第234回 平成28年7月17日
栃木・大平山吟行


   利孟
 大杉の元より生れて山清水
 虫除けを総身に大平山詣で
 あぢさゐや朽ちて迂回の朱塗橋
 やぶめうが板碑水場と四阿と
 苔の花くづれ煉瓦の貯水槽

   比呂
△老鶯や峠の茶屋の赤電話
・猪独活や草に隠れて天狗石
・街裏は小路小橋や額の花
 雨後の森のあをき匂ひや野のあざみ
 画架立ててまづ初蝉の声を聞く

   敬子
△三伏や二尺の紙垂の注連弛む
・裾模様めき大平山の濃紫陽花
・御用絵師生れし里なり緑立つ
 あぢさゐ坂慈覚大師の故事偲ぶ
 まづ菩薩詣でてよりの夏の空
 満目の市街は南風大平山

   信子
△神仏背合す門や濃紫陽花
・梅雨曇り拝殿に聞く笙の笛
・梅雨の杜紙垂の揺れゐる石の門
 苔の花社に伝ふ七不思議
 丸太椅子紫陽花坂の中程に
 青梅雨や里山の裾触れ合ふて
 梅雨寒や梢を囃す山鴉

   美恵子
△灯籠に日と月の窓木下闇
・木下闇登れば磴の狭まりぬ
・木下闇竹垣の間の石祠
 行き過ぎるふうに戻りて揚羽蝶

   一構
△心太普段着でゆく墓参り
 草原の朝の写真や夏館
 夕立や静かに話す人と居る
 食事終へ友と蜜豆分けて食ひ
 背の高さ孫に抜かれて冷やし酒

   ミヨ
・平城や兵馳せし青葉闇
・風鐸の音重ね咲く蓮かな
・神石の天辺を撫で油照り
・苔重ね反りし石垣夏の雲
 大平山はや色褪せし四葩かな

   昭雄
・めまとひを払ひて見上げ有三碑
・しみいるや謙信平の蝉の声
・つづら折山路に咲ける濃紫陽花
 大平路十重に二十重に山笑ふ
 四葩咲く昼なほ暗き大中寺

   良人
・あぢさゐに導かれ着く有三碑
・あぢさゐの磴に群れゐる烏かな
 石段を狭むあぢさゐ杉木立
 しのぶごとくちなし咲けり裏参道
 名所山影ひとつなしせみの声

  輝子
・蜜豆を供へて父の笑む遺影
・大夕焼け海辺の出で湯溶け出して
 もてなしに往時の名残夏館
 蜜豆の残り一匙間を置きて
 笠雲の山裾に濃く青田原

   木瓜
・丘の上の蝉のうねりに聴き惚れて
・山歩む道に寄り添ふ蝉の声
 片陰に休み過ごせるひと時よ
 人を射る眼の人形夏館
 蜜豆をつつく三人同ひ年
 石段に天狗の投石汗を拭く

   鴻
 あぢさゐの大平神社雨の中
 初夏の杉の木立の神の山
 大平山十五柱余祭られて