第75回 平成14年9月16日

会田弘子
撒く餌に盛り上がる鯉天高し
野分して水鬩ぎ合ふ小堰かな
飛行機の星に紛れてちちろの夜

石塚信子
ワンコインバスの終点秋の空
伸びゆける先の青空貴船菊
俎に叩く薬味や秋しぐれ

泉敬子
点滴やちちろの声はドレミのファ
米寿にて詩吟朗々敬老日
宝厳寺の長き船廊秋高し

大塚登美子
寝不足の耳へいきなり法師蝉
柿の実の葉に隠れたる青さかな
むくげ咲く風新たにし枝ゆらす

大貫ミヨ
風からめ地に落としたる烏瓜
旧街道山内笠の咲き並び
裳裾引く萩にかくるる風の色

柏崎芳子
まづ母に見せて団栗拾ひかな
秋日傘表通りに人まばら
天高し手荷物軽きひとり旅


片山栄機
黒光りして蟋蟀のバネの足
鈴虫の身を削りてはなきとほす
分校の樟を見下ろす高き空

川島清子
湯上がりの肌すぐ乾く秋の宵
百町歩稔り田色を違へ初む
見習ひの仲居の固き単衣帯

川村清二
ふあふあとパラグライダー天高し
送り火の小さき大の字三橇山
こほろぎの泣きやまずして夜もすがら

田中水鳥
芝刈ればちちろ右へと左へと
都庁ビル四方眺望天高し
ゴーヤ熟れ深紅の種を見せ誇る

とこゐ憲巳
前掛けにくるみて栗のおすそ分け
秋の空購入迷ふ新句集
持ち帰る折りに偏り茸飯

栃木昭雄
保育器の手足うごめき秋高し
こほろぎの足を踏む張り鳴き続く
保育所につづく歓声秋高し

福田一構
蜘蛛の囲の絡め取りたる秋の風
終電となりし鉄路のちちろかな
水引草の蘂つんつんと天仰ぐ

へんみともこ
狛犬のなびく鬣秋の風
座布団を敷き詰め地区の敬老日
夕風にほぐるる烏瓜の花

堀江良人
遠嶺の眉に迫りて秋高し
外孫の帰りし夜やちちろ鳴く
湯を浴びる音に混じりてちちろ鳴く

三澤郁子
秋高し空に近しき湖の瑠璃
音のなき空き地拡げて鳴くちちろ
吊されしまま音沁みる秋風鈴

森利孟
鵜の首の濠に突き出て秋暑し
繰り言に相槌模糊と秋扇
梨をもぐ尻の甘さを掌に受けて