつぱう着
畦道に足をとられて蝌蚪の水
朝日浴び庭を飛び交ふ揚羽蝶
早咲きの桜見たさに伊豆の旅
金棒を置いて逃げ出す福は内
佐藤美恵子
東風吹くや子の膝小僧綻びて
小波の影となりゆく蛙の子
北風に研がれて赤きテレビ塔
初蝶や旅立ち幾つありぬべし
高島文江
紅椿落ちて形を崩さざる
風あらば風の流れに春の蝶
真白なる梅の一樹や一揆の碑
定期テストやめた学校蝌蚪生まる
田中鴻
乱れ飛ぶ蝶のカップル広野原
庭石に初蝶降りるひるさがり
淀中後足つけ蛙の子
川岸蝌蚪の水見て騒ぐ子ら
自梅の空紅梅を引き立たす
蝌蚪泳ぐ手足に水の重さ得て
初蝶の擬木の椅子をいぶかしむ
初蝶の真つ先に訪ふ固蕾
とこゐ憲巳
手ぬぐひを広げて掬ふ蝌蚪の紐
雨情碑に黒さの増して風光る
水揺れるままにねてをりおたまつこ
坪庭に風のかきたて梅香る
仁平貢一
立ち止まり嚔する犬蝌蚪の水
蝌蚪生るる十戸ばかりの隠れ里
しかられて下校児ひとり蝌蚪掬ふ
春の野に遊ぶ女童の脛白し
福田一構
水底に群れなす蝌蚪の影揺れて
開眼の仁王尊像蝶まとふ
靄の池ゆらりゆらりと蝌蚪の群
雪晴れや那須の稜線刃のごとし
川音に寄つては離る番蝶
草摘みの団に一点赤袢纏
風止める畔の水路に蝌蚪泳ぐ
街灯を過ぎる糸なき春の雨
三澤郁子
そこだけが土筆の原の道祖神
溜池の小さき波紋蝌蚪生るる
逆さまに干すTシャツや蝶来る
湯上がりのレモンスカツシユ春めく夜