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2001 USA 130 Min. 劇映画
出演者
Tom Wilkinson
(Matt Fowler - 父親)
Sissy Spacek
(Ruth Fowler - 母親)
Nick Stahl
(Frank Fowler - 息子)
Marisa Tomei
(Natalie Strout - 息子の恋人)
William Mapother
(Richard Strout - ナタリーの夫)
William Wise
(Willis Grinnel - マットの友人)
Celia Weston
(Katie Grinnel - ウィリスの妻)
見た時期:2002年10月
ハリウッドの活劇の反対側に位置する地味な作品です。演じるのも主として地味な俳優。スカンジナビアの作品に似た静かなトーンで作ってあります。演技派の俳優を使い、全体のトーンも統一されていて、つい誉めたくなってしまいますが、最後の落ちが行けません。もろ手を上げて賛成できません。ここだけアメリカ的な解決になります。主演がオスカーにノミネートされてしまったとかで、私は鼻に皺をよせています。
シシー・スペーシックはキャリー以来時たま見ました。
・ イン・ザ・ベッドルーム
・ ストレイト・ストーリー (井上さんの記事はこちら 下にスクロールして下さい。)
・ タイムトラベラー きのうから来た恋人
・ JFK
といった具合です。
好きとか嫌いとかと関係なく気になる人で、よくがんばっているなあといつも感心していました。日本人の好みからすると美人とは言えないタイプ。年を取るのは自然に任せようということで、整形手術はやらないという感じの人。だからプラスティック風のぴかぴかな顔でなく、皺だらけ、そばかすだらけです。それが持ち味。例えばストレイト・ストーリーではこの自然さが最大限生きていました。キャリーがエキセントリックな役だったため、ミア・ファローと同じ運命かと思いました。極端な役ばかり回って来る危険は大いにありました。しかし彼女は地味な役にも文句を言わず出演し続け、現在では難しい役からコメディーまでこなし、リンチのような有名な監督からも注目されています。
幸せな家庭、幸せなカップル、将来性のある息子、不幸な結婚、悲劇、そして最後に落とし前をつける、この道具立てからするともっと違う演出が考えられます。それをやってしまうとありきたりの話になり、わざわざシシー・スペーシックやトム・ウィルキンソンを連れて来た意味がありません。こちらは Eureka ユリイカ を思わせる時間をかけた、丹念さが持ち味です。それだけに最後驚きました。
ざっと筋を紹介すると、上に書いたような図式で暮らしているインテリ中年夫婦(医者と教員)と大学から帰郷中の建築家志望の息子。近所に住む子持ちの年上の女性には家庭内暴力をふうる亭主がいて、現在別居中。この息子と女性がカップルになりかけているため、両親は心配、暴力亭主は怒り出します。時には殴り合いも。事がエスカレートしても黙っていると四方丸く収まると信じているかのように、誰も警察に通報しません。ついに暴力亭主が若者を撃ち殺してしまいます。殴られた者が出た時に警察に通報するのを止めるシーンでは本当に腹が立ちました。これが却って事態を悪くするというのは誰でも分かる事なのですが、自分が当事者になってしまうと皆躊躇うんですね。この立場になったことのある人に聞いて脚本書いたんでしょうか。
ここまではいわばイントロのようなもので、作品の主題は息子を失った夫婦に亀裂が生まれる、加害者にどういうわけか有利に裁判が運びそうになる、加害者は刑務所行きを控えて保釈中、恋人に死なれ子供を2人抱えた若い母親、こういった状況にいる人たちがそれぞれどうやってその後を生きて行くかという部分です。私は地味ついでにここで止めておけば良かったと思います。Eureka ユリイカ風に丹念に描かれた部分を壊してしまうような終わり方をします。こうしないと人は納得しないのかも知れません。しかし欧州人一般はこの結末に納得しないのでは・・・という気がします。少なくともドイツでは自分で法律の手を借りずにオトシマイをつけるというやり方は好かれていません。人の命を法律の手を借りずに自由にするという考え方は、相手が悪人でも一般的ではありません。日本人が起こすのと似たような拒否反応が生まれます。
重要な見せ場になっているのは女性が大きな衝撃を受けた時に内向するのに対し、男性はそれを外に向かわせる点です。母親は家にこもりがちになり、人とあまり息子について話しません。父親は反対に息子がいた場所、乗っていた船に出かけて行き、生きていた時の息子を思い浮かべながら悲しみます。観客には2人とも同じぐらい傷ついていることが分かるのですが、妻は夫が外で悲しんでいるのを知らず、また日常生活に戻ったと思い込んでいます。そこから生まれる亀裂が上手に描かれています。2人は終わりの方でまた信頼感を取り戻しますが、そのために払う代償は大きいです。妻が町で買い物をしていると息子を殺した犯人に出会うことがあります。それが耐えられないという話を聞いたところで夫と妻はお互いが同じぐらい苦しんでいるのだと遅れ馳せながら認識します。インテリ夫婦としては珍しく激しい口論になります。雨降って地固まる・・・のはいいのですが、その後が行けません。夫は友人の助けを借りて犯人を保釈中なのに町の外におびき出します。ここまでは日本人でもまだ話について行けます。例えばそうやって無理やり州の外へ出してしまい、一生戻って来られないようにするとか。ところがそうではなく、銃をぶっ放してけりをつけてしまいます。知っているのは夫婦と友人の3人。まだ老人とは言えない2人、この先当分は警察の尋問があるだろうし、ナタリーなどにこの話を持ち出されることもあるでしょう。これからは針の筵に座って生きて行くことになります。
ウィリアム・マポーザーは家庭内暴力の亭主を演じています。どこかで聞いたような名前だと思ったらトム・クルーズの身内でした。にたっと笑い、じろっと睨むとこちらはぞっとするので、この人には演技力があるのでしょう。この人の兄弟を演じた俳優が誰なのか分からなかったのですが、双子のように似ていたので、1人2役をやったのかとも思います。その時の姿は温和で、家庭内暴力亭主の緊張した雰囲気とはがらっと違っていました。マポーザーとそっくりの恐さを出していたドイツ俳優がいます。Pigs will fly という作品の主演アンドレアス・シュミット。彼の役も家庭内暴力の加害者。2人とも目線だけで観客を振るえ上がらせることができます。
随所に俳優の実力が感じられ、こんな地味な作品がオスカーにノミネートというのはうれしい限りですが、あの終わり方何とかならないものかねえとつい文句をつけたくなってしまう作品です。
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