第272回 令和元年9月22日
兼題 胡桃 小鳥来る
帯締めの固き結び目秋暑し
庭巡るたびに現はれ揚羽蝶
夕されば酔ひ衰へて酔芙蓉
雨戸繰り入れる朝の日小鳥来る
灯に揺らぐ銀の冷たき胡桃割り
雅枝
☆ならぬものはならぬと会津桐実る
・晩酌のワイン小皿の胡桃の実
・胡桃二つこりこり鳴らす祖父ありき
・空の巣と地の糞残し燕去り
・雨あがり草の数ほど虫の声
敬子
☆山七つ八つ十越えて小鳥来る
夕暮れて軒の滴の釣忍
堅実に夫は生きたり千日草
人生を神に委ねむ雲の峰
半生の似たる親友夏の原
△銃声の遠く寺領に小鳥来る
△じやん拳のぽんで勝ち負け爽やかに
△小鳥来る空へ踏み出す逆上がり
・とりどりの声天に地に小鳥来る
胡桃割る二人の黙と割る音と
比呂
△だしぬけの稲妻嘘を見逃さず
△泡となる珊瑚の卵星月夜
・瞬くや島の十戸の秋灯
・青胡桃泣く児の浅き土踏まず
・命名や色鳥はこゑ高め合ひ
美恵子
△貝漁や碇星見て待つ船出
・年経たる平大笊に干す胡桃
・白鷺の刈田に長き肢さらし
・賢治のごと落ち穂拾ひの鴉かな
小鳥来る残りひとりの子供会
△栗鼠が来てをり胡桃熟す頃
・どぶろくや合掌造りの飛騨の宿
・参道の栗石繰れば小鳥来る
秋茄子や母の作りし汁の香が
水切りの石は深みへ胡桃落つ
昭雄
△小鳥来る壁の習字の二重丸
・国一番の滝を背にして鬼胡桃
・小鳥来る明日の始発となる電車
鬼胡桃拾ひて旅情あらたなり
鬼胡桃つまみつつ読む罪と罰
良人
・静かさや沢の細道胡桃落つ
・山の宿暗き厨で割る胡桃
・胡桃熟る山の蕎麦屋の藁の屋根
・鬼怒堤覆ふ大樹の胡桃落つ
廃校の校庭跡に小鳥来る
・秋立つや長く渦巻く鉋屑
・梨を食む死への備へは要るものか
・すべきこと残る人生小鳥来る
・頑固なる胡桃はらりと二つ割
小鳥来る垣根をさつと乗り越えて
英郷
・胡桃割り続けなにやら手の痛み
・窓に風入れつくつく法師の秋
・歳ゆえのひときは甘き胡桃餅
・胡桃の実しわしわと成り誰を待つ
鳴き騒ぐ鷺山を越え小鳥来る