映画のページ

フェイク /
Donnie Brasco

Mike Newell

1997 USA 127 Min. 劇映画

出演者

Johnny Depp
(Joseph Pistone/
Donnie Brasco - FBI覆面捜査官)

Anne Heche
(Maggie Pistone - ジョゼフの妻)

Al Pacino
(Lefty Ruggiero - マフィアの使い走り)

Michael Madsen
(Sonny Black - 最近番頭役に取りたてられたマフィア)

Bruno Kirby (Nicky)

James Russo (Paulie)

Zeljko Ivanek
(Tim Curley)

Gerry Becker
(Dean Blandford)

Robert Miano
(Sonny Red)

Brian Tarantina (Bruno)

Paul Giamatti
(FBI技術屋)

Ronnie Farer (Annette)

見た時期:2004年5月

★ 危ない立場 - 意外と平気

サルマン・ルシディーなどを見ていても思うのですが、命の危険があるからと当局に匿われている有名人がどうして記者会見の席に出て来たり、映画の制作協力をしたりできるのか不思議です。この物語の原作を書いたジョセフ・ピストーネという人は本物の FBI 捜査官で、6年間マフィアのファミリーに潜入し情報を集め、200 件告訴に持ち込んだ人です。仕事が成功した後報奨金 500 ドルと表彰メダルをもらって表の世界から姿を消したはずなのです。

しかしその後事件に関する本を書き、この映画の制作でもジョニー・デップに会うなど具体的に関わっています。会見に現われた人はフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーのように顔が見えないような仕掛けになっていたそうですが、実はそれもスタントマン、フェイクだったのでしょうか。まだマフィアからは懸賞金が出ていて有効なそうですから、日本までの航空券払って、一発お見舞いと考えるアメリカのやくざがいたら危なかったはずです。

★ あらすじ

実話という触れ込みのフェイクですが、ストーリーは単純。70年代のニューヨークを根城に活動していたマフィアの中に FBI が囮捜査官を送り、情報収集をやらせていました。足がかりを作るために最初、フェイクの喧嘩をしてみせ、お人よしの、やくざとしても芽の出ないうらぶれた男レフティーの歓心を買うのに成功します。捜査官は宝石商ドニー・ブラスコという触れ込み。別な捜査官がレフティーに借金の形に渡した指輪があり、それをブラスコがフェイクだと見破る芝居をして見せ、レフティーの信用を得ます。レフティーは仕事さえ犯罪に関係していなければ、ごくごく当たり前の中年のおじさん。これまでこれと言って大きな働きは無く、世間に認められることもなく、うらぶれた、しおたれた男。この世界でもやはり押しが強いか残忍でないと上には上がれません。サラリーマンで言えば窓際族。

レフティーはどこからともなく現われたドニーに注目し、息子のように大切にし始めます。実の息子は薬中でものになりません。いったんはあきらめていた夢をドニーを通してもう1度と考え、親身になってやくざの世界の ABC を教えます。筋のいいドニーはやがてレフティーを追い越して行きます。それでもレフティーは怒らず、ドニーを見守ります。

仕事の方はどんどんはかどり、FBI はせっせと情報を集めます。これと言った特別なプロジェクトがあるわけではなく、取れる機会に逮捕に必要な証言や写真を集めているだけです。セッティングをやっている同僚の捜査官の間が抜けているため、途中であまり頭の切れの良くないレフティーでも不審を持つようなミスを犯します。レフティーはそれでもドニーを密告することができず、自分1人の胸にしまっておきます。これがレフティーにとっては命取りになりますが、命は最初にマフィアに入った時から、いつ失うかだけが問題で、その時点でもう選択はしてしまっています。ピストーネの方は、レフティーだけには良い思いをさせてやろうと思い、仕事中にせしめて隠してあった金を彼にやろうと考えます。しかし時間切れでドニーは検挙という形で退場。

実はドニーは FBI だったのだと後日 FBI がマフィアに写真をつけて報告に来ます。逮捕の手間を省き、ファミリーの中で処刑が行われるのを期待して。国家予算を節約する方法なのでしょう。ドニーがレフティーに金をやってボートを買わせようとするシーンは理解に苦しみました。ドニーは規則を違反していたのでしょうか。レフティーを逃がそうとしたのか、一時の夢を見させようとしたのか、その辺の説明はありません。この後ドニーことジョセフはイレーザーアサインメントの世界。新しい名前とアイデンティティーをもらって新しい生活を始めたことになっています。インタビューにのこのこ出て来て大丈夫なんだろうかと考えてしまいますが。

★ 普段より良かったパシーノ

というわけで虚構の関係の中にできた友情というのがテーマ。騙されてしまう男、芽の出ない中年男のペーソスを出すのがアル・パシーノの役目。私はこれまでのパシーノよりは良かったと思います。彼は舞台役者のせいかオーバーアクションが目立ち、映画ではあまり好きではありませんでした。偉大な俳優ということは認めてもいいかも知れませんが、でしゃばり過ぎるという印象だったのです。そういう役をもらってしまうのだから仕方ないですけれど。

それががらっと立場を変え、フェイクではさえない男の役。パシーノが一生をマフィアの役に捧げるのは運命なのかも知れませんが、ドンの役でなく、しがない窓際マフィアの役の方が、役者としての能力を発揮するチャンスがあったというのは皮肉なものです。手を抜かず、丹念に演じています。こういう役をたくさんやっていたら、私はパシーノ・ファンになっていたかも知れません。偉大な俳優と言うと、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロなどがいますが、フェイクのようなきめの細かい演技をされると、ライバルの2人はかすみます。これができるパシーノ、なぜこれまでこういう能力を隠していたんだろう。

★ 脇役デップ

デップは賢明です。ほとんどパシーノをやり過ごすと言ってもいいぐらい引っ込んだ演技。パシーノ相手にでしゃばっても役に立ちませんし、今回地味演技で迫るパシーノ相手に自分も地味演技をやると、自分の方がお粗末に見えてしまいます。地味演技でもパシーノはやはり目立ってしまいますからね。パシーノを映すスクリーンの役をやるというのは名案。そして時たまチラッと表情でアクセントをつけています。この人は作戦勝ち。デップは自分がでしゃばるべき時、引っ込むべき時を心得ている人のようです。でしゃばるべき時は数年後に来ます。

フェイクビッグ・フィッシュのように新旧のベテランがどちらもしゃしゃり出て、大きく演技するべき作品ではありません。いつばれるか分からないというどきどき、びくびくするフィーリングも主役。ばれるかも知れないというドニーの恐怖と、自分はまずい相手を信じたのかも知れないというレフティーの恐怖も生きて来ないと行けません。そのあたりはうまく行ったように思えます。ややバランスを欠いていると思ったのはドジをやる FBI の同僚。しかし実話だったのでしたら仕方がありません。

★ 男が主演

これは男の映画で、ジョセフの妻を演じたアン・ヘッシュはあまり見せ場がありません。FBI や警察の囮捜査官の家族が苦悩するという話は最近時々あります。映画がそういう面を描くのはいいです。このぐらいの犠牲を払って安月給で悪と戦っているんだという宣伝を警察の側がやるのは、ギャングが美化される映画がある限り、バランスを保つ意味でもかまわないと思います。ですが、せっかくそういう面を描くのなら、女性が仕事の邪魔になっているような描き方をしたり、男性が家庭を壊す男というようなステレオ・タイプの描き方をせず、もう少し深みを持たせてもらいたいものです。

大昔、フランケンハイマーのグランプリという映画がありました。作品全体は、華やかな F1 の世界ツアーに映画館の観客も一緒に連れて行ってもらうという趣向なのですが、主演のレーサーたちのカップル、家庭が、さまざまな背景の元、危なっかしくなっている様子を上手に描いていました。いくらでも有能な脚本家を抱えるハリウッドなら、捜査官の家族の話でもその程度のストーリーは朝飯前なのではと、ついぶつくさ。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ