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2002 UK/F/Kanada/Irland 108 Min. 劇映画
出演者
Nick Nolte
(Bob - 麻薬中毒のギャンブラー)
Nutsa Kukhianidze
(Anne - 売春婦に落ちる寸前のボスニア人のウエイトレス)
Tchéky Karyo
(Roger - 刑事、ボブとは腐れ縁)
Gerard Darmon
(Raoul - ベテラン犯罪者、ボブの相棒)
Said Taghmaoui
(Paulo - ボブの仲間)
Ouassini Embarek
(Said - versucht, Roger zu töten ロジェに雇われたチンピラ、麻薬密売人、情報屋)
Sarah Bridges
(Philippa - Mädchen für alles
元フィリップ、力持ち)
Emir Kusturica
(Vladimer - Seculity Specialist
カジノの警備を担当する技術屋)
Mark Polish
(Albert - カジノ従業員)
Michael Polish
(Bertram - アルベルトの双子の兄弟)
Ralph Fiennes
(Tony Angel - 盗品を扱う画商)
見た時期:2003年9月
メルヴィルの賭博師ボブのリメイク。終わりがきっちりしない犯罪映画はちょっと欲求不満が残ります。しかしこの作品はそのマイナス点以外は巷のハリウッド映画よりずっとしゃれていて、一見の価値があります。出演者は豪華、スターが3人。他はローカルにフランスあたりで仕事をしているらしい若手。加えて映画監督が1人役者で出ています。もう1つ特筆すべきはカメラ。才能を誇示するつつしみの無さはなく、地味にしていますが、光と影の使い方が芸術的。これが映画の雰囲気を盛り立てています。
スターというのはニック・ノルテ、チェイキー・カリョ、レイフ・ファインズ。ノルテは最近のスキャンダルとうまく連動して、リアリティーあるジャンキー。ちょっと前に警察につかまった時の写真と似たような出で立ちです。先日のハルクにもそんな格好で出ていました。公私共に生活破綻者なのでしょうが、役者根性はあるようで、この作品ではその「私」の部分のトラブルを目一杯画面に出してギャラを稼いでいます。自分を笑い飛ばす余裕がある人は見ていて好感が持てます。ノルテ・ギャグが至る所に出て来ます。それでいて品位を保ち、自分の苦悩を安売りしていないのはさすが。崩れていても気品を保つ、渋さは魅力にもなります。インディアナポリス500マイルレースにあやかって、「ジェントルマン・リスタート・ユア・エンジン」と言いたくなってしまいます。この作品の中ではポーカー・フェイスをしながら口八丁手八丁。人の良い刑事を煙に巻きます。大仕事に取りかかる前には手錠で自分をベッドに縛り付けて、脱麻薬対策。クラックなどに手を出してしまったらだめでしょうが、普通の麻薬中毒患者がこういう風に簡単に麻薬から手を切れるものなのかとちょっと呆気に取られます。確かトレイン・スポッティングでもこんな事やっていました。これはやはり映画だけの絵空事なのでしょうか。
対するは信じられないような善人チェイキー・カリョ。チェイキー・カリョが善人だなんて、あなた、信じられますか。無理に決まっていますよね。ところが最後までこの人、善人で通すのです。長年逮捕してやろうと虎視眈々と狙っていたのに、映画の冒頭チンピラに襲われた時、ノルテ扮するボブに命を救ってもらったために弱腰になってしまう。やはり命の恩人は警察に売れない、いえ、警察は買えない・・・。ああ、ドーベルマン、キス・オブ・ザ・ドラゴンが懐かしい・・・。この間もザ・コアで人の良いお父さんとか、最愛の妻子を目の前で失い、盲目になった気の毒な刑事 をやっていました。最近どうなっているんだろう。この人にこういうのありですか・・・?。
もう1人汚らしい男が出てくるのですが、これがあの美男として誉れ高いレイフ・ファインズ。どうもきれいな顔をした人は汚い役を好むようです。私の美的感覚から言うとファインズは美男とは認めたくないのですが、世間では美男で通っています。役は、盗品でも名画は買うという画商。
この人たちが、汚い仕事に手を出し、あれこれごたごた。カリョはお得意の刑事役。彼1人泥にまみれません。そんな・・・。その代わり切れの良い悪徳警官でなく、間の抜けたお人良し刑事。
テレビ版スパイ大作戦のようなメンバーを集めて、黄金の7人のような泥棒計画。ブツはモナコのカジノにある名画。日本人がバブルで大儲けをしている頃、お金をどこに使ったら良いか分からなくて、ゴッホやピカソに継ぎこんだという本当にありそうな設定。カジノにかけてある絵は無論贋作。偽とは言っても精巧にできたコピーで、それだけでもかなりの価値があります。本物は近くの金庫にしまってあります。そりゃそうでしょう。でないと、警備が大変です。名画の手入れに慣れていない上、湿気の多い日本に持って来るよりは、破損したとなると、すぐイタリアなどから専門家を修理に呼べるモンテカルロに置いておくというのは利巧。
しかしこれが盲点になってボブたちに狙われてしまいます。金庫から本物を盗んでも、カジノにある偽者がそのままだったら、届け出るわけに行かないだろうというわけです。でメンバーをそろえ、麻薬は止め、いよいよ作戦開始。ところがカリョ扮するロジェがボブに蛭のように張りついて動かない。ボブはうっかり仲間の寄り合いにも顔を出せません。あれこれ口実を設けて時々目をそらすのには成功しますが、それも一時の話。またすぐロジェがくっついて来ます。
2人はお互い大嘘を並べ立てるものの友情も芽生え、相手が殺されるのを冷たく眺めているという雰囲気ではありません。どこと無く相手に気を使い、笑いも生まれます。この辺は狐と狸の両ベテラン俳優。目の細さ、顔の長さから言うとノルテが狐で、カリョが狸でしょう。カリョが放った密使というにはちょっとドジなチンピラはそれほど役にも立たず、カリョはかなり後まで、一味が絵を狙っているという事に気づきません。チンピラはボブの所に居候していたウエイトレス、アンに麻薬をやって取り入り、少しは計画が漏れますが、どうも手際が良くありません。
ボブたちはそんな事はどうでもいいとばかり、計画実行に向けてあれこれ調査。この辺は一見ちゃらんぽらんに見えながら、しっかり根本を押さえています。それでいざカジノへ出動。カリョは遅れ馳せながら一味の狙いをつきとめ、やはりカジノへ直行。登場人物はこれで全員一堂に会したのですが、ここから予定と全然違う展開になります。観客は呆気にとられます。こんなはずじゃなかったのに・・・。オーシャンの11人よりはずっと出来が良いです。ただ、最後私にはどれが元からの計画で、どれがアドリブか見分けがつかなくなってしまったのです。しっかとドイツ語で見ておいて理解できないカバは私1人かと思ったらそうでもないようで、その辺にも何人か頭が混乱している人がいました。
それは片目つぶりましょう。カメラが良く、俳優が良く、展開が意外で、会話がおかしくて、メリットはありました。ハリウッドの有名俳優が欧州に来て、こういう作品に出るというのは私の夢でもありました。大手のギンギラギンの映画には合わない有能な俳優もたくさんおり、不遇生活を送っていた人もいたからです。欧州に来れば仕事もあるよ・・・と長年思っていたのですが、実際そういう動きが出始めたのかも知れません。今回は英語の映画で、英語圏のキャスト、スタッフ。しかし、欧州の映画に出る人もこれからまだ出そうですし、ハリウッド・スターにはフランス語やドイツ語が普通にしゃべれる人もいます。デニス・ホッパーやジョニー・デップのように欧州に住んでいる人もいます。欧州で映画を作る時は、ハリウッドの半分もお金が要らないこともあります。今回の作品のように特殊効果無しで、俳優が台詞だけで勝負というのですと、ますます予算が低くてもおもしろいものができます。インディペンデンスの皆様どうぞおいで下さい。
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