映画のページ
1999 USA/D 105 Min. 劇映画
出演者
Johnny Depp
(Ichabod Crane - ニューヨーク市警の警官)
Sam Fior
(Ichabod Crane - 少年時代)
Lisa Marie
(イカボッドの母親)
Peter Guinness
(イカボッドの父親)
Christopher Lee
(ニューヨーク市長)
Martin Landau
(Peter Van Garrett - 村長)
Robert Sella
(Dirk Van Garrett - 村長の息子)
Keeley O'Hara
(Emily Winship、未亡人)
Christopher Walken
(ヘッセンの騎士)
Michael Gambon
(Baltus Van Tassel - 大地主)
Christina Ricci
(Katrina Anne Van Tassel - バルタスの娘)
Miranda Richardson
(Mary Van Tassel - バルタスの妻の看護人、後に後妻におさまる)
Cassandra Farndale
(Crone - 少女時代)
Tessa Allen-Ridge
(Van Tassel 夫人 - 少女時代)
Casper Van Dien
(Brom Van Brunt - カトリナの求婚者)
Mark Spalding
(Jonathan Masbath - 村長の使用人)
Marc Pickering
(ジョナサンの息子)
Claire Skinner
(Elizabeth Killian - 助産婦)
Steven Waddington
(エリザベスの夫)
Sean Stephens
(Thomas Killian - エリザベスの息子)
Michael Gough
(James Hardenbrook - 公証人)
見た時期:2000年5月
探偵小説的なネタはばらしません。
周囲の発展から取り残されて居眠りしているようなニューヨークの後ろ側に隠れた村スリーピー・ホローの物語。アメリカでは有名な話だそうです。ニューヨークは以前ニュー・アムステルダムと呼ばれていて、1625年頃からオランダ人が入植したという話は聞いていたので、スリーピー・ホローにオランダ人の名前がたくさん登場するという話にはどうにかついて行けました。イギリス系の人たちが羽振りを利かせ始めたのが1600年代後半。で、その後名前もアムステルダムからヨークに変わっています。
ティム・バートンのスリーピー・ホローにはワシントン・アーヴィングの原作があるのですが、ドイツの報道ではバートンはかなり変えているとのことです。原作にはドイツ的な香りもあるそうです。史実との関係では
・ 1612年 オランダ人がニュー・アムステルダムを作り、入植を始める。
・ 1600年代後半 イギリス勢が強くなる。
・ 1691年から1693年5月までの2年弱 アメリカ最後、最大、最悪の公式魔女裁判 逮捕 200、死刑判決 30、絞首刑 19、拷問死 1、獄中死 2、逃亡 1、死刑延期 2、自白で恩赦 5。
・ 1775年 独立戦争開始 この頃ヘッセンのヴィルヘルム皇太子が傭兵の出張サービスをする。スリーピー・ホロウの物語の少し前、独立戦争当時は2400人ほど送っている。
・ 1776年 独立宣言
・ 1783年 独立戦争終了(英国の承認)
・ 1799年 話の舞台
・ 1820年ごろ ワシントン・アービングがスリーピー・ホロウを書く。
・ 1999年 映画スリーピー・ホロウ
となっています。
バートン版のスリーピー・ホローでは・・・
ニューヨークで科学捜査を試みる警官イカボッド・クレーンは新しい方法にためらう人たちから煙たがられ、体よく田舎村のスリーピー・ホローへ捜査に行けと追いやられます。この村には恐怖の連続殺人鬼が徘徊しており、解決は難しそう。まだ犯人がその辺をうろついているので、もしかしたらうるさいクレーンもついでに・・・と期待がちらりと見えます。
イカボッド・クレーンはマーク・ベネケの走り。自分で開発した新しい器具を鞄に入れて持ち歩き、死体を見つけると「動かすな」の一言。死体だけでなく、周囲の状況にも目を配ります。唯一の欠点は臆病で、血を見ると気分が悪くなるところ。頭はべらぼうに良く、熱心に専門書を読む勤勉な警官です。
村人の報告によるとこれまでに3人殺されていて、いずれも犯人が頭を持ち去っているとのこと。犯人が死人の身元を隠したり、死体を隠したりしている様子はなく、犯人は時々姿を見られています。大柄、馬に乗り、長い剣を持って襲って来るとか。人間業とは思えぬスピードで現われ、さっと首をはね、首を持ってさっと消えてしまいます。疑われているのはドイツはヘッセン出身の騎士。独立戦争で敵にやられて死んでいるはずなのですが・・・。
ヘッセンというのはドイツの州(地方)の名前で、有名な都市はと言われるとすぐ挙がるのがフランクフルト。最近ではヘッセンからカンニバーレが登場して話題をさらいました。もっと良い話題では、国際空港があり、毎年本の見本市が開かれ、アップル・ワインが有名です。フランクフルト・ソーセージという名前でも有名。さて、イギリスとフランスが戦っていたはずの独立戦争でドイツ人が何をしていたのかと言うと、イギリスに雇われて戦っていたのです。有り体に言うと傭兵。あまり聞こえの良い職業ではありません。伝統的にヘッセンの傭兵は強かったようです。ドイツの中で特に資源も産業も無かったヘッセンは当時、傭兵を養成して外国に貸し出していました。上に書いたヴィルヘルム王子のお父ちゃんも同じ稼業で大儲け。息子も金儲けが上手だったようです。ドイツの傭兵は随分多くの戦いに参加し、兵を派遣した貴族は儲けています。が、独立反対派についてしまったのが不運。この戦いでは戦死者続出です。クリストファー・ウォーケンはその幽霊に扮しています。監督がコメディーを作っても、ウォーケンは大まじめ。恐い幽霊です。
さて、話はアメリカに戻って、ヘッセンの騎士の幽霊が首を集めて歩いているというのが村人の解釈。これでは科学捜査のベネケ氏、クレーン刑事は納得できません。で、村に泊まって捜査続行。こんな小さな村にホテルなどはないので、イカボッドは村の長老の家に泊めてもらいます。
イカボッドは大都市から来たお偉いさん、よそ者ですが、泊めてもらった豪農ファン・タッセル家の令嬢カトリーナに一目惚れしてしまいます。カトリーナに求婚しているブロム・ファン・ブルントという強敵がいますが・・・。ここから原作を徐々に離れて行きます。イカボッド・クレーンはどうやら原作ではさほどカッコイイ役ではないようです。バートンはイカボッドを勇気ある英雄でなく、おびえると気絶してしまう、変な物を見ると吐き気をもよおすというという風にして、原作の香りを残しています。それを演じるデップが絶妙で、バートンが来るとデップは演技の花が開くという感じです。
イカボッド到着までに死んでいたのが村長のマーチン・ランドウ、その息子、未亡人。到着後また事件。今度は村長の家の使用人がやられます。判事がイカボッドに「もう1人犠牲者がいる」と告げた直後同じく殺されてしまいます。もう1人というのは未亡人のお腹にいた子供。次に村の助産婦一家がやられます。ついでにイカボッドのライバルのブロムも殺されてしまうのですが、この頃までにイカボッドは「この殺しには一定の法則があり、ブロムはそれに含まれていなかった」という事に気付いて来ます(かなり原作から外れた)。
この横で一見関係なさそうにイカボッドの幼年時代が出て来ます。やさしく美しい母と、その母を殺した父。殺され方がおどろおどろしい。母親は魔術を心得ていたようです。魔女狩りの時代は終わりに近づいていますが、まだ完全には終わっていません。父親が母親を殺すという残酷な方法で母を失ったイカボッドですが、恋をしたカトリーナも悪魔の記号を知っている様子。それが謎を深めます。
魔女というのはキリスト教に帰依せず、古くから土地に伝わる医術などを使う人々。当時欧州に行かなかったので無事でしたが、アジアで漢方を心得ている長老たちは危なかったのです。患者の肌の色、髪の輝き、爪の様子、行動などを総合的に見て病気の診断を下し、植物の根っ子や葉っぱを煎じた薬で患者を治したり、針を刺して痛みを取り除いたりしたら、これは完全に魔女。アメリカでそういう事のできる女性の息子イカボッドが医学を勉強し、それを駆使して検死という商売につくというのは何となく納得できますが、50年ほど前に生まれていたら、彼の命も危なかったかも知れません。
ドイツも魔女狩りとペストで中世から近世にかけて社会はがたがた。人口が激減。魔女裁判そのものは欧州では1790年頃終息。アメリカでは公式裁判は上に挙げた17世紀の終わりと言われています。ドイツは1775年頃。しかし最後の犠牲者は1900年代の始めに出たという話を聞いたことがあります。場所は東西ドイツの国境近くでやや北側。魔女狩りの犠牲者の総数にはさまざまな説があり、多い方では900万人、少ない方では30万人という説があります。大半は女性ですが、男性も混じっています。ペストの犠牲者は一説に2500万人といわれています。ここで考慮しなければ行けないのは当時の人口。2500万人というのは当時の欧州の全人口の4分の1だそうです(ペストは欧州だけでなく他の大陸も襲っており、世界全体では7000万人ほどが犠牲になったという説があります。疫病に襲われた町の様子はケネス・ブラナーの The Periwig-Maker 参照)。スリービー・ホロウ連続殺人事件の頃はアメリカも欧州もようやくこのダメージから立ち直り始める時期でしたが、魔女裁判とペストが終わると独立戦争があり、ゆっくり人生を謳歌するという時代に入るのはもう少し先の話です。
そういう時代背景があるのですが、幽霊騒動の動機は何か。幽霊は自分の首を探し回っている様子なのですが、人が順番に殺されて行くと得をする人も出て来る・・・と探偵稼業のイカボッドは気付いて来ます。何と得をするのは彼が一目惚れしたカトリーナ。これではハッピーエンドにならない!?・・・ので話はまだ続きます。
ちゃんとホラー映画になっていながら、推理物でもあり、パロディーでもあり、コスチュームとセットは滅茶苦茶凝っています。出演者はイギリスとアイルランドから演技派を動員。特に長老や判事などにすばらしい人材を集めています。日本ではどの程度有名なのか分かりませんが、カトリーナの父親役のマイケル・ガンボンと判事のクリストファー・リーは絶対に見逃せない人たちです。アメリカから参加のクリストファー・ウォーケンがチラッとでも顔を出すと大喜びという向きもあるでしょう。ナイトメアー・ビフォア・クリスマスをご存知の方は是非その辺にあるかぼちゃに注目して下さい。
絵になるシーンも満載されています。ポスターになった大木、これがあのクリスティーナ・リッチかと呆れるような美しい淑女カトリーナ(ええっ、リッチが淑女!?)。時代を反映して鬘などをかぶっている長老たち、当時は最新の、しかし今見たら骨董品のような検死用の器具。凝りに凝っています。
リサ・マリーはバートンにインスピレーションを与える人として有名でしたが、 2人のコンビは猿の惑星で終わり。もったいない。リサ・マリーは多才な人で、しかもあまり大きな名声は目指していないようで、マイペース。バートンの方は新しい奥方と子供まででき、現在は英国の方を向いているようです。
ジョニー・デップはここでまた最高の演技を見せてくれ、バートン&デップはゴールデン・コンビだと納得。デップはいくつか探偵的な役をやっていますが、イカボッドが最高です。
この後どこへいきますか? 次の記事へ 前の記事へ 目次 映画のリスト 映画一般の話題 映画以外の話題 暴走機関車映画の表紙 暴走機関車のホームページ