第74回 平成14年8月31日
兼題 走馬灯 星月夜

栃木昭雄
火を替へて影の華やぐ走馬灯
木戸締めに出でて妻呼ぶ星月夜
慰霊碑の山へいよいよ蝉しぐれ

堀江良人
鬼怒川の黒く流れる星月夜
走馬灯へめぐる音にある拍子
稲の香や川向ふへと続く畦

柏崎芳子
扇風機嬰の笑ふは首傾げ
緑蔭の土突き回す雀かな
天窓の方三尺の星月夜



大貫ミヨ
朝曇り脇芽かく手の青臭し
揚羽蝶葉をあれこれと選り迷ふ
ちりぢりに余炎のこぼる百日紅

川島清子
回転扉大暑に人を押し出す
映画会果て拭く涙星月夜
凌霄花落日に色深めゆく

田中鴻
山小屋の灯もその中の星月夜
幼子を抱き上げ見せる星月夜
夏一夜流星群を待ち構へ




岡田耕
鎌倉へ雲の急げる星月夜
揚花火絵巻のごとく去る煙
遠花火心の奥に鳴りにけり

大塚登美子
好物の餡こ玉上げ盆提灯
蝉しぐれ母の背のやや曲がるかな
読んでやるいつもの童話走馬灯

石塚信子
昏れ残る向日葵首を持て余す
夕立晴風の匂ひの通し土間
向日葵を焦がし尽くして日の沈む



三澤郁子
一人居に風のゆるやか走馬灯
朝市の遠かなかなや野菜の日
天心のまたたきやまぬ星月夜

会田弘子
語気荒き毛野の育ちのはたた神
ひたすらに船追ふ魚や走馬灯
星月夜頬杖をして見る絵本

泉敬子
星月夜カリヨンの影しずまれり
冷奴通し土間より風通ふ
いくたびも墨絵の山河走馬灯

福田一構 (欠席投句)
おほかたに鳥の喰み痕英桃
はたた神去りし空より風貰ふ
落日の峠に立てば青葉木菟



へんみともこ
宿題を広げ放題虫の夜
バイバイと塾出てくる子星月夜
潮風にふかれ三つ子の新松子

片山栄機
   ジャン
競輪の鐘かきたてる残暑かな
神々の影のゆらめき走馬灯
飛行機雲の真二つに割る夏の空

森利孟
目化粧の七つ道具や素足の娘
雷去るや猫の片耳動かせば
炎の揺れて影のつまづく走馬灯

とこゐ憲巳
故郷の音食む朝餉きうりもみ
苦情聞き終へて一服法師蝉
猫の目の光りて細り星月夜