映画のページ
考えた時期:2004年7月
井上さんの質問に乗せられてつい書いてしまいました。
★ 普通は地元色がある
ドイツのと言っても私はベルリンの映画館しか知らないのですが、最近はベルリンは首都に返り咲いたので、ベルリンがやっている事を他の州も真似するということもあるかも知れません。まあドイツの代表ということにしておきましょう。ただドイツは連邦制なので、東京やパリと違い、ベルリンがこうだから、全国はざーっとベルリンと同じ事をやりたがるというお国柄ではありません。地方色を止めようなどという気はさらさら無いという国です。
★ 映画館には無い
まず一般的な映画館事情ですが、大手のコンツェルン支配があり、そういう点ではベルリンの様子と他の大都市の様子はさほど変わらないと思います。小さな映画館は個性があり、馴染みの客などができたものですが、いつの頃か町中どこでも同じプログラムをやるようになり、個性が残るのは建物の様子だけとなって来ていました。最近は大手がはっきりグループ化を始め、淘汰されてしまった小さい館が出ました。大手の場合どこへ行っても形式が似ており、下手をすると中へ入ればインテリアなどは全部同じになりかねないところでしたが、少なくとも建物の外枠に合わせて各館多少デザインを変えていますので、自分が今どの映画館 にいるのかという区別はまだつきます。
★ 古い映画はダメ
大きなグループと言うと、Cinemaxx、Cinestar、Yorck/Delphi といったグループがあります。Cinemaxx と Cinestar はアメリカのブロックバスターが中心。Yorck/Delphi 系はドイツ映画にも力を入れています。いったい全部でいくつのグループがあるのかは分かりませんが、私が不満に思うのは、一般公開の時期が2週間、4週間などとなっていて、その時期を過ぎてしまうと、古い映画を見ようにもやっている映画館が無いことです。超一流映画館の後、やや小さめの映画館が1年以内に上映するというところまでは追いかけが可能なのですが、2年、3年経ってしまうともう絶望的です。あとは近くの店に行って DVD を借りるぐらいしか方法がありません。
それがまた簡単でなく、最近流行ったブロックバスターは半年もしないうちに DVD が出たりするのですが、大ヒットしなかった作品は無視されることもあります。その上昔ビデオになった映画で DVD 化されない物もあるので、本当の映画ファンですと、まずできる限り映画館で見る、そして家には DVD とビデオをそろえる、しかもテレビのプログラムにも注目ということが必要で、テレビの無い私には到底できることではありません。ベルリンですと1軒だけかなり珍しい作品も揃えているビデオ屋さんがあるのですが、ビデオを再生する装置が家に無いとお手上げ。もっとも《本当の映画ファン》と自分では思いたい私め、見た映画を静かにゆっくり頭の中で味わうことも必要だと思うのです。ですから、ビデオやテレビまで揃えなくてもいいのでは、と負け惜しみも言っております。
★ 映画館で何を売っていないか − パンフ
映画館の中で何を売っているかという話なのですが、まず最初に何を売っていないかという話を始めなければなりません。
絶対に売っていない物はパンフ。あの素晴らしいパンフは絶対にベルリンでは買えないのです。キオスクに行って、「5 ユーロ払う」、「10 ユーロ払う」と言って みても、そういう印刷物を作っていないので、買うことができないのです。これはコンツェルン系の大手も場末のしがない映画館でも全く平等な不自由さです。
しかし何を隠そう、日本のパンフに書いてあるような情報を印刷したペーパーはちゃんと存在するのです。誰が隠し持っているか ― 答はジャーナリスト。記者証を持ったジャーナリストにはどうやら配給会社から無料で配られているようなのです。記者として登録してある人に郵便で大型の封筒が送られて来ます。それが大きさ容量などで言うと日本で売っているパンフに相当します。書いてある内容も日本で売っているパンフに相当します。偶然手に入れて、見て、「なんだ、この情報ならある謎の人物から送られて来る日本製のパンフと全く同じじゃないか」と思ったことがあります。私は記者でもなく、全く普通の観客なので、うちにそんなパンフを送って来る会社はありません。知り合いが試写会に呼んでくれたことがあり、その時に会場で無料配布になっているのを、知り合いに促されて家に持ち帰ったことがあるのです。
★ プロ向けの試写会
話ついでにこの試写会ですが、結構いい会場を使い、日によっては1日に2回新作を上映します。たいていは封切りの少し前で、ファンタのように1年も前から見られるということはありません。言葉は翻訳してある場合も多いです。タイミングとしては、一般公開のかなり前に行なわれるベルリン映画祭がバイヤー向けの見本市。これは翻訳無し、字幕も無い場合もあります。一般人も入場料を払えば見られます。ノーカットが普通です。
それを見て映画を買ったドイツの配給会社が、封切りのスケジュールを決め、準備。半年から1年先に公開ということが多いです。その一環としてドイツ語に翻訳し、声優に録音させるという作業があります。映画祭の後、公開までには何ヶ月かかかるようです。アテレコなどができたところでジャーナリストに作品を見せていい評価をメディアで発表してもらおうというのが試写会の趣旨。ですから、試写会というのは公開の少し前、気持ちのいい映画館で行なわれ、和やかな雰囲気でコーヒーが出たりします。ジャーナリストもお互いに顔見知りらしく、和気藹々という人たちが何人も見られました。本来は正式の記者証を持ったジャーナリストだけの集まりなのですが、どういうわけか知り合いはそこに上手く紛れ込んでおり、たまに私をさらに紛れ込ませるということをやっていました。(詳しく書きませんでしたが、ドイツのバイヤーが海外の映画 祭に参加して作品を買い付けて来るというルートももちろんあります。)
★ 映画の記事
ジャーナリストはたいていそこで配られたペーパー、写真、最近では ROM もあるようですが、そういったものをベースにして、映画を見て感想をまとめ、雑誌に記事を出します。人によっては自分で研究した内容を加える人もいますが、かなりのところまでペーパーに書いてあるので、記者はただ文章を自分流に書き直すだけという場合もあります。それでどの会社の記事を見ても似たり寄ったりということもあります。時には粗悪品の批評もあり、「お主、本当に作品を最後まで見たのか」と言いたくなるような解説もあります。結末が違っているような横着ミスもたまにあります。
日本では配給会社が大盤振る舞いで、そういった資料をパンフレットという形にし、素敵な写真をずらずら並べ、プロダクション・ノートなどというタイトルでおもしろいエピソードまで列挙してくれます。それをちょっとした値段で売り出すので、会社の収入にもなり、双方が満足。ドイツではそういう情報は記者と配給会社の外へはあまりたくさん出ません。好きな映画があって、写真が欲しくても一般人が手に入れるのは大変。普通の雑誌には小さな写真しか載っていなかったり、字が写真の上に書いてあったり、とファンは色々苦労します。そういう写真の専門店というのが数件あるのですが、大きな都市に住んでいない人は気の毒。たかが映画ですが、情報の分配という点では日本の方が民主的だなあと思います。
★ ドイツの映画館で売っている物 − アイスクリーム
売っていない物を最初に書くという暴挙をやってしまいましたが、普通の映画館のキオスクで売っている物はと言うと、ええっと、
・ 瓶や缶に入った飲み物
・ アルコール飲料
・ 袋に包装された食べ物(チョコ、チップス、ナッツ)
程度です。
・ 包装されたアイスクリーム
を売っている所もあります。
以前はドイツでは典型的だったそうで、最近では滅多に見られないのが、アイスクリーム売りが客席に来るというシーン。私は Kudamm という目抜き通りの映画館でそういう人を見たことがありますが、これがほとんど最後の館だったようで、その後は滅多に見なくなりました。ちなみにこの映画館はつぶれました。アイスクリーム売りは観客が着席し、予告や CM が終わったところで登場。映画館はここで1度明かりをつけます。十分にアイスクリームが売れたところで暗くなり、本編開始というのが伝統だったようです。
★ ドイツの映画館で売っている物 − その他色々
さて、死に絶えつつある伝統的な映画館に代わり、大手の映画館の登場。Cinemaxx 系、Cinestar 系など超近代的なのがいくつかありますが、売っている物は大体同じ。ここでもパンフレットは売っていません。そういう物が存在しないのだから仕方がない。不思議に思うのは、映画に関連するグッズも売っていない点。自分が資本主義の国から来たなあと溜め息が出ますが、心の葛藤が始まります。店の視点で行くと、バットマンを公開する時にはバットマン・グッズを売れば儲かるだろうなあとか考えてしまうのです。しかし客の視点で行くと、ゆっくり映画を見させてくれる、余計な物は押し売りしないというドイツの姿勢に感謝。日本に行くと素敵な物をたくさん売っているので楽しいなあと思う反面、どこに行っても誘いがかかるという煩わしさも感じるという風に心が揺れ動いております。
さて、大手の映画館で売っている物は、上に書いた物に加え
・ 袋でなくバラのポップコーン
・ バラのナッチョス(メキシコ風のチップスとソース)
・ 紙コップで買える飲み物
です。最近ではバケツと言ってもいいぐらいのサイズの入れ物に入ったポップコーンや、1リッター入るコーラなど大型化しています。日本でもその辺は同じなのではありませんか。座席が2人掛けになっていてルンルンのカップル向けに売り出したようですが、実際には男の子が4人ぐらいで来て一緒に食べています。
ドイツに来てカルチャー・ショックに陥ってしまったのは、《ポップコーンは甘いのが主流》と知った時。私もたまにはポップコーンを買うのですが、あれは塩辛い物と思っていたので、パニック寸前。甘い方だけしか売っていない店というのが結構あるのです。
ナッチョスは常に塩味なのですが、ちょっとお腹に溜まり過ぎるので苦手。恐らく日本でも流行っているのではないかと思いますが、三角形の塩辛いチップスに、チーズソースかチリの入った辛いケチャップソースをつけたものです。そのほかにポテトチップスなども売っていますが、これは全てスーパーで買うのと同じ袋入りの製品。映画館で買わず、自分で持ち込んでもいいわけです。なにしろ映画館の値段は高い。
以前はドイツでは絶対に見かけなかったのですが、ファンタで数年前に初めて見たのが
・ 缶入りのコーヒー。
日本にあってドイツでは見られない物の1つに数えていたのですが、ファンタをロイヤルという映画館でやっていた時に1度主催者からもらったことがあります。映画館でしょっちゅう見るわけではありませんが、そういうコーヒーをドイツでも売っているようです。ただ、日本ほど好まれるわけではないらしく頻繁には見ません。
アルコールを映画館で飲んでもいいというのは日本はどうだったかなあ。良く覚えていませんが、自分では飲んだ記憶がありません。ドイツというのはビールが無いと生きて行けない木更津人のような人が多く、
・ ビール
はたいていの場所で飲めます。映画に来る人はちょっと気取ってワインも飲みたいらしく、
・ 小瓶のワイン
もたいていの映画館で売っています。そのほかにも
・ 度数の低いアルコール飲料
は手に入る館が時々あります。私などは映画見ていてアルコールが入るといい気持ちで眠ってしまう恐れがあるので絶対に飲みません。もう1つ日本ではあまり売っていそうにもなく、ドイツでは当たり前なのが
・ 瓶入りの水。
たいていは炭酸水です。アル中が多過ぎるという問題がドイツでも意識に上るようになり、水に切り換えようという動きもありますし、そうでなくても水を飲むのは一般に行き渡った習慣なので、映画館で金を払って水をという人もいます。日本にはあって、ドイツにはないのは緑茶、ウーロン茶など特にアジア的な物。これは仕方ありません。
映画に限りませんがドイツ人は移動する時に結構自転車を使うので、映画館で水を飲みたくなる気持ちは分かります。いくら清潔でもトイレの水を飲む気分にはなりません。というわけで有料の水も結構売れます。一般の飲み物は日本とさほど変わらず、
・ コーラ
・ ファンタ(オレンジは日本よりずっと色も味も薄い、グレープは絶対に売っていない、特殊な種類のファンタは映画館でコップ入りでは買えない)
・ スプライト
などです。
コップ入りで飲める物はあと
・ ホット・コーヒー。
小さな映画館では熱いコーヒーをわざわざ入れてくれる所があります。ドイツ人はコーヒー党が多いので、需要も多いです。紅茶はほとんどありません。
時々行く無料の映画館では、収入源がこういった菓子や飲み物。他の館では絶対に無いのが
・ 焼きソーセージ!
映画の最中にロールの交換が2度ほどあるのですが、その時に観客は売店でコーヒーを買ったりします。これまではコーヒー以外は袋に入った食べ物や瓶入りの飲み物に限られていたのですが、今年は庭の隅でグリルをやり、ソーセージが食べられるようになりました。ここには
・ 流しのプレッツェル売り(南ドイツに多い塩味のするパンを売る人)
が来たこともあります。
パンフが無いとぶつくさ言いましたが、最近1ついい出来事がありました。以前から UCI という系統のグループではスキップという無料誌を提供していました。通り一遍に間もなく公開される作品の紹介をするだけだったのですが、スキップの編集部が最近熱心になり、記事や写真が充実して来たのです。作品紹介だけでなくインタビューもあり、記事も長くなっています。お金を出して買っている雑誌に肉薄中。これが無料というのはありがたいです。しかしそれでも日本のパンフにはかなり水をあけられています。
ついでに言うと、ここ数年映画館で働く従業員が生き生きしていて、親切な人が多くなっています。不況の中でも映画館は取り敢えず生き延びています。大きな館を建て過ぎて倒産が始まるのではと心配しましたが、今のところ大丈夫なようで、館によっては催し物をやったりと色々企画にも工夫が見られます。
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