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Ray/レイ /
Ray

Taylor Hackford

2004 USA 178 Min. 劇映画

出演者

Jamie Foxx
(Ray Charles Robinson)

C.J. Sanders
(Ray Charles Robinson、少年時代)

Eric O'Neal Jr.
(Ray Charles Robinson、少年時代)

Tequan Richmond
(Ray Charles Robinson、少年時代)

Terrone Bell
(George Robinson - レイの弟)

Sharon Warren
(Aretha Robinson - レイの母親)

Kerry Washington
(Della Bea Robinson - レイの2番目の妻、元ゴスペル歌手)

Aunjanue Ellis
(Mary Ann Fisher - バック・コーラスの歌手、レイの愛人)

Regina King
(Margie Hendricks - バック・コーラスの歌手、レイの愛人)

Larenz Tate
(Quincy Jones - 下積み時代に知り合った音楽仲間)

Denise Dowse
(Marlene - クラブ・マネージャー)

Warwick Davis
(Oberon - クラブの司会者)

Robert Wisdom
(Jack Lauderdale - レコード会社の男)

Clifton Powell
(Jeff Brown - バンドのメンバー、マネージャー)

Curtis Armstrong
(Ahmet Ertegun - アトランティック・レコードの男)

Richard Schiff
(Jerry Wexler - アトランティック・レコードの男)

Harry J. Lennix
(Joe Adams - マネージャー)

Bokeem Woodbine
(Fathead Newman - バンドのメンバー、長年の友人)

Julian Bond (本人役)

見た時期:2005年7月

公開当時見たかったのですが、ただ券が当たらず(人様の好意なのに勝手な事をほざいております)、あれこれ忙しくしている間に大きな映画館での公開終了。最近近所の店にDVDが来たので、借りて来ました。

ポピュラー音楽でも必見。ソウル、ブルース、R&B のファンならこれを見ないで通るのはもったいないと言える作品ですが、映画ファン、伝記物ファン、演技に興味のある方ですと、私ならアリの方を推薦します。オスカーという限られた賞だけの視点で見ると、Ray/レイには主演賞が来て、アリには来ませんでした。しかし俳優の説得力という意味では歌手のウィル・スミスが演じたムハメッド・アリの方が、俳優のジェイミー・フォックスが演じた歌手のレイ・チャールズより優秀です。なぜスミスに賞が行かなかったのか。政治的な問題、あるいはタイミングの問題があったのかも知れません。将来フォックスが賞を取れるような時代を作るために、前もってスミスのような人がアリのような役でノミネートされて実績を作っておいたと考えるべきなのかも知れません。

そのおかげか、フォックスはその年2つの作品で主演賞と助演賞にノミネートされ、運良く票も割れず主演で受賞。おめでとうございます。努力賞に値します。俳優であるフォックスが歌手になり切っての演技。その上、顔の表情などはそっくりさんのコンテストで上位入賞間違い無いほど似せています。ムハメッドなのにウィル顔で通したスミスとは違います。

しかしこれが両者のでき具合を分けたと思うのです。ウィル顔で通したスミスは、アリの性格や生き方の研究にエネルギーを集中させ、そっくりショーではなく、スミスの演じるアリを重量級で見せています。それに対してフォックスはレイ・チャールズになり切ったため(ピアノを弾き、盲人生活を体験、努力賞もの)、フォックスのチャールズ解釈というのが無く、深さがやや不足気味。この辺は映画を見る人が何を期待しているかにも左右されるので、レイ・チャールズ再現を期待している向きにはフォックスの方がいい、俳優の力量を期待している向きにはスミスの方がいいということになるかも知れません。私はスミスを推します。

監督はおもしろい作品を作ったことのある人ですが、音楽映画と言われると「おやっ」と思う人。ところがさらに追求してみると、実は音楽に関心の深い人で、もう1人の巨匠チャック・ベリーに深く関わっています。Ray/レイを作るに当たってもかなり時間をかけている様子で、これも私が努力賞に値すると思う理由の1つです。

こういう伝記物にはそのジャンルのファンというのがいて、ソウル、ブルース、R&B のファンが、《レイ・サウンドはどういう風に生まれたんだろう》という興味で見ると、別な満足感が得られます。最近マルチン・スコシージが企画した大ブルース・ドキュメンタリー・シリーズがありましたが、ああいうのを見たがる人が Ray/レイを見ると、ドキュメンタリーにやや私生活の部分の再現フィルムを付け加えたような雰囲気で、レイ・チャールズの一生を3時間弱(!)の間に一気にまとめて見られる仕掛けになっています。何を隠そう、私は R&B が大好き。ソウルの元祖と言われているチャールズが、元々はナット・キング・コールのイミテーションをしていて、その後観客の好みやレコード会社の希望に合わせて徐々に変わって行く様子、神の音楽ゴスペルを、地上の恋愛にして身近な物にした様子が分かりやすく説明されています。私は現実にレイ・チャールズが麻薬と戦っていた時代にニュースを聞いていましたが、苦しい禁断症状と戦った後で裁判所に現われたため、当時まだ風当たりが強かった黒人のミュージッシャンに温情判決が出た報道を知っていました。当時の報道で受けた印象は、映画中の描写よりさらに苦しそうでした。

女性問題、お金の問題なども耳に入っていましたが、目が見えないハンディーを母親の助言と方針で克服しようとした姿勢は知りませんでした。日本では偉大な人物の後ろには偉大な母親か妻がいると言われることが多いですが、アメリカ人はあまりそういうことを言いたがりません。しかしレイ・チャールズのお母さんはできた人だったようで、心で泣きながら厳しく躾けたというエピソードが何度か出て来ます。作品中にはいつどこでどういう事情で亡くなったのかは出て来ませんが、故人のようで、思い出や夢の中に出て来るだけです。母の次に偉大なのが2番目の妻。レイが至る所で浮気をしているのを承知していますが、黙っています。愛人の1人が若くしてレイの子供を残して死んだ時も、残った子供の心配をし、送金したらと提案。アメリカ人レイに日本の伝統的な母親と妻がついていたかのような描写です。

レイ・チャールズという個人に対する批判的な視点は無く、弟の死に対する良心の呵責が生涯影響をしていて、見ようによってはそれが麻薬に走った原因だと解釈ができないこともないような作りです。注意深く見ていると、男女関係にだらしないチャールズも見えて来ます。ルーズな関係に正式の夫人も愛人も苦しんでいます。子供がいて巡業にいちいちついて行けない夫人は、愛人のことが耳に入っていても我慢。愛人は自分が正式の妻になる日が来ないことに絶望してか、麻薬とお酒浸り。古い耐える女性の図式が見えて来ます。普通の状況とやや違うのは巡業に出なければならないという職業に起因する問題。家を離れ仲間と旅を続けていると起こってしまう男女関係というのもあるのでしょう。そのうえミュージッシャンというのはサラリーマンと違い、元から不安定な職業。いつ首になるか分かりません。その日暮らし的な面もあり、刹那的になってしまう人も多いと思います。

音楽的にはコンサートDVDといい勝負。名曲が次々出て来ます。スターが音楽家を演じても、楽器の手元だけスタンドインだったり、画面では楽器を触るふりをしていて、体の動きが全然その楽器と親しんでいないことをばらしてしまったりすることがあります。歌手を演じていても喉を見ていると歌っていないのがばれてしまうこともあります。特にドイツには子供の時から本格的に音楽に親しんでいる人が多いので、いい加減な事をするとすぐばれてしまいます。そういう中で、俳優でありながら玄人と言えるほどの実力を持っている人もいます。 Ray/レイではその辺で失望することはありません。フォックスをミュージシャンとして売り出しても行けそうで、観客はハラハラせずに済みます。音楽の才能もあふれた人なのか、オスカー級の俳優で演じるのが上手いのか、それは映画以外で本人の演奏を聞いてから決めます。なんちゃって、聞くチャンスがあったらすばらしいだろうなあと夢見ております。

映画完成の頃に本人のレイ・チャールズは子供12人(クリント・イーストウッドも負けている)、孫23人を残して他界。いかに女性にだらしなかったか・・・ばれてしまいますねえ。しかしこれだけDNAをばら撒いておくと、子孫が優秀なミュージッシャンになるかも知れません。もうなっているもかも知れません。イーストウッドの方は父親の音楽の才能が少なくとも息子1人に受け継がれています。

制作に深く関わっていたレイ・チャールズはこの作品にお墨付きを与えています。なお、映画の最後に、レイ・チャールズはリハビリ後は麻薬に1度も手を出していないとの断わり書きもありました。ということは麻薬の助けを借りなくてもああいうサウンドが作れたのです。ブルース・ブラザーズの続編に登場しなかったのだけが残念ですが、ビジネスに経験を積んだ結果、ただ働きはしないと決心したのかも知れませんね。その点はこの映画を見ていると納得が行きます。

何を歌ってもレイ・チャールズ節になってしまう歌手。カントリーを歌ってもカントリーに聞こえなくなってしまうレイ・チャールズは、R&B とかソウルとかに分類せず、レイ・チャールズに分類するしかありません。

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