第66回 平成13年12月16日
文化センター
冴ゆる夜の風懐に忍び込む
葛湯吹く母子は膝を寄せ合ひて
十割と壁に貼り出し走り蕎麦
一人弾く胡弓の調べ月冴ゆる
朝の日の豊かに射して冬木立
鴻
剪定の鋏をとどめ返り花
山繭の枝に残りて冬木立
食不振母の作りし葛湯欲し
ミヨ
とろとろと母の呪文の葛湯かな
ふくれたる鶏の一羽のゐる冬木
椋鳥の群れの二手に雲間より
登美子
甘栗の温みを抱へ冬木道
この家をふんばつて守る冬木立
木枯しの寄るの眠り呼ぶコツプ酒
湯上がりの母へくず湯を薄く溶く
かな文字の京の土産の葛湯玉
また一つ老舗閉づてふ年の関
ラーメンの屋台の並び月冴ゆる
葛湯吹く子の頬にある片笑窪
清子
嚔三つ郁夫の壁画の間にこぼす
母の声夢幻なる霜夜かな
夜寒かな電飾に塔そそり立つ
熱の出て母に賜はる葛湯かな
芳子
人混みの中をシヨールを手に抜ける
住みなれし母屋の匂ひ立つ葛湯
大正の振り子時計の音冴ゆる
畳替して久々に招く友
贈ものの栗鼠を冬木に飾りけり
嫁きし子の嬰児誕生の冬日かな
ともこ
病床の半身起こし葛湯かな
とほりやんせ発祥の地の落葉掃く
笹鳴きや箱階段に浮く木目
石蕗の黄の昼なほ灯る蔵座敷
電飾におほはれ街の冬木立
棋譜見ては並べる碁石葛湯かな
初時雨打ちたる島の駐在所
憲巳
寒雀ゐて日曜の昼支度
と尾藤を染める夕日や葛湯飲む
虎落笛富士の高嶺に雲の巻く
昭雄
ゴツゴツの根の顕はなる冬木かな
おとし蓋静に取りて鰤大根
軒先のふくら雀の胸せせる
登校の声に追ひ鳴き寒雀
良人
雲色の疾く移ろひ冬の暮
冬の暮気鋭茜に染まりけり
風花の鬼怒川の流れに添ひ来たる
日の翳り風にざはめく冬木かな
日の射して川面耀く冬野かな
花の色ふふむ吉野の葛湯かな
掌に乗せて吹けば片寄る葛湯かな
ちぎり絵の雲が飛びゆく冬木道
鳩寄せてベンチに冬日ひとりじめ