第76回 平成14年10月20日
栃木県文化会館
秋夕焼け上より灯る坂の街
上向いて通す針穴雁渡る
子の額に塗る御神水秋祭
造船の火花の滲み秋湿り
夕弥撤の小さき聖母秋灯し
石塚信子
珠を追ふ龍の目逸る秋の空
龍誘ふ珠舞ひ上がる秋の空
秋高し総身を捻り龍の踊る
泉敬子
寺を守る若き男や秋さくら
窓の月影のごとくに自在鍵
米蔵の失せし錠前秋海棠
大塚登美子
稲佐山夜風に冷える手すりかな
進み出る采振り長の爽やかに
ビル街の奥に花街花芒
大釜の施粥遍し針槐
居留地の坂つなぐ坂花梯沽
仕舞た屋のずれし板壁石蕗の花
ふつふつと油揚を炊く星月夜
柏崎芳子
赤い羽根添へて至急の回覧板
小鳥来て鳥語に満ちる狭庭かな
ひろびろと火を焚きてより秋耕す
片山栄機
秋高し園児バスより弾き出る
カラカラと稲刈られゆく国ざかい
人のきて木犀の香をかきたてる
川島清子
菊日和石工は使者の名を刻む
くんち船廻す根曳の血のたぎり
戻りきて猛るくんちの龍のうねり
銀杏降るまづイーゼルに椅子据ゑて
子の丸めし小さき団子十三夜
にらめつこに負けて蟷螂逃しけり
田中水鳥
秋深し百済へ日本海越えて
鵲の韓の広野を鳴き渡る
ハングルの町に筆談天高し
とこゐ憲巳
秋寂ぶや金網塀に通り穴
再会の話題の故郷星月夜
晩学の読書に釣瓶落しかな
牧草のロールに巻かれ冬隣
福田一構
朝寒や肩に薄日の野の桟敷
傘鉾に小鍛冶の仕掛け秋高し
卓袱料理に箸を迷はせ秋蘭る
秋桜坂の途中の中の茶屋
秋の薔薇壁のそびえる豪華船
秋の日の猫のたはむる石畳
三角の溝の出島に秋の雨
堀江良人
雲去りしあとを埋めて尾根紅葉
新幹線蜻蛉追ひ立て到着す
万国旗垂れて屋内運動会
露天湯の高まる湯温後の月
三澤郁子
大壺の萩の撓みの定まれり
遙かなる教師たりし日小鳥来る
豆の香のこもる布目の新豆腐
森利孟
喫煙所の小窓より入れ秋の風
秋天の底へと沈む着陸機
釈奠や朱に膝擦れの跪拝台