映画のページ

グエムル 漢江の怪物 / Gwoemul

奉俊昊

2006 Korea 119 Min. 劇映画

出演者

ピョン・ヒボン
(パク・ヒボン - 朴家の家長、キオスク経営)

ソン・ガンホ
(パク・ガンドゥ - ヒボンの長男、キオスク経営)

パク・ヘイル
(パク・ナミル - ヒボンの次男)

ペ・ドゥナ Bae
(パク・ナムジュ - ヒボンの長女)

コ・アソン
(パク・ヒョンソ - ガンドゥの一人娘)

オ・ダルス
(怪獣、声の出演)

イ・ジェウン
(セジン - 怪獣にさらわれた少年)

イ・ドンホ
(セジン - 怪獣にさらわれた少年)

ユン・ジェムン
(ホームレス)

Scott Wilson

David Joseph Anselmo
(Donald)

シン・スンニ
(ドナルドのガールフレンド)

クォン・ヒョクプン
(自殺する男)

Paul Lazar (医師)

Brian Rhee (医師)

見た時期:2007年3月

最近本当に短時間のうちに情勢がめまぐるしく変わると感じます。グエムル 漢江の怪物を見た時点ではまだ韓国の隣の国は核開発を中止するだろうと思われていました。そしてアメリカで学生射殺事件は起きていませんでした。5月も終わりになった今考えると不思議な気がします。

学生射殺事件の犯人はアメリカを新天地と思い、まだ小学生ぐらいの子供を連れて移住して来た家族。当時はアメリカは韓国人が行きたがる国ナンバー・ワンだった様子です。実は現在でも韓国人留学生はアメリカに来る留学生の中でも人数ではトップを占めており、一般的にアメリカという国は韓国人に好かれている様子なのです。国の方針と国民の希望は必ずしも一致しない様子です。そんな事も考えながらグエムル 漢江の怪物を見ると、国の事情というのは一言で言えるものではないのだと感じます。

韓国が怪獣映画に取り組んだという話はかすかに聞こえていました。ファンタにはここ数年韓国からいくつも作品が来るため、私も目にしているのですが、まだ韓国製怪獣映画というのは見たことがありませんでした。日本の怪獣映画はファンタでは時々上映され、ファンタ・ファンの中には怪獣ファンのグループがあるぐらいです。韓国に関してはそこまでの話になっておらず、ファンタに韓国の怪獣映画が来たという話も私の知る限りではありませんでした。それがファンタとは違う系統の映画館で上映。好奇心が沸いて見に行って来ました。韓国に過去にどのぐらい怪獣映画の伝統があるのかは知らないのですが、グエムル 漢江の怪物には気合が入っています。ハラハラするという意味では日本の怪獣映画とは全然違う作風で、私は客席で何度も体がびくっと動いてしまうほどの驚きようでした。

★ 誰に見せたかったのか、何を言いたかったのか

内容に注目すると、この作品、一体誰を相手に作っているのかが良く分かりませんでした。3つの要素が組み合わさっているのですが、そのコンビネーションが上手く機能するのかがよく分かりませんでした。

低い年齢層の少年少女相手ですと、怪物の恐怖がちょっと強過ぎるかも知れません。小学校低学年では見たら悪夢になるかなと思えるようなリアルな怪獣です。何もアクション映画を小学校低学年に見せる必要はないじゃないかとお思いかも知れません。

ところが家族関係の描写は非常に優しく、明るく、こんな家族がいたらいいなと思えるほどです。できの悪い父親、一家を切り盛りする祖父、まだ人生を理解せず不満を持っている父親の弟と妹、明るく育っている娘。それが一家最大の危機に瀕して徐々に家族愛に目覚めて行くのです。この点はまだ1桁の年齢の子供に見せてもいいと思いますし、子供について映画館に来る保護者の共感を呼ぶのではないかとも思います。

そこへボーンと飛び出す政治批判。アメリカがどんな傍若無人な事をやって韓国がそのために苦しんでいるかという路線なのですが、そんな話が小さな子供に理解されるか、そしてお子様向きの作品にここまであからさまに政治問題を絡ませるかが疑問で、私にはちょっと唐突に思えました。

もしかしてこれは子供向きに作ったのではなく、子供映画のふりをして実は大人向きだったのかと後で考えてみましたが、家族のシーンは子供に見せて充分通用する出来です。

もし韓国が怪獣映画を非現実的な映画ととらえ、政治問題を批判する場に使うと決心したのでしたら、それはまあ1つの方針なのでこちらからはあれこれ言わない方がいいのかも知れません。ただ、人の心に残るような批判がしたかったら間接的に出した方が効果があるのではという気がしました。

これまでファンタで見て来た韓国製大人向き犯罪映画、スリラーなどは、捜査、事件解明を中心に置く手法で、後で良く考えてみると韓国が置かれている複雑な立場を反映していたというものがあり、説得力があります。それに比べグエムル 漢江の怪物は図式があまりにも単純で、アメリカ軍がなぜ韓国に駐屯するようになったのか、韓国政府はその時々に何を敵と見なしどういう決定を下していたのかなどはすっかり飛んでしまっています。それをいきなり子供にドーンとぶつけていいものか。私はちょっと引いてしまいました。グエムル 漢江の怪物が実は大人向きの映画だとすると、複雑さが理解できる大人にこんな短絡なストーリーをぶつけては大人をバカにしたことになるのではと、これまた引いてしまいます。

米軍は日本にもおり、それを喜ぶ勢力と嫌がる勢力は最初からありました。そこになぜ米軍がいるのかについては日本人の方がある程度納得している人が多いのかも知れません。いたらいたで、いなければいないで問題は起きますが、50年代、60年代から現在までに受け入れ方が徐々に変わって来ています。2000年代はそれが再び大きく変化しそうですが、話し合いが盛んに行われ、メディアにも情報が流れて来ています。過程を理解する人も多く、正面から鬼畜米英と言う人はいません。そのあたりの事情が現代の韓国では日本と違い、その結果こういう映画ができたのではないかというのが素人考えですが、見ての感想です。

★ ストーリー

ストーリーは怪獣映画らしく、奇想天外で現実性を欠いていますが、全く違和感なく入って行けます。多分それは「これは怪獣映画なんだ」というお約束が感じられるからでしょう。

漢江という場所でキオスクをやっている一家が登場。家族構成はまだそれほど年でない祖父ヒボン、息子2人、娘1人。長男ガンドゥは妻に逃げられ娘ヒョンソを抱えるシングル・ファーザー。次男ナミルはまだ若いのに昼間から酔っ払っている男。長女ナムジュはテレビで放映されるぐらいの重要な試合に出るアーチェリーの選手です。貧しいながら楽しい我が家ですが、皆それぞれちょっと不満。それでもシングル・ファーザーのガンドゥは娘思いで、ヒョンソも明るく育っています。

祖父はしっかりした人で、家族全体を見守っていますが、長男はボーっとした男で、ドジばかり。弟と妹からも馬鹿にされ、娘にも文句をブーブー言われます。それでも中学生になる娘は叔父や叔母のように父親をバカにせず、父親も娘のためにできることをしようという気持ちはあります。その気持ちはお互い伝わっているようで、2人で一緒にテレビを見たりすると楽しそうです。

そんな平凡な1日が懐かしいと後で思えるような大事件が発生します。近くの川にこれまで誰も見たことがないような怪物が現われたのです。観客にはそれがどういう事情で起きたかが説明されています。

実は90年代から2000年代に入るまでに恐るべき事が起きていたのです。アメリカ人医師が毒物の瓶に埃がついていることに腹を立て、韓国人医師に流しから捨てるように命令を出します。「いくらなんでもそれは環境汚染になる、これは猛毒だから」と反対する韓国人医師に、権威をちらつかせ威張りながら命令を通すアメリカ人医師。

その後釣りをしている一般市民が妙な生物を見かけるなどのエピソードが示されて現代に入っているので、観客にはその動物が猛毒のせいで起きた突然変異の産物だと察しがつきます。それは現在ではちょっとしたクジラぐらいの大きさに育っており、魚のはずが地上を走りまわり、やたら敏速です。巨大な象が軽々とカンフーをしたような感じで、恐ろしく破壊力があります。象なら鼻ですが、この怪獣は尻尾が手のごとく自由に動きます。それにしても気味の悪い姿。

物見高い人たちも怪獣が自分たちの方へ向かって来るとパニック状態。ちょうどそこを通りがかったヒョンソも騒ぎに巻き込まれ、怪獣にさらわれてしまいます。娘の手を握っていたはずが転んだはずみでよその子供の手を握っており、娘は遠くで怪獣に連れ去られて行くところでした。必死に追っては見たもののあの速度ではかないません。

と同時に騒ぎでかけつけた警察か軍か分からない人たちに捕まえられ、一家は隔離されてしまいます。公式発表によると、この怪獣に接触した人たちには特殊ビールスが宿り、伝染性が強いので隔離となっています。最悪の場合は死。治療法は見つからず、《患者》は永遠に隔離されたままという危険が見えて来ます。完全にバイオハザード状態になってしまいます。

バイオハザード戒厳令が敷かれ、漢江は外出禁止、店は閉鎖となってしまいます。娘が死んだとは信じたくない朴一家ですが、娘の名前が被害者リストに載っており戒厳令で防護服を着た役人が葬儀場に乗り込んで来る直前に集団葬式。しかし隔離先の病院の携帯に電話が入り、父親のガンドゥは希望的観測ではなく、本当に娘が生きていることを知ります。そうなると助け出さなくては。これまでバラバラだった朴一家は、徐々にまとまり始めます。

キオスク経営でカツカツの生活をしていた朴一家には援助をしてくれる有力者もなく、現金も財産もありません。入院先でいくら「娘から連絡が入った」と言っても、良くて「パニックの後では(妙な事を言い出しても)仕方ない」という解釈、下手をすると頭がおかしいと思われてしまいます。そんな時これまで好き勝手をやっていた弟までが協力して4人は病院を脱走します。隔離先を強引に脱走した4人は早速全国手配。まるで犯罪者扱いです。

この後武器の調達、娘の居所調査など困難に立ち向かいながら徐々に目的に近づいて行きます。ハリウッド映画と一線を画しているのは、物事がそう簡単に思ったように行かない点。娘は生きていますが、1人で逃げ出すのは無理な状況。携帯を使って連絡を入れようにも、自分が話すだけで相手側の音声は聞こえません。他の犠牲者の衣類を繋ぎ合わせてロープを作っても長さがちょっと足りない。せっかく生存者が見つかり喜びはしたものの、自分が面倒を見てあげなければ行けないような小さな子供。ハリウッド風のハッピーエンドの期待を持たせておいて、さっと失望の方向へ。

怪獣はほとんどの犠牲者を食い散らしてしまうのですが、ヒョンソだけは殺しません。それで美女と野獣路線かと思うのですが、一向にそれは進展しません。ここでも期待を見事にそらせてくれます。

政府発表のバイオハザードは、朴一家が入院しても逃亡しても怪獣の捕虜になっても誰も病気の様相を呈しないので、あれ!?という風に思えて来ます。いったいなぜ戒厳令を敷く必要があるのかが分からないまま一家は怪獣追跡。怪獣が出たと思われる場所だけ警戒警報を出せば済むことではないかと思うのですが。そうこうするうちに観客は時間の感覚を失います。娘と少年は命が助かっているのですが、食べる物が無く、飲み水にも事欠く状態。他方、娘を探す一家はテレコムにアクセスできる知り合いに接触したり、態勢を立て直したりしています。ということは結構時間が経っているように見えます。

プロットの穴は多いです。そしてハリウッドの「重要人物は殺さない」家族愛の映画の原則を外し、気前良く犠牲者が出ます。この点は最近見たパンズ・ラビリンスも同じですが、私は「死んでしまったらお終いじゃないか」という意見で、たかが映画とは言え、あるいは映画だからこそ、努力をした人が最後少しは報われるようにしてもらいたいところ。(私も年じゃ・・・。)

怪獣はオーストラリア製とのことで、なかなか良くできています。キングコングと違い、両棲動物という設定で、表面がぬるぬるした様子、口の辺りが凶暴そうな様子がよく出ています。ピーター・ジャクソンが仕事の合間、週末に友達と一緒にコツコツと手製のSFを作っていた頃から考えると、オセアニア地方は大発展。外国から特撮依頼が来るほどに発展したというわけです。

余談になりますが、私はグエムル 漢江の怪物を見るまで韓国の事情はほとんど知りませんでした。漢江という大きな川があることも知りませんでした。この映画を見て暫くしたらヤフーのニュースに漢江で綱渡りの国際競技があると見出しが出たので、覗いてみました。何かの催しのアトラクションの1つでしたが、中国やロシアから出場した人もいて、映画に出て来たあの巾の広い川にザイルを渡し、長い棒を持って渡る人が映っていました。中には水に落ちてしまう人もいました。私は「怪物に食われるぞ」と思いながら見ていました(笑)。グエムル 漢江の怪物を撮影したのと同じ場所だったのかも知れません。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ