映画のページ
2003 USA 130 Min. 劇映画
出演者
Kate Winslet
(Bitsey Bloom - ジャーナリスト)
Gabriel Mann
(Zack Stemmons - ジャーナリスト見習い)
Kevin Spacey
(David Gale - 大学教授、死刑反対運動家)
Elizabeth Gast
(Sharon Gale - ゲイルの妻)
Noah Truesdale
(Jamie Gale - ゲイルの息子)
Laura Linney
(Constance Harraway - 死刑反対運動家)
Matt Craven
(Dusty Wright - 死刑反対運動家)
Leon Rippy
(Braxton Belyeu - ゲイルの弁護士)
見た時期:2003年前8月
後記: アメリカも死刑執行に関して少し用心深くなって来たようです。2002年に「死刑判決を決定するのは裁判官ではなく陪審」という最高裁の判断が出たのに続いて、2003年9月2日サンフランシスコの高等裁判所がこれを実行することを決定。陪審が有罪とだけ言い、死刑とは言っていない判決で、裁判官が死刑と言った判決は終身刑になることに決まりました。これで100人ほどが終身刑に減刑されます。この決定に反対の検察側が控訴する可能性もあるので、この100人は暫く枕を高くして眠れません。この決定が通った場合、全国の3500人ほどの死刑囚の扱いも変わる可能性があります。アメリカでは1度70年代に死刑を廃止しましたが、4年後にまた復活。
前のページにも書いたように、アラン・パーカーの姿勢に物言いはありますが、プロットは鮮やかです。ケビン・スペーシーが出ているのでユージュアル・サスペクツと比較してみると非常に似た作りという印象。しかし事件そのものの性質が違い、内容とトーンは全然違います。同じ弁当箱に違うご飯が入っているようなものです。
その似ている弁当箱ですが、ユージュアル・サスペクツ同様ケビン・スペーシーが事件が起きてしまった後で第三者に説明し始めます。ユージュアル・サスペクツでシャズ・パルメンテーリがやっていた間抜けな刑事の役はケイト・ウィンスレット演じるビッツィー。なかなかの重量感。英語圏の人なので米語は大丈夫だったのかと思いますが、ドイツ語の吹き替えだったのでその辺は分かりません。彼女はケビン・スペーシー演ずるところのデビッド・ゲイルに指定されて独占インタビューに来るジャーナリスト。事実を曲げないで書くという評判がゲイルに彼女を選ばせた理由。最近頑として当局にニュース・ソースを言わなかったため豚箱送りになった経験があります。
編集長からは彼女1人では頼りないというので見習のジャーナリスト、ザックをベビーシッター代わりに押し付けられます。正しい判断です。彼女は自立した経験あるジャーナリストで、取材はお手のものですが、取材中危害を加える人間が出る可能性はあります。ニューヨークなど都会の人はテキサスでは何が起きるか分からないと考えるのかも知れません。この坊や、いないよりはいた方が良くて、多少役に立ちます。
彼女が送り込まれて来るテキサスの刑務所。ここではデビッド・ゲイルが死刑執行を待っています。あと数日。このゲイルとビッツィーの出会いのシーンは羊たちの沈黙を思わせます。しかしゲイルにはハンニバル・レクターのようなカリスマ性はなく、お得意の役、しょぼくれたおじさん。逆にビッツィーはまだ頼りない研修生ではなくパワー・ウーマンで助手は男でもたじたじ。これまで頑として口を割らなかったゲイルは弁護士を通して50万ドル(雑誌には百万ドルと書いてありました。とにかく高額)の契約で独占インタビューを申し出ます。3日間計6時間。その直後に死刑執行です。
ビッツィーが取材前に聞いた話ですと、ゲイルは天才的な教授(哲学という話と心理学という話あり。いずれにしろ人文系)で、情熱的な死刑反対運動家。知事をやりこめるほど口八丁、理論はしっかりしていて、若い学生にも人気がありました。それがある日レイプ事件に捲き込まれ学校を首。その事件は何とか収めたものの次に起きた殺人事件で逮捕、死刑判決、そして現在執行を待っている身。皮肉なことに死刑反対論者が殺人罪で死刑になります。
殺人事件ではゲイルには不利な証拠があり、覆すのは本人の証言、新証拠でも出ない限り無理です。被害者はゲイルと長年行動を共にしていた死刑反対運動家の女性コンスタンス・ハラウェイ。彼女の体内からゲイルの体液、あからさまに言うと精子が発見され、状況から、ゲイルがコンスタンスを全裸で暴行し、後ろ手に手錠をかけ、手錠の鍵を呑み込ませて(鍵が取り出せないようにし)、口にガムテープを張り(悲鳴を上げられないようにし)、顔にビニールの袋をかぶせ、袋をガムテープで首の周りに固定して窒息死させたというものです。死体はコンスタンスを演じるローラ・リニーよりちょっと太めに見えたので恐らくスタントでしょうが、こういう殺し方は残酷です。
映画の中の説明によるとこの手錠をかけ、鍵を本人に呑み込ませるという手はルーマニアのチャウシェスクが政治犯に対して使った手なのだそうです。ゲイルがこの点に著書で触れたことになっています。「長年行動を共にした同僚をなぜこんな目に?」と思ってしまうのが人情ですが、手口があまりに残酷なので、犯人に対する怒りの方がどっと沸いて来る仕掛けになっています。ビッツィーも面会前にそういう話を知って、ゲイルが犯人だという点にはそれほど疑いを抱いていません。
さて、テキサスに車で向かった2人のジャーナリスト。途中車の調子が悪くなりますが、何とか時間までにたどり着き弁護士と打ち合わせて、ゲイルと面会。ゲイルの説明が始まります。
10才ぐらいの息子がいる裕福な家庭。夫人も理知的なタイプ。夫人の父親はスペイン大使。テキサスはオースティン大学で教鞭を取るゲイルはスター教授。天才的な頭の良さが話で強調されますが、本人は庶民的な普通の人で、そのため却って人気が高いのかも知れません。近づきがたいという人ではありません。死刑反対キャンペーンはまだ成功しておらず、テキサスでは相変わらず知事が強気ですが、死刑が執行されるたびにジャーナリスト、市民の前で必ずパーフォーマンスをやり、問題が忘れられないようがんばっています。同じ運動家のコンスタンスやダスティーは運動の方が本職。ゲイルは大学では哲学を教えるのが本職です。
優しい教授ですが規律はわりとしっかりしているらしく、魅力的な若い女学生が落第しそうになり、色仕掛けで迫ってきてもろ誘惑の口調で「あなたのためなら何でもやるから・・・」と言うと、その「何でも」の「何」は「勉強だ」と言って断わります。これでゲイルは恨みを買ってしまいます。あるパーティーでゲイルは彼女にワイルドなセックスに誘われ、酔った勢いでつい乗ってしまいます。ワイルドだったので爪の跡が体に残ったり・・・それをネタに次の日彼女は警察へ。ゲイルはレイプの容疑でご用。裁判は何とか収め釈放されたものの評判には大きく傷がつき、夫人からは三行半。夫人と子供は父親の働くスペインへ移住。
これがかなりのダメージになったと見え、彼はアルコールに手を出し、仕事もみつかりません。落ちて行くばかり。スペインに電話を入れても息子にはつないでもらえません。ひどい落胆の状態でもコンスタンスは寛容に受け入れてくれます。自分の意を曲げてもゲイルを助けようとします。そういった状況の中で起きた殺人事件。
ゲイルほどの天才でなくても理論的に物を考え、証拠を重視するビッツィーは話が半分ぐらい来たところから事実関係に疑いを持ち始めます。1つにはそれほど信頼関係の高い2人が暴行殺人という結果に終わるのが自然だろうかという考え。もう1つはビッツィーとザックの車に時々尾行がついており、2人の泊まっている宿に不審なビデオが届けられているからです。ビデオにはコンスタンスの断末魔、最後の数分の様子が撮影されていました。
これで不自然に犯行現場に置いてあった指紋の無い三脚の説明がつきますが、ということはコンスタンスを殺した犯人、ビデオを今頃届けた人、刑務所に入っているゲイルの間に納得行く説明が必要です。その上ゲイルの口からコンスタンスは白血病で余命いくばくもなく、ゲイルは彼女を元気づけ、彼女の方はゲイルを元気づけようとしていた事を知ります。心証から言っても矛盾が出ます。
一方で弁護士に約束のインタビューの謝礼を支払い、他方ビッツィーは弁護士にビデオを届けます。彼女はゲイルの有罪を疑い始めており、ビデオは何かしら判決を覆す助けになるかも知れない・・・。しかし弁護士はこれではまだ弱過ぎる、届けた人間を見つけられないし、時間切れになると悲観的、現実的。ビッツィーはゲイルにレイプされたと主張した女性の跡を助手に追わせますがみつかりません。勝負はテキサスでやるしかありません。
3日目の話でなぜコンスタンスの体内にゲイルの精子があったかの納得の行く説明が出ます。余命いくばくもないのにこれまで4人の男性としかセックスの経験がなく、このまま死ぬのはあまりにもさびしいということになり、ゲイルが5人目に立候補したのです。ローラ・リニーは
と見て来ましたが着実に演技力が上がって来ており、このシーンでは演技派のケビン・スペーシーをしのいでいます。その翌日にコンスタンスが死体で発見されたため、当然彼女の体内にはまだゲイルの精子が残っていたわけです。彼女の家を訪ねているのだから指紋が残るのも当たり前。ますますゲイルの有罪に疑いを抱くようになったビッツィーは時計との競争、秒読みに入ります。
時間は刻々と迫り、もう判決を覆すほどの余裕はないと判断からか、ゲイルは最後のメッセージとして、息子に対しての気遣いだけを伝えます。
諦め切れないビッツィーは唯一の手がかりのビデオを擦り切れるぐらい繰り返して見ているうちに順序が変だと気づきます。犯行現場に出向き、実験をしてみます。犯人が彼女に手錠をかけ、口をふさぎ、頭に袋をかぶせ彼女が窒息するまで待つというのが順序。そして、苦しんでもがいた被害者はもがき終わったところで死ぬというのが普通。ビデオでは脱ぎ捨てた手袋と彼女のガウンが近くに映っており、彼女は1度足を動かし、静かになり、その後改めてもがいてから死亡。ビッツィーはこれがコンスタンスの狂言で、コンスタンスが自殺したと判断。手錠は自分でビニールの袋をはずさないための対策。
コンスタンスが自殺をしたにしても、幇助した人間がいるわけで、ゲイルが容疑からはずされると、次に浮かんで来るのは常にコンスタンスの近くにいるラスティー。私はラスティーがビッツィーとザックを監視してはいるけれど危害を加えようとはしていないという印象だったので、彼が盲目的に尊敬しているコンスタンスを殺すわけはないと疑ったのですが、そこは監督の演出で適度にはぐらかされます。しかしもしかすると犯人かも知れないという可能性は残りますし、人をあやめることはしないが何か他の怪しい事をするという可能性も残ります。なかなか上手に隠してあります。
ビッツィーはラスティーの住処へ行き、ラスティーを外におびき出しておいて家捜し。ようやく目的のビデオを発見。ビッツィーの推理は当たっていました。死刑執行の場所へ突進。ところが車が故障。結局間に合いませんでした。携帯電話がネットの外なので通じない、自動車が故障がちと言うのは最初から伏線として入れてあります。また観客の涙を誘うためにゲイルの最後の食事は息子が好きだったものばかりにしてあります。惨めな親父ではあってもアメリカン・ビューティーとはかなり違います。
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