第89回 平成15年11月30日
方円の古墳囲みて菰の松
息白く嘶き合ひて馬車だまり
糸底に朱の窯印夜鳴蕎麦
石塚信子
白息やデフレの街の商戦旗
職辞きて主婦なる膝の毛糸玉
少女らのくるくる睫毛街小春
泉敬子
トラックに乗せらる牛の息白し
裏街の灯のうるみたる夜泣き蕎麦
カトレアを形よき胸にシャントゥール
大塚登美子
残業を終えて今宵の夜鳴蕎麦
靴の泥ぬぐひ新酒の蔵に入る
提灯のうしろは暗し夜泣きそば
自転車の鈴の躓き息白し
荒塊の田を夕霧の押し均す
園丁の空打つ鋏百舌鳥日和
片山栄機
コーヒーのにほへる街や息白し
菊の香や導師故人の志を語る
葉をふるふ後の雄雄しき御神木
川島清子
自販機に食はせる小銭息白し
置き去りのしゃべる玩具や文化の日
逆上りして舞ひ上げし落葉かな
標幸一
城跡に犬呼ぶ人や昼の月
鳥の首伸びて木の実をつつきをり
残業の煙草のこもり星月夜
朝まだき鞍上安下息白し
残業の目鼻のつかず夜鳴きそば
早朝のジョギング仲間息白し
とこゐ憲巳
風花の舞ひたる朝の点呼かな
門限の時間をにらみ夜鳴そば
ふるさとといふ寒灯のぬくさかな
栃木昭雄
尉鶲鏡に恋をしたりけり
朝市の媼声高息白し
引き寄せて眼鏡の曇る夜鳴き蕎麦
福田一構
箸を割るほども待たさず夜鳴蕎麦
半白の禰宜の祝詞の息白し
落日の光ともなひ鴨の陣
鳴き真似に応へし雀小春かな
動くたびこぼす鈴の音七五三
夜鳴蕎麦店のシャッター風に鳴る
堀江良人
露天湯へ渡る廊下の息白し
篭る湯気眉にまつはる夜鳴きそば
菊の香や雨の予感の駅の道
三澤郁子
木守柿ともしび色に昏れにけり
夜鳴きそばにはかに更けし町通り
ポスターを張替へ駅の冬の陣
森利孟
白息やトンネル工夫闇を掘る
風の棲むビルの抜け道散り銀杏
賄ひのおろし一匙焼さんま