第88回 平成15年10月25日

川島清子
新米の湯気に割り込む生卵
秩父路に杉挽く香り柿すだれ
鉄塔がぐいと寄りくる秋西日

大塚登美子
道変へて十月桜に巡り合ふ
あちこちの畑に煙草紅葉
草紅葉一人下校のランドセル

石塚信子
行く秋や諾否を問はる癌告知
干し柿や農継ぐ家の四代目
小雨来る牧に鳴く牛草紅葉

へんみともこ
鉢底に張り付く闇やのこる虫
秋霖や温みの残る駅の椅子
草紅葉足跡深き休耕田
秋深し樺の茶筒の艶を増す

泉敬子
秋ざくら会津にうまき輪箱飯
秋の夜や筑波山あたりにある火星
柿すだれ潜りて猫の鈴の音

三澤郁子
ざくろの実弾けふたたび反抗期
草紅葉一反五畝の捨て畑
弓なりの国の夕空鳥わたる
宿坊に丈の揃ひし柿すだれ

大貫美代子
つるし柿繩のゆるみを抜ける風
ゴンドラに張りつく霧とすれ違ふ
峠まで風の広げし草紅葉

標幸一
つるし柿に隠るる母屋猫眠る
茜雲色濃く染めし草紅葉
里山の空の青さや柿熟るる

とこゐ憲巳
豪商の西壁にある吊るし柿
一人旅来る駅来るまち草もみぢ
湯の客の下駄音高く秋の暮

栃木昭雄
柿を干す郷へと開く時刻表
あきつ浮く殺生石に曽良の句碑
吊るし柿軒に五つ六つ診療所

福田一構
今宵またサヨナラで勝ち酒温む
柿すだれのぞむ教室字を習ふ
風に乗る薄き湯の香や草紅葉

堀江良人
軒端吹く風に抗ふ吊るし柿
那須岳や勢子のごとくに草紅葉
木道の消ゆる奥まで草紅葉

田中鴻
粉の白さ日ごとに増すや吊るし柿
草紅葉一物肚に牧の牛

森利孟
味噌を摺る音の庫裏から吊るし柿
疵痕のごとくに鉄路草紅葉
秋遠嶺足下深きビルの窓







句会の後、那須で一泊、初冬の那須茶臼岳にあがってきました
折りあたかも、那須巻き狩り祭りというイベントがあっての、巻き狩り鍋の大鍋です