第46回 平成12年3月24日



池田孝明
川岸に影をのばして蜆掘り
トンネルをくぐれば雪の続く道
厚底の靴に踏まれてふきのたう
蜆汁開かぬ貝を捨て迷ふ

大垣早織
水切られなほ黒々と蜆かな
習ひたきことばかり増え春愁ひ
セツトした髪を吹かせて春疾風
逃水や道路工事の喧騒しき

片山栄機
卒業の朝の赤飯蜆汁
春愁や添削稿の太きペン
春塵や叔父の来て打つ碁の二局
不器用に葦の原飛ぶ雲雀かな

川村清二
顔醒めぬままに啜りて蜆汁
芦焼きに阿鼻叫喚の鳥の声
満開も散りては巡る梅の花


佐藤美恵子
払つてもまたうつすらと春の塵
形のこるパツクから出す蜆汁
逃水を待たせ飲みほす缶ジュース
児の口にはみだしさうな春の雪

田中鴻
畑仕事終へて夕餉の蜆汁
逃水や草のまばらな休耕地
早起きの朝の湖に蜆掘る
春愁や一人で座る喫茶店

とこゐ憲巳
逃水を追ひて任地へ荷の車
干し物の寄りて離れて春一番
春愁や佐野らーめんの赤のれん
箸と指巧みに使ひ蜆汁

永松邦文
黒檀の箸先尖り蜆汁
春愁や鋸屋根の機屋跡
逃水や遥かに赤城五十峰
貝塚の白く層成し蜆汁

福田一構
暖かや稽古帰りの九段坂
昼酒や名水温む宿場町
涸沼川十年一日の蜆掻き
彼岸会を終へて頬張る稲荷寿司

へんみともこ
紅椿咲ける岬の日の出かな
遍路杖小脇に朝日拝みけり
春の海雲間にひかりゐたるかな
テレビニュース横目に入れて蜆汁

堀江良人
春愁や髪を束ねて厨妻
配転の内示を受けて蜆汁
お供物を狙ふ烏や彼岸寺
空狭む沢辺の奥の彼岸寺

三澤郁子
逃水の風に消えては生まれては
よりどころなき雨の日の春愁ひ
春愁や白鳥翔ちし後の湖
砂を吐く蜆の柔き舌透けて