すぎ44回

  
第44回 平成12年1月28日
アーバンしもつけ

岩本充弘
寒卵一つ厳しく老いし顔
節くれの手に息づける寒卵
せはしさの音ゆるみたる松の明け
佐渡吹雪く流人の墓の邦に向き

大垣早織
新妻の願ひいろいろ七日粥
土産にと母の買ひおき寒卵
松過ぎや茶屋の主の巻く煙草
上州訛下野なまり焼芋屋

佐藤美恵子
店毎の自慢の髭のだるま市
凩や質屋のほつる紺暖簾
竹爆ぜて火の粉をあふるどんどかな
行列や夜店の先の初詣

三澤郁子
多喜二の忌午すぎてより雪しきり
寒卵ことりと音の厨闇
寒林の梢の奥の天の瑠璃
春隣日の溜まりゐるこはれ椅子

片山栄機
単身や黄身の色濃き寒卵
畦焼きの火のちろちろと燃え残る
山茶花の花びら添へて犬火葬
屠蘇明けやあめつつ運び川流る

川村清二
網ほつる鳥屋片隅の寒卵
声嗄らし客と駆引き達磨市
疎遠詫ぶ添へ書き二行賀状かな
両眼開く達磨火を噴くお炊き上げ

田中鴻
声高に鳴く雌鶏や寒卵
七色のポンプ放水出初式
負けん気の孫には負けず歌留多取り
土崩し小石突き上げ霜柱

とこゐ憲巳
泥んこの轍の深し春の雪
菜の花のお浸しにがしカラオケ屋
松過ぎや句の推敲のままならず
物の皆動かぬ町や春の雪

永松邦文
丼の飯のくぼみの寒卵
師は遥か西国にあり初句会
獅子舞に蹤いて「路傍の石」の街
湯豆腐の火のとろとろと増す孤独

仁平貢一
無口なる男一気に寒卵
陸奥の鞘堂雪に埋もりて
冬遍路夫婦揃ひの白衣装
なんとなく別れの兆し寒卵

福田一構
老剣士立居よろしき寒稽古
寒稽古終へ手鏡で紅を引く
産みたてと一筆添へて寒卵
元日やまづ黒豆に箸を付け

へんみともこ
つまみたる畳鰯の視線かな
寒卵干支の龍舞ふ箸まくら
森ひとつ越え国道へ野火の灰
寒明けの扉をたたく薬売り

堀江良人
半月の残る朝の霜深し
寝そびれし朝一番の寒卵
松過ぎの野田に飛び散る群雀
黄梅の香りの溜まる沢棚田