映画のページ
2003 USA 138 Min. 劇映画
出演者
Eric Bana
(Bruce Banner - 遺伝学者、孤児ということになっている)
Mike Erwin
(Bruce Banner - 若い頃)
Michael Kronenberg
(Bruce Banner - 子供時代)
David Kronenberg
(Bruce Banner - 子供時代)
Nick Nolte
(David Banner - 遺伝学者、現在、ブルースの父親)
Paul Kersey
(David Banner - 若い頃)
Cara Buono
(Edith Banner- ブルースの母親、若い頃)
Celia Weston
(Krensler - ブルースの育ての親)
Jennifer Connelly
(Betty Ross - 遺伝学者、ブルースの元恋人)
Rhiannon Leigh Wryn (Betty Ross - 子供時代)
Sam Elliott
(Ross - ベティ−の父親、デビッドの元上司)
Todd Tesen
(Ross - 若い頃)
Josh Lucas
(Talbot - ベティ−をリクルートする男)
見た時期:2003年7月
1978-1982 USA 60 Min. テレビ・シリーズ
出演者
Bill Bixby
(David Bruce Banner - 学者)
Jack Colvin (Jack McGee)
Lou Ferrigno (ハルク)
Ted Cassidy (ナレーション)
見た時期:日本で放映当時
とは言っても、テレビ・シリーズを知っている人も楽しめます。ネタがばれていても大丈夫、楽しめるところはあります。アング・リーの映画の展開をあらかじめ知りたくない人は、退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。
最近努力の跡が見え、そこは評価できるのに全体の出来が今一という作品がときたまあります。新作映画版超人ハルク(これは古いテレビのタイトル)もその1つ。どうもその辺の人と話が通じないと思っていたら、ドイツ人は「フルク」と言うんです。ドイツでは公開されないという噂が日本では流れていて、その記事を見た翌日に試写の券が当たったので不思議に思っていました。配給権のコストが高過ぎたようで、これ以上入場料を値上げできないドイツでは公開を断念したんだそうです。それにしては大々的にフリーペーパーなどで宣伝していたし、予告を見たこともあるし、映画雑誌にはちゃんと載っているし、変だなあと思っていました。もしかしたら公開する都市を観客人口の多い都市に限ったのかも知れません。ま、業界内部の話はともかく、見ることができました。結論: ただ券で良かった。
テレビ・シリーズをきちんと追いかけてはいませんが、見たことはあります。1962年にできた原作の漫画は有名な会社から出ているのですが、まだ見たことがありません。
私が見たシリーズというのはビル・ビクスビーがやっていたもので、本人は主演、監督をやっています。監督はかなり大勢の共同作業で、ビクスビーもシリーズの一部を担当したようです。テレビ・シリーズの他にも映画化されていて、テレビ用長編映画などもあります。どうやらそれぞれ少しずつストーリーがずれているようです。
共通するのはハルクと呼ばれるモンスターのような緑色の男がいて、それがある科学者の変身した姿だという点。怒るとヘンシーン。作品によって父親が出て来たり出て来なかったり、名前が親子に分かれていたり、1人で両方の名前を持っていたり、学問の専門分野が遺伝子かと思えば、原子物理学方面らしかったり、いろいろあります。
アング・リーの作品では遺伝子の人体実験が原因で変身が起きます。テレビを見ていたのは70年代の話で、当時は遺伝子とは学校の理科で丸暗記してテストに臨んだという程度のお付き合いしかなく、現実味は全然ありませんでした。それがどうでしょう。今では私たちは遺伝子の組み換えられた食べ物を口にしたり、クローン人間が生まれたかもしれないなどというニュースを読んだりしています。そういう意味ではストーリーをこういう風に変えて公開するのはタイムリーと言えます。父親が全然出て来ないバージョンもありますが、アング・リーは親の因果が子に報い・・・というストーリーにしています。しかし父親に勝手に遺伝子をいじられてしまったブルースの戸惑いより、ギリシア悲劇的な親子関係の方が強調されています。当時自分の演じる役が将来そんな風に変わるとは知らなかったテレビの主演ビクスビー。彼は子供には恐ろし過ぎるので自分の変身する姿は見せなかったそうです。いいお父さんだったんでしょうね。
テーマをギリシャ悲劇にしたのはリーの意図だったそうですが、どうもしっくり来ません。ニック・ノルテが熱演しているのですが、受けて立つエリック・バナが親子の壮絶な戦いをやっている感じになりません。このバナという人、ノルテとタッグマッチをやるぐらいの実力はあるのですが。
冒頭60年代のシーンで、軍関係者が声を張り上げて「遺伝子をいじるのは危険だ、止めろ」と言うくだりがあるのですが、この辺をもうちょっと強調してもらいたかったです。学者馬鹿になった人が研究上の好奇心からどんどんエスカレートしてしまうのに対して、当時の軍関係者にはまだ常識があった・・・みたいなエピソードです。
アング・リーの演出はきめが細かいという点いいですが、ちょっと長過ぎる、1つ1つのエピソードの展開に時間を取り過ぎたという印象を受けます。大きな予算を貰って、それをフルに使い特殊効果、破壊シーンのスペクタークルなど見応えのあるシーンも出ますが、編集をもう少し手際良くして、すっきりさせることもできたように思います。実に138分。
画面は最近見たトム・ハンクス主演のロード・トゥ・パーディションのように暗いです。両方とも原作がグラフィック・ノベル、漫画で(このページの中頃に作品リストがあります)、その雰囲気を出そうという努力の結果なのかも知れません。ただ映画館で見た私はもう少し明るい画面の方がくつろげるという感想を持ちました。映画館で見てこの印象なので、DVDにしたらさぞかし・・・。
漫画、アクション、特殊効果は楽しむためにあると考える私と違い、監督はこれを奥の深い物語にしようと試みたようです。考えるべきテーマ満載です。上でもちょっと触れたように科学者が「何でもあり」式に暴走してしまうこと、国家というものが絡む研究では科学者の思惑とは違う事が起きること、親子関係、子供時代の悪夢が記憶喪失を生んでしまうこと、愛情が人を救うこと(ハリウッド映画の義務テーマですね)などまあ中の1つだけでも映画1本できてしまうようなテーマがぞろぞろ出て来ます。
特殊効果は他の作品とちょっとタイプが違い、おもしろいと思ったシーンもいくつかあります。スター・ウォーズを蹴ってハルクの特殊効果をやったスタッフがいたそうですが、その甲斐はあったように思います。テレビ・シリーズを知らない人は笑うかも知れませんが、確かテレビでもハルクはゴム鞠が弾むようにぴょんぴょん跳んで行ったと思います。その辺はたっぷり見られます。テレビの時も笑った人がいましたが、アング・リーの映画でも「何で上着やシャツはぼろぼろに破れるのにズボンだけ残るんだ?」と言った人がいます。このシーンは楽しく笑いましょう。ハルクがその辺を飛んで来る飛行機やヘリと対決するシーンもあるのですが、日本の怪獣映画とはまた違った趣きでいいです。
ニック・ノルテの変身シーンには感心しました。そうです。お父ちゃんもヘンシーンするのです。鉄男II Body Hammer からヒントを得たのかも知れませんが、参考になる(パクリ)シーンをぴったりの場面にはめるのならば観客の私は文句を言いません。ノルテとバナの格闘シーンは変身ごっこと取っ組み合いが巨大な怪物の間で行われるので、見応えがありますが、もうちょっとライトを明るくして観客にも良く見えるようにしてもらいたかったです。別に暗くして何かを誤魔化しているような様子はないですから。
今一というのはキャスティング。連れて来た人たちはなかなか粒ぞろいです。主演をエリック・バナにするとは目が高い。アジア太平洋協力体制かと変な所で喜びましたが、台湾出身の監督がオーストラリア出身の俳優を主演に据えてアメリカのお金で作っています。特殊効果に大金がかかるから腕が良くて安いオーストラリア人を起用(ヒュー・ジャックマンがよくこぼしています)したのかと裏を読むこともできますが、エリック・バナは名優なのです。暇があったら Chopper を見て下さい。背筋が凍ります。その人が怪物に変身してもまだ優しそうな目をしている。Chopper の時はあの目が怖かったのに・・・。この悲劇の科学者とあの凶悪殺人犯 Chopper が同じ人とは思えません。出演作の少ない人ですが、Chopper の演技はサンダンス映画祭他で絶賛されています。ホント、怖〜いですよ。ハルクでは実力は半分ぐらいしか出ていません。
ジェニファー・コネリーはビューティフル・マインドに続きまた耐える女の役。「悲しそうな目をして上を見上げてばかりいて、撮影中首筋がこっただろう」とどこかに書いてありました。監督にはこういう女性像が大切なのかも知れませんが、コネリーは問題ありの女性を演じさせる方が能力が出るという気がします。例えばニック・ノルテとは狼たちの街でも共演していますが、あちらの方がインパクトがありました。ハルクに献身的な女性がつくのは運命のようで、初代ハルクのビクスビーが癌で亡くなる時、やさしく見取った女性がいたんだそうです。そういう話を聞くと、コネリーの役もちょっとは納得できますが、実話と漫画を混同しては行けません。
最近調子の良くないニック・ノルテはこれが地かという出で立ちで登場。映画とそっくりのご面相で警察に酔払い運転でつかまり、写真が大きく報道されました。あまり良く似ているのでこれは宣伝用のギャグだったのかと思ったぐらいです。本人は反省してその後クリニックに入ったそうですからギャグではなかったようですが。ノルテも俳優としての能力はかなりある人で、スリラーで問題ありの人物を演じるのには慣れているようですが、白い刻印のような家族ドラマでも演技力を発揮します。この時には息子の役をやったのですが、アング・リーはハルクのキャスト中ではノルテにハルクの父親をやらせ、かなり力のこもった台詞を与えています。ところが受け入れ側を十分に用意していなかったためか、空振りになっています。バナにもそういう台詞をつければギリシャ悲劇うまく行ったかも知れません。
さて、ストーリーの方ですが、軍がお金を出している遺伝子の研究があります。究極の兵士を想定しているようで、武器の開発ではなく、怪我をして出血しても自力であっという間に回復してしまうような肉体を目指しています。元々人間にも他の動物にも植物にも自力で回復する力というのは備わっているようですが、負傷の度合いと回復力の競争です。それに映画に出て来るように数秒でというわけにはいきません。それを何とかスピード、パワー・アップというところで現実からSFに移行します。テレビには確かこんな話は無かったと思います。
しかしこのエピソードを見ていて、荒唐無稽でもないと思いました。20年以上前、旅行中自転車で大怪我をしたことがありました。10センチ程の長さ、幅5ミリぐらい、結構深い傷を負いました。傷が深過ぎてそれほど痛くはなかったのですが派手に出血しました。その時近くの村の人が「ちょっと先の温泉に行って足をつけろ」と言うのです。「こちら側の温泉が良くて、向かい側の温泉はだめ」とか言っていました。私は自転車を引きずり、止まらない血でその辺の道を汚しながら温泉にたどり着きました。野道の左右に池みたいなのが2つあり、両方から湯気が出ていました。言われた方に暫く足を突っ込んでいました。かなりの傷なので痛いはずなのですが、全然痛くありません。血はすぐ止まりました。大事を取って次の目的地に行くのは延期、言われたように2、3日そこにとどまりましたが、実はその日の夜には長い傷跡が出でき(傷がふさがり)、もう何事もなかったかのようです。全部が自己回復力ではなく、温泉のお湯に何か効果のあるミネラルでも入っていたのでしょう。こういう事を体験していたので、ハルクのシーンで傷口がスーっと閉じるのを見た時「いんちきとも言えないなあ、誇張しただけだ」と思いました。
後記: それから25年近く経って、今度は手術を受けるような大怪我をしたのですが、その時病院から貰ったクリームというのが恐ろしく傷の回復を早めました。傷口を糸で縫うなどという悠長な事をせず、空いた穴によそから取って来た皮膚を貼り付け、ホッチキスで止めるなどという新技術でした。早く言えばアップリケ。怪我をすると長い間痣が残る体質なのに、普段の倍近い速度で治って行きます。魔法の軟膏なのだろうかと思ったのですが、実は非常に安価で、どこの薬局でも処方箋無しに買えるようになっていました。ハルクの、研究は実用化されていたんですねえ。
話を元に戻して、親子2代の因果話に発展するのですが、60年代に遺伝学者と研究を管理する軍人がいました。学者のデビッドがエスカレートしているのを察知した軍人ロスはデビッドを即刻首にします。彼は自分を使って禁止されている人体実験をしていました。辞める時彼は実験設備を破壊し放射能事故を引き起こしています。
さて、現代。この学者の息子ブルースが有能な遺伝学者に成長しています。軍人の娘ベティーも同僚で有能。2人は恋人でした。人間関係にあまり長けていないため2人は結局別れますが、同僚としては付き合います。この2人が重要な研究に携わっており、父親の時代の研究目的を踏襲し、完成間近です。
家族関係は複雑でブルースは両親が死に、自分は養子に行ったと信じています。名前も違っています。子供の時の記憶はありません。ベティーは仕事オンリーの父親には愛情がないと思っており、母親は出て来ません。
ある日ブルースの研究所でも事故が起きます。同僚を救おうとして身を挺してはみるのですがとても人間が生き残れないような量の放射能を浴びます。ところが彼は死なない・・・どころかぴんぴんしています。K-19では死者も出たのに・・・と思いますよね。助けてもらった同僚は重症。
ベティ−はまんざら嫌いでもない元恋人が助かったので喜びたいところですが、自分も遺伝学者なので助かったことの方に恐れを抱きます。何か尋常でない事が起きた・・・と直感ではなく科学的に結論を出せる立場にいる人です。そのあたりから彼女は1人で科学探偵稼業に乗り出します。一方ハンサムなブロンドのタルボットがしきりに彼女をリクルートしていました。リクルートはブルースの方にも来ます。ブルースは研究の重要さだけでなく、元恋人を取られたくないという気持ちもあるのでしょう。タルボットを毛嫌いします。こいつがまた嫌な奴で、ブルースを挑発。男の仕事の世界では良くあるやり取り。人間関係に長けていないブルースは怒ります。「あいつを怒らすなよ」が合言葉のハルク。これをやっちゃおしまい・・・なのですが怒らせてしまいます。タルボットの運命やいかに・・・。失礼、タルボットは主演ではありませんでした。
といったわけでテーマ盛りだくさん、特殊効果満点、達者な俳優勢ぞろい、懸賞に当たって見に行くのにちょうどいい映画です。小さい子供にはちょっと画面が暗過ぎます。また、親子の争いが激し過ぎて行けません。泣き出してしまうかも知れません。子供に英語のシーン見せても何で争っているのか分からないか。ちょっと大きめの子供ですと、いいかも知れません。これはビデオなど小さい画面で見ないで、暗い映画館の大きなスクリーンで見ることをお薦めします。
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