キーボードと紙製のコーヒーカップ       M

論文の発表会場に自動車で向かっている。運転手はどうやら女性スタッフのようで、
会場まで直通でよいですかと聞いてくる。それでいいと答える。

タブレットの画面を見ながら、誤解が生じそうな表現を直している。
ふと、彼女は寄り道したいから、「直通」と言ったのではないかと思い直した。

ファストフード店がありますと声がかかり、ちょっと眠いので寄りますと言う。
わたしは何も返事していないが、ハンドルは右に切れて、車内は少し揺れた。

修正箇所をキーボードで入力していると彼女が声をかける。
「コーヒー飲んでくださいよ」「温かいうちにどうぞ」とキーボードのそばにコーヒーを置く。
コーヒーがこぼれたら嫌だなと思いながら、紙製のカップをキーボードから離すと、
「飲んでくださいよ」と言いたげに、カップをまた寄せてくる。

わたしは車の後部座席にいたはずなのに、いつの間にか彼女の隣に位置している。
この状況がとても気になってしかたがないし、コーヒーを飲みたいとは少しも思っていない。
彼女は間断なく話しかけてくるが、わたしは原稿のチェックをしたいと心がざわついてくる。

そこで、やっと気づいた。彼女はわたしに運転させたいのだ。そして眠りたいのだと…。

※彼女の隣、つまり「助手」席というステータスが嫌だったのだろう。
論文の発表は、現況をブレイクアウトするチャンスであって、
コーヒーブレイクで逃してはならないという思いがあるのだろう。

※運転する彼女は、かつてのライバルの代替として登場したかもしれないと思った。
なぜなら、話し方がそっくりだったから。カップを寄せる仕草も同じだ。
休養が必要だから、少しは気分転換をしてみてはどうかということらしい。