映画のページ

ミスティック・リバー /
Mystic River

Clint Eastwood

2003 USA 137 Min. 劇映画

出演者

Jason Kelly
(Jimmy - 子供時代)
Sean Penn
(Jimmy Marcus - キオスクのおやじ)

Emmy Rossum
(Katie Marcus - ジミーの娘)

Laura Linney
(Annabeth Marcus - ジミーの後妻)

Celine du Tertre
(Nadine Marcus)

Jillian Wheeler
(Sara Marcus)

Kevin Chapman
(Val Savage- ケイティーの叔父)

Adam Nelson
(Nick Savage - ケイティーの叔父)

Robert Wahlberg
(Kevin Savage)

Cameron Bowen
(Dave - 子供時代)
Tim Robbins
(Dave Boyle - ジミー、ショーンの親友)

Marcia Gay Harden
(Celeste Boyle - デイブの妻)

Connor Paolo
(Sean - 子供時代)
Kevin Bacon
(Sean Devine - 刑事、ジミー、デイブの親友)

Laurence Fishburne
(Whitey Powers - 刑事、ショーンの同僚)

Tom Guiry
(Brendan Harris - ケイティーのボーイフレンド)

Spencer Treat Clark
(Ray Harris - ブレンダンの弟、口がきけない)

Jenny O'Hara
(Esther Harris - ブレンダン、レイの母親)

Eli Wallach
(強盗に遭った酒屋のおやじ)

見た時期:2004年2月

最近 21 g を見てやや不満が残り、評判の良いミスティック・リバーに期待していました。しかし見て驚いてしまいました。評判がなぜ良かったのか考えてしまいます。世間で言われているテーマを上手にはずし、全く違う事がテーマに紛れ込んでいました。

クリント・イーストウッドという監督はドイツでは女性蔑視がひどいということで評判が悪かったです。私個人はマディソン郡の橋などで木目の細かい演出をしているし、映画だけでなく、音楽にも造詣が深い人だと知っていたので、好意的に見ていました。私の見た作品は男性の友情を強調していたりしますが、女性を蔑視しているようには見えなかったので、強い男を強調しているだけ、それは構わないと思っていました。自分の責任をしっかり果たす男という誰の目から見ても正しいことを実行するのなら、その表現がマッチョに見えても別に困ることはないと思っていたのです。そういう強い男が強い女と出会って大喧嘩になってもそれはそれでおもしろいですし・・・などとのんきな事を考えていました。

しかしミスティック・リバーでは彼の女性に対して持っているそれ以上の感情が前に出てしまったように思えます。ミスティック・リバーは悪い男にいたずらをされ、一生を台無しにされてしまった少年と、友情を壊されてしまった親友2人の話だと思っていたのです。ところが見に行ってびっくり。これは夫を裏切る女性の話、そしてその女性を軽蔑する他の女性の話になっていたのです。驚いて家に帰り、サーフしていたら、作品を見た人でそれに気づいて早速文句の意見をサイトに出している人もいました。

気の毒な役回りになったのはマルシア・ゲイ・ハーデン。子供の時に4日間誘拐され、ひどい目に遭った少年デイヴと後に結婚する女性セレステの役です。デイヴはかろうじて生きていますが、この事件がきっかけで、その後の人生は半分上の空、自分の人生だという実感がわかず、傷ついたままです。しかし正直に質素に家庭を築いてぎりぎりのところで生きています。そういう人にありがちなように、自分の気持ちを家族に率直に言葉で表現することができず、コミュニケーションは全然だめです。

デイブがある夜怪我をし、他人の血も浴びて遅く帰宅した時、彼女はデイブから泥棒に襲われて相手を殺してしまったかも知れないと聞かされます。これだけでも大きな心配の種を抱え込むのですが、そういう事件は新聞には載っておらず、近くでは知り合いの娘が殺害されているのが発見されます。彼女はここで夫がもしかしたらこちら事件を起こしたのではと考え始めます。軽く口をきくことのできない夫を持ち、血だらけになっているのを見、近くで別な殺人事件が起きていればセレステのように考えるのは普通に思えます。

彼女は普通の女性、特に強い人ではなかったので、この悩みを1人で抱え切れず、ジミーに打ち明けます。ジミーは娘を殺した奴に復讐してやると考えていたので、セレステの情報はありがたく受けますが、夫を売った女性としてセレステを軽蔑するのです。その上同じ女性であり、自分にも子供のいるジミーの妻、夫婦の危機を乗り越えてよりを戻したショーンの妻までがセレステを軽蔑の目で見て物語が終わるのです。こういう考え方が西洋に時々あるのは知っていますが、これは女性の目から見るとフェアーな描き方ではないという意見が出るかと思っていました。監督か作家の人生観と関係があるのでしょうか。

私は威張りくさっている男というのは別にそれ自体問題だと考えていません。社会は威張っている男で動くこともありますし、女が威張る時代というのも出て来ると思います。また威張っている男の後ろでしっかり手綱を引いている女性のいる社会もあるのです。女性が威張る時代には恐らく男性が後ろで手綱を握るでしょう。ですから私はイーストウッドがマッチョの映画を作ったとしても文句は言わないでしょう。

ミスティック・リバーで感じたのはそういう事ではなく、女性に対する限りない不信感だったのです。ジミーの目には裏切りに見える行動をする女性、セレステが限られた情報だけでは夫の無実を信じることができなかった、怪しさを示す情報の方がずっと多かったという点には理解を示していないこと、そして駄目押しをするように、他の2人の妻たちにもセレステを軽蔑するような態度を取らせている点です。ああいう事をした女だから軽蔑されて当然さという風に、町全体が彼女を疎外する視線。ここに問題を感じる人は少ないだろうと思いました。しかし主演がオスカーを獲得した日にすでにそういう投書が出ているというのはバランスが取れていいかも知れません。

主演は超党派で集まった3人。賞などではケビン・ベーコンは無視された感がありますが、彼はスリーパーでも重要な役を演じており、この作品に入れて違和感はありません。ロビンスとペンが重要な役で、ベーコンはその後を追う刑事。実力派3人はなかなかいい組み合わせです。そこへ巨体のフィッシュバーン。マトリックスの筋肉がまだ残っていたのでしょう。ちょっと大柄過ぎますが、マトリックスのすぐ後にまた普通の役に戻りました。女性軍も演技派を揃えてあります。女性は皆悪役。上に上げたセレステの他にイーストウッドお気に入りのローラ・リニーとジェニー・オハラ。どっしりと存在感のある演技です。女も陰影のある悪役の世界に進出して来たという意味ではいいのかも知れません。

ここでおやっと思ったのは、ショーン・ペン。オスカーゴールデン・グローブにノミネートされ、取ってしまいました。ペンは演技が良いと聞いていたので、そろそろと私も思っていました。ところがちょっと前に見た 21 g では全然だめだったのです。21 gでは気合を入れているように見えて実はあまり力を出してないという印象で、その時は恐らくミスティック・リバーのために力を余していたのだろうと思っていましたが、ミスティック・リバーでも手を抜いています。娘を失った苦悩を思いっ切り出していることになっていますが、どうも手抜きに見えてしまうのです。この人はもっと行けると思わせるカリスマがあるのですが、これはいったいどういう事なのでしょう。

ロビンスはコメディー、スリラー、善人、悪役といくつか見ました。実力はありそうで、オスカーの監督賞を取りそうになったこともあります。その時は奥方、ペンと一緒にオスカーにノミネートされ、奥方が受賞。今回はしょぼくれた風体で、暗い過去を背負ったデイブ役。人を納得させるだけの役作りをしており、他のオスカー候補者も彼なら取っても仕方ないと納得しそうでした。一緒にノミネートされたのがアレック・ボールドウィン、ベニシオ・デル・トロ、ジャイモン・フンスー、渡辺謙で、見ていないのは渡辺謙だけ。個人的にはせっかく頑張ったのだからボールドウィンにあげたかったのですが、演技の実力ではロビンスも引けを取りません(代わりにボールドウィンには娘の親権が認められました。今年はこの方が彼にとっては重要かも知れません)。ロビンスはこういう役はこれまであまり無かったからやってみたのか、イーストウッドと仕事をしてみたかったのか、理由はともかく堅実な仕上がりです。

ベーコンは台本の書かれ方から言ってあまり濃厚な演技を見せる役どころではないのですが、他の2人が濃過ぎるので、彼にブレーキをかけたのは正解。やはり事件の後は問題無しの人生ではなく、上手にコミュニケーションの取れない夫婦を演じています。

ストーリーには推理小説ファンにも楽しめそうな謎が隠されています。このセンを少し整理して、ミステリー性をもう少し前に出せば良かったのにと思います。ドイツ語の声優のせいなのかも知れませんが、事件の経過を語るところが慌しく、台詞の中に手がかりが充分混ざっているのですが、観客は注意を他にそらされてしまい、真相が分かる時受身になってしまうのです。実は自分で手がかりの布石を見つけ推理できるので、ちょっともったいなかったです。

モラルの話を避けたくともこの作品ではモラルが大きなテーマになって、避けて通ることはできません。少年時代に起きる事件だけでなく、最後ああいう形で終わっていいのかという思いが残ります。あれでおとしまいがついたことになるのか、それともいずれきっちり幕を引けるのか、そこは現実を反映し、「まだ分からない」ままです。

テーマの1つは現在アメリカで大騒ぎになっているカソリックの教会批判と平行しています。デイブを誘拐する犯人は手に十字架の模様の入った指輪をはめています。3人の少年の住んでいる地域はアイルランド系の人が多く、ほとんどがカソリック。下層階級で、町の顔役がおり、半ばマフィア的に組織されているので、その人たちは人を殺すことがあります。片方で自分たちも時々人をあやめる、他方信仰の厚い人がおり、教会にちなんだお祭りなども行われる、そして教会関係者が誘拐犯人ではないかという暗示が出されることで複雑さが伺えるようになっています。

ここまではストーリーをばらしていません。どうしても知りたい方はこちらへ

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ