映画のページ

MON-ZEN /
Erleuchtung garantiert /
Sabiduría garantizada /
Enlightenment Guaranteed /
Illumination garantie /
Iluminación garantizada

Doris Dörrie

1999 D 108 Min. 劇映画

出演者

Uwe Ochsenknecht
(Uwe - 兄)

Gustav-Peter Wohler
(Gustav - 弟)

Petra Zieser
(Petra - ウヴェの妻)

Ulrike Kriener
(Ulrike - グスタフの妻)

Anica Dobra
(Anica - 東京にいるドイツ娘)

Heiner Lauterbach (Heiner)

Jimi Ochsenknecht (Jimmy)

Wilson Ochsenknecht (Wilson)

Leopold Zieser (Leopold)

Imaseki (相撲取り)

見た時期:2000年1月

まさかこの作品が、それも今頃日本に行くとは思いませんでした。原題は「悟り保証します」といいます。

見た時どういう感想を持つべきかかなり迷いました。つまらない話なんです。アホな兄弟がいい年して日本へ行って、ひどい目に遭う、それも自分で招いた事だから仕方がないという話です。

監督は有名な女性。キャリアも長いし、成功した作品もたくさんあるのですが、私は全然見ていません。避けて通ったわけではなく、見る機会が無かっただけ。有名なのは Männer...ParadiesKeiner liebt mich¿Bin ich schön? などで、日本に行った物もあります。新作 Nackt がこれからヒットするところです。主演の兄弟はベテラン中のベテラン俳優で、長いキャリアがあります。見てくれが悪いから無名ということはありません。どういうわけか出演者の役名がみな俳優名と同じになっています。なぜかなんて聞かないで下さい。私に答えられるわけないですからね。

★ あらすじ

家を省みず仕事ばかりだったのが祟って小市民的な生活を送って来た男ウヴェが奥さんに放り出されるところから始まります。1人がらんとしたアパートに住むのが耐えられず弟の家に転がり込んで来ます。弟はいい迷惑。東洋に凝っていて間もなく日本のお寺で修行をする計画を立てていたから余計兄貴はお邪魔虫。

日本だと兄は兄らしく、弟は弟らしくするという暗黙の規則がありますが、そういうのはドイツには無くて、このお兄さん、みっともなく弟にくっついて歩きます。ついには日本までついて来ると言い出す始末。どことなく兄に頭の上がらない弟は断わり切れず承知してしまいます。ここまでの会話を聞いているだけで、この2人、それほどおつむのいい人たちではないことが分かります。

でもまあとにかく東京に到着するぐらいの知恵はあったようです。でも知恵の蓄えもこれまで。早速ホテルに行くのですが、そこからアホ道中が始まります。日本のオートメーション、自動なんとかというのについて行けず、金は下ろせず、ぼったくりには遭うわ、道に迷うわで、ついに東京に住むドイツ娘に救われ部屋に寝かせてもらうという惨めな事になります。親切な彼女は手っ取り早くお金になるバイトまで紹介してくれるのですが、とにかく2人の手際の悪いこと。情けないこと。ここまでやらず上品に終わらせていたのがロスト・イン・トランスレーション。みっともないところをさらけ出したのが MON-ZEN です。

なんとか態勢を持ち直し、グスタフは初心に帰り、行くはずだった禅寺を探します。金魚のうんこみたいに兄のウヴェもついて来ます。幸い田舎の禅寺は2人を受け入れてくれて修行も終了(北陸の総持寺)。すっかり満足してまた東京に戻って来ますが、そこからはまた同じようなドジ道中。見ている私が居心地悪くなるような貧乏臭い映画でした。

★ 何を言いたかったのか

ですからけなしておけばそれで済むのですが、そう簡単に決められないのがこの監督の偉い所。なぜこんなアホな映画を作ったのかという疑問が前の方から迫って来るのですが、後ろの方からは全然別な考えが沸いて来ます。

ドイツ人が描いている日本のイメージ、そのあほらしさ、日本の現実、日本に住むドイツ人の現実と、とにかく現実だらけなのです。ドイツに住んで日本にあこがれている人というのは80年代にもかなりいましたが、90年代に大飛躍、日本文化と名がつけば何でも OK という時代に入りました。今でこそ多少沈静化したように思えますが、それは不景気でお金が無く、外国旅行は近隣の国へ、輸入品もそれほど高い物はだめとなっているだけのことで、お金に余裕ができればまたすぐ始まるでしょう。Futon などという名前で日本人が見たらどう見ても洋式のベッドとしか思えない物を売っていますし、テイクヮンドウ、タイチなどと言って、日本なのか韓国や中国なのか良く考えもせずスポーツを習っている人もいます。ある時私は「レイキを始めた」と目を輝かせて人に言われ焦ったことがあります。「エレキ(ギター)」の言い間違いかと思いましたが、女性だし、どう見てもアメリカ文化でなく日本文化に関心を持っている人だし・・・。これは霊気のことらしいです。霊気なんて言われてもこの人が何を習っているのか結局分からずじまいでした。

このように一部は誤解、一部は良く解釈され過ぎ、一部は日本でもごくわずかの人しか知らないような物が大きく取り上げられているような感があるのですが、日本文化は一過性のブームではなく、ヘザー・グレアム、ジミ・ミストリの最新作 The Guru と似たような形で長期的に定着はしたようです。専門的に日本学を勉強した人でない、普通の人の持つ日本に対するイメージが MON-ZEN にとても正確に描かれています。とは言っても日本学を勉強に来る学生でも、日本語を勉強した人でも、この2人とあまり変わらないイメージを描き続ける人がたくさんいます。ドイツの大学は古い日本の文化、歴史、文学などを中心に扱う所が多く、価格破壊、リストラ、ホームレスなどという事に触れずに卒業してしまう人も多いです。その辺の落差を監督は実に冷静な目で見て、主演の2人にドジをやらせています。

日本へ勇んで出かけて行く若い人もたくさんいますが、充分準備をせずに行く人もあり、最悪の場合、ちょっと前に起きた、両親、妹だけでなく、英国首相までが乗り出して来て日本の首相に解決を依頼した英国人元スチワーデスのような事件になります。幸いまだドイツ人がこれほどひどい事件に巻き込まれたという話は聞きませんが、切羽詰って正規のビザを取らずに怪しい所でアルバイトというのは時々あるようです。狭い住居というのも話はいくらでも伝わっていますが、どのぐらい狭いかを知っている人はまずいません。映画では四畳半か六畳ぐらいの所に数人ごろ寝。この画面を見れば現実が分かります。エルウッドのアパートにジョリエットが転がり込んだ有名なシカゴの話がありますが(あれ、どちらが兄なんでしょうか)、彼のアパートの方がずっと広かったです。

日本を描くのだけが上手なのではありません。ドイツの普通の市民の生活もかなり現実的に描かれています。アパートの様子、不満を持つ妻、引越しの様子 etc.

この作品を見たのは出来上がって間もなく、公開当時だったのですが、ちょっと気になる感想を耳にしました。映画の評判ははかばかしくなく、中には日本を弁護して、日本でドイツ人があんな目に遭うはずはないと言ってくれる人もいました。私は返事に詰まりました。ちゃんと準備して行けばそんな目に遭うはずはありませんが、楽天的にイタリアかフランスへ行くのと同じように考えて出かける人もいます。その辺でかなり差がつくのですが、私はこの人にそれをどういう風に説明したら良いのか分からず困ってしまいました。

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