官倉の碩鼠 幽深に巣くひ,
租米 常に貪して 未だ饕るを恥ぢず。
卿 啻に 丞相の難を 論ずるのみならずして,
尸素を 掃き淸めて 應に 妖を平ぐべし。
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官倉の老鼠は、尸位素餐せること幾十年。五千万件の照合が不可能と分かったと。
諸公、諸卿、もはや、今は天賜の尚方の斬馬剣を揮うべきときである。党争はやめて、力を合わせて、官倉を掃除すべきときである。
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・朱雲: |
前漢・成帝の時代の忠臣。朱雲は成帝に諫言して、宮廷に跋扈している無能で、主君をないがしろにして、むだ飯ばかりを喰っている君側の奸を斬るために、斬馬劍を賜るよう願った。結果、朱雲は成帝の怒りを買った。『漢書・朱雲列傳』に「至成帝時,丞相故安昌侯張禹以帝師位特進,甚尊重。(朱)雲上書求見,公卿在前。(朱)雲曰:「今朝廷大臣上不能匡主,下亡以益民,皆尸位素餐,孔子所謂『鄙夫不可與事君』,『苟患失之,亡所不至』者也。臣願賜尚方斬馬劍,斷佞臣一人以厲其餘。」とある。蛇足になるが、この大胆な言葉に成帝は怒りだし、朱雲は部屋から連れ出された。朱雲は、そのとき、てすり(檻)にしがみついたため、折れてしまった。「折檻」の語源である。 |
・尚方: |
宮中の倉。ここでは、名剣の斬馬劍のしまってある場所を指す。 |
・斬馬劍: |
名剣。朱雲が成帝に、むだ飯食いの佞臣・君側の奸を斬るために賜ることを求めた剣。 |
・官倉: |
国の倉庫。公(おおやけ)の倉。そこに棲むネズミは、牛ほどの大きさになると云う。唐・曹鄴の『官倉鼠』に「官倉老鼠大如牛,見人開倉亦不走。健兒無糧百姓飢,誰遣朝朝入君口。」 がある。 |
・碩鼠: |
大きなネズミ。民の財を貪るネズミ。『詩經・魏風・碩鼠』に「碩鼠碩鼠,無食我黍。三歳貫女,莫我肯顧。逝將去女,適彼樂土。樂土樂土,爰得我所。 碩鼠碩鼠,無食我麥。三歳貫女,莫我肯德。逝將去女,適彼樂國。樂國樂國,爰得我直。 碩鼠碩鼠,無食我苗。三歳貫女,莫我肯勞。逝將去女,適彼樂郊。樂郊樂郊,誰之永號。」 とある。 |
・租米: |
年貢米。租税として納める米。現代風に謂えば、税金。 |
・饕: |
むさぼる。 |
・卿: |
あなたさま。国会議員など高位の人物に敬意を表して使う。 |
・不啻: |
ただ…だけではない。ただに…ず。普通「啻」は、否定詞とともに使われる。≒不但。≒not only。 |
・丞相: |
総理大臣。首相。宰相。 |
・難: |
去声で名詞。非難する。責める。難儀。艱難。蛇足になるが、平声は形容詞で、難しいの意。更なる蛇足になるが、この句に出てくる「論」は動詞で平声。なお、名詞では去声。 |
・尸素: |
ある地位・官職についていながらその職責を尽くさないで給料だけもらうこと。「尸位素餐」の略で、前出・『漢書・朱雲列傳』の青字参照。 |
・平妖: |
妖怪変化を退治する。降魔(ごうま)。 |