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ロバート・デ・ニーロはコメディーに向くか

Robert De Niro

1943 New York, USA

実はロバート・デ・ニーロの事を書こうと思って始めたシリーズだったのですが、どういうわけか手元が狂ってオープニングはウド・キアーになってしまいました。しかしそろそろデ・ニーロが登場しても良かろうという気になりました。

デ・ニーロはコメディアンとして出発した人ではないのですが、ジャッキー・ブラウンを撮っている頃どこかのインタビューで「僕はこれからコメディー業界に進出するんだ」と言っていたのを見たことがあります。おもしろい事を言う人だなあと思ったのを覚えていますが、まさか本当にその気で計画を立てていたとは知りませんでした。コワモテのマフィアの役が似合う人だと思っていたので、ジャッキー・ブラウンの役ではすでにその計画を実行に移していたのだと気付いたのはかなり後の話。

長く続いている上、有能な俳優が続出したのにもかかわらず私はメソッド・アクティングというのが苦手。上手だということはいくらでも認めますが好きになれない有名俳優がたくさんいます。スーザン・ストラスバーグという女優をテレビで見た時も、テレビ俳優にしては随分密度の濃い演技をするなあと感心。ですから演技を誉めることにためらいはないのですが、好きかと聞かれると、「いや、ちょっと・・・」。

メソッド・アクティングというのはアメリカの代表的な演技の学び方のように言われていますが、その源はチェーホフ、スタニスラフスキーによるモスクワ芸術座。チェーホフは劇作家として有名、スタニスラフスキーは演技指導の方法で有名ですが、実は2人は一緒にモスクワ芸術座を創立しています。目指すは新しい、斬新な演技。

それがどういうわけか大西洋を渡り、アメリカに伝わり、3人の後継者を作ります。日本ではリー・ストラスバーグが有名です。ドイツではステラ・アドラーが有名です。その他にスタンフォード・マイスナーという人がいます。どういうわけか全員ドイツ系の名前を持っています。

ストラスバーグは俳優の人生、経験をベースに演技をしろと言う人、アドラーは自分のいる環境をベースに演技をしろと言う人、そしてマイスナーは考える前に行動し、繰り返し練習しろと言う人です。デ・ニーロはアドラーの弟子です。

彼はマルチン・スコシージとの縁が深く、70年代前半から一緒の仕事が始まります。マフィアというテーマもあり、犯罪者の役が多いです。アドラーに従うとすれば、ニューヨークの犯罪の多い場所にいた俳優を目指す青年が、マフィアの役を頻繁に引き受けるというのは教えに従ったと言えるでしょう。(後記: イタリア人からは最近イタリア人をすぐマフィアと結びつける原因を作った元凶として非難を受けています。(2004年8月))

オスカーももらっていますが、意外なことに私には代表作と思える作品ではノミネーションに終わっています。

彼が出演した作品で見たものはかなりの数になります。まだ抜けているものがあるかも知れませんが一応こんな感じです。

俳優生活の大部分はシリアスな作品にささげたという感じですが、ジャッキー・ブラウンの役は刑務所から出て来たはいいけれどボケが始まっている手際の悪い小悪党という、およそデ・ニーロらしくない役で「いったいどうなってるの」という印象が残っています。この時すでに本人はコメディーを始めたつもりだったのかも知れません。

しかしストーリーがはっきりコメディーだと銘打っていなかった上、彼の役は笑おうと思えばまあ、笑えますが、ボケというのは誰にでも起こり得るマジな症状で、人の不幸を笑ってしまっていいものかというためらいもありました。 もしデ・ニーロがこれをコメディーと取っていたのなら、私にはあまりちゃんとそのメッセージが伝わって来ませんでした。

アナライズ・ミーはそういう意味では明らかなコメディー。共演にベテランのコメディアン、ビリー・クリステルを連れて来ています。宣伝の時もはっきりコメディーだと断言して、興行的にはかなり成功しています。私もそれ以来デ・ニーロは長い間コメディーしか見ませんでした。アナライズ・ミーアナライズ・ユーミート・ザ・ペアレンツの中では1番おかしかったです。しかしまだ彼は周囲の人にサポートされているという印象です。クリステルは共演者としてもちろん全面サポートしていますが、その他にクリステルの息子役のKyle Sabihy、デ・ニーロの世話係の Joe Viterelli の2人にもがっちり脇を固めてもらって初めておもしろさが出るという作りになっています。(後記: Viterelli は惜しくも亡くなりました。彼がいないともうアナライズはできないでしょう。)

その辺本人もよく知っているんでしょう。ミート・ザ・ペアレンツでは別なコメディーのベテラン、ベン・スティラーを共演に据えています。しかしながら私の目にはミート・ザ・ペアレンツはそれほど愉快には思えませんでした。ミート・ザ・ペアレンツも続編が計画されたようですが、その後あまり話を聞かなくなっています。(後記: と書きましたが、その後続編が作られています。 2012年1月)

アナライズ・ミーの続編アナライズ・ユー はシリーズ2作目ということでやはりちょっと輝きを失った感じがします。前作のボーナスがまだ生きていて、失敗作にはなっていませんが、コメディアンとしてのデ・ニーロはあまり良くなっていません。壁にぶつかってまだその先に出ていないという感じです。この作品には別な収穫があります。昔の俳優はどの分野を専門にしていようがお構いなしにオールラウンドの教育を受けたそうですが、デ・ニーロもかなり色々な事を勉強していたそうです。刑務所をごまかすために気が狂ったふりをするシーンであろうことかウエスト・サイド物語の歌を歌い始めます。これがしつこくて、かなりの分数になります。しかし彼はちゃんと歌えるんですねえ。そんな事全然知らなかったので驚きました。

興行的には成功しているのになぜ私の点が辛くなってしまうかと言うと、私にはデ・ニーロがコメディアンとしてももっと高い所へ行けるという気がするからです。制作会社の持ち主としては当然興行成績がかなり重要。ですから作るからにはある程度成功しなければなりません。それで名のある人にサポートを頼んでいるようですが、この何でもできてしまう俳優にはコメディーというのがどういうものかという事を学ぶぐらいの力はあるような気がします。メソッド・アクティングで力を入れ過ぎているのが行けないのではという気がするのです。ここで力を抜いて、馬鹿をやってみたらどうだろう・・・というのが私の提案です。

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