第22回 平成10年3月27日
アーバンしもつけ


森利孟
後進で出てゆく渡舟さくら草
薄き日に光をくはへ石鹸玉
囀りや4を飛ばしてルームキー
列車惰行す辛夷明かりの辺りより

会田比呂
抱き止めし子に陽の匂ひ桜草
聞き分けし夫の足音おぼろの夜
初桜一人短き髪の巫女
囀りや神名備山に高まれる

田仲晶
春寒や嫌ひも好きも女偏
さくら草人待ち顔の茶房の扉
囀りのトンネル一番走者過ぐ
一瞥に返す一瞥妊み猫

岩本充弘
囀の高まる村や婚の列
庭石の溺れんばかり桜草
地芝居の廻り舞台や春タベ
幾千の水脈集め春の水

片山栄機
囀りや人出払ひし刑事部屋
さくら草一鉢ごとに仲間めく



川村清二
寒梅に手元震へしコツプ酒
渡良瀬の蘆原包む川霧かな
渡良瀬の蘆を焼きつつ春を告ぐ
日差し受け稚鮎放流思川

佐藤美恵子
やはらかき陽に染まりたる桜草
囀りや新教科書の荷を解く
囀りにリユツクそのまま小休止
蜜吸ひし子の足飾る桜草

田中鴻
店先に振りかえり見る桜草
転勤の荷物に加へ桜草
囀に揺り起こされる日曜日
停年後気ままに歩き百千鳥

高島文江
等分に切りしケーキや桜草
行列の出来るパン屋よさくら草
枝先の折れんばかりに囀れり
囀りて鬼瓦より翔び立てり

とこゐ憲巳
花束を受けて別れの桜草
早咲きの櫻の庭の初訓示
紅梅や十九回目の辞令受く
春めくや手酌ですするウーロン茶

永松邦文
「下馬札」やしだれざくらの傘の中
薔薇の芽や兵隊蟻の駆け出して
君子蘭六畳一間あたたまる
軍道の櫻石碑となりにけり

仁平貢一
野仏と一つ日差しに桜草
囀やせはしく小枝上下して
萱葺の鐘楼堂や桜草
ここよりは利根川となる春の水

福田一構
跨がれてもてなしがほの桜草
朝日うけ鉢にみなぎる桜童
おおまかに根分け鉢植ゑ桜草
囀りが囀り誘ふ鳴合せ

堀江良人
暈冠る月の白さや春の宵
陽の光浴びて眩しき桜草
耳奥に残る囀り転勤す
釣人の影見当らず春一番

三澤郁子
囀や一つが崩る目玉焼き
埴輪の瞳渦巻いてゐる春暖炉
囀りや駅に電車が電車待つ
桜草卓のの燈紅きカフェテラス