第39回 平成11年8月20日
利孟選投稿句会



岩本充弘
雨の来てむらさき深き葡萄棚
大利根の水照り返す秋初め
秋立つ湖面に黒き逆さ富士
鯖雲の沖へ傾く金華山

片山.栄機
客絶えて秋立つ宿や山けむり
息きつて登る坂道山葡萄
しづかなる夜の庭隅萩繁る
富士山の陰横切り手天の川

川村清二
凄まじく闇を切り裂く稲の夫
葡萄雁頬膨らませ種飛ばす
歓声や花火師闇を駆け続け
岩陰に揺れる山百合露天風呂

田中鴻
渓川の流れゆるやか秋立ちぬ
立秋の色表はれたり千枚田
黒葡萄一人欠けたる同期会
葡萄棚ひときは長き房見つけ

とこゐ憲巳
葉の蔭の大小ありて山葡萄
日の丸の輝きゐたる今朝の秋
袋開く瞬時はじける葡萄の香
初ものの葡萄一房ある夕餉

永松邦文
エプロンに切り取る三房マスカット
外つ国の人と連れ立ち葡萄園
廃屋の房の小さき葡萄かな
薄掛けを昼寝に添へし今日の秋

仁平貢一
秋立つや親子の長き影法師
はちきれる葡萄零れて香のつよし
白壁の土蔵小路から来たる秋
秋立つや早や凋落の草樹かな

福田一構
図書館の書架のほこりや秋立ちぬ
かはたれの岸辺のそよぎ秋立ちぬ
炎天の深み淀みへ鯉の群
裾分けの重たき房やマスカット

へんみともこ
薄雲の奥に青空今日の秋
朝市の笊山盛りの葡萄かな
風向きの変はり散り散り蜻蛉かな
笑ふ膝庇ひて下る滝見かな

堀江良人
街絡樹の影薄ずみて今朝の秋
幼な児のぶどうもぐ手のしたたかさ
一葉舞ひ落ちたる欅今朝の秋
ぶどう房一粒もがれ残りをり

三澤郁子
石越ゆる水きらきらと秋の風
もぎ取りて掌に量感の黒葡萄
山葡萄熟れて夕日に透きとほる
声明の響く木かげや虫浄土