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2006 Neuseeland 87 Min. 劇映画
出演者
Peter Feeney
(Angus Oldfield - 羊牧場の持ち主)
Nathan Meister
(Henry Oldfield - 羊牧場の持ち主の弟、羊恐怖症)
Matthew Chamberlain
(Oliver Oldfield)
Tammy Davis
(Tucker - 羊飼い)
Glenis Levestam
(Mac - 家政婦)
Tandi Wright
(Rush - 遺伝子の学者)
Danielle Mason
(Experience - 過激動物愛護活動家)
Oliver Driver
(Grant - 過激動物愛護活動家)
見た時期:2007年8月
600回記念だというのでいくつか作品を準備していたのですが、ちょうどファンタと重なったので、全部キャンセルしてファンタのオープニング作品を持って来ました。これから2007年のファンタ作品と一般作品を適度に混ぜながら進みます。今後もよろしくお願いいたします。
監督のデビュー作品がいきなりファンタのオープニングに採用されました。ジャンルとしてはホーム・ブラック・コメディーとでも言いましょうか。ある種のファンタジーなのですが、舞台に選んだ場所が奇抜です。ニュージーランドの田舎の羊牧場。そして主人公が狼男ならぬ、恐ろしい数の羊ゾンビ。ウォレス&グロミットの最新作ウサギ男とそっくりな発想ですが、奇抜さ、出来の良さから言うとウォレス&グロミットを抜いています。
ファンタのコメントにも書きましたが、遺伝子交換の実験でか弱い羊が血に飢えたキラー羊に変身。噛まれるとその人、動物も同じように血に飢え、生肉の餌を探しさまよい始めます。ニュージーランドなどという人里離れたダウン・サウスに住んでいると物の考え方にオリジナリティーが生まれるという先例はかのピーター・ジャクソン。メジャーの映画に関わるようになり、ダイエットもして普通の人になってしまいましたが、太っている頃のジャクソンは斬新なアイディアの宝庫で、長編デビューのバッド・テイスト以後数作のスピリットをきちんとジョナサン・キングに継がせています。ニュージーランドと言えばこうでなくっちゃという快挙です。
ドイツで黒い羊と言うと他の人と違う事をするため周囲から浮いた人、問題児というような意味があるとコメントに書きましたが、どうやら欧米全体で言われることらしいです。黒い羊はほとんど出て来ないのですが、最後まで見るとこのタイトルが何を指していたのかが分かります。ネタバレになってしまうのでここでは詳しく掘り下げないことにします。是非とも見て下さい。
人物の描き方がおもしろく、悪人は悪人、それ以外の人は田舎らしく素朴に描かれています。そこへ騒動を大きくする、狂言回しのような役を演じる極端な動物愛護運動家が出て来ます。メジャー映画会社の制約を受けず自由に言いたい事を言いまくっているので、爆笑シーンが続出します。ジャクソンと同じくらいの巨大な予算をもらってメジャー配給となると各国の規制をクリアしなければならないのでやりにくいでしょうが、ジョナサン・キングはデビューの利点を生かし、かつてのジャクソンが持っていたような子供らしい興味を思い切り演出に生かしています。
ストーリーはコメントに書いた程度のもので、一部家族関係が絡みます。羊農場を経営している兄と羊恐怖症の弟が農場で再会。兄は学者に羊の研究をさせていたのですが、研究所付近に動物愛護運動家の過激派が忍び込み、研究廃棄物を盗み出します。それがまだ死んでいない、遺伝子に手を加えた羊の赤ん坊。過激派が追いかけられている最中に容器が破損し、後は大騒動。羊の赤ん坊は恐ろしく狂暴です。伝染性は吸血鬼やゾンビ並の早さ。この作品の見せ場はあのおとなしい、弱い、犠牲にされるというイメージの強い羊が、50000頭群をなしてイナゴの大群のように襲って来るとどういう迫力かという描写です。ウォレス&グロミットが多数のクレー人形を作ったのに対し、キングは本物の羊を動員して来ます。
中に日本語らしきものをしゃべる怪しい東洋人が出て来ますが、どの国の人かは分かりませんでした。そしてショーダウンの後にも愉快な描写があります。羊に噛まれて自分も羊ゾンビになり切っていた人たちがその後どうなったか・・・。是非ご自分でご覧下さい。
ウォレス&グロミットに出て来るショーンなどでもお馴染みのかわいい羊が人を襲うなどと聞くとあり得ないと考えたくなりますが、羊が突然狂うという話は今に始まったことではなく、1700年代からイギリスでは記録されています。そして残念ながら最近もニュースになっています。この病気はオーストラリアとニュージーランドを除く世界中に広がっていて、特に多数の羊が犠牲になっているのが英国とキプロス。牛が狂う病気と親戚で、欧州では前世紀から今世紀に変わる辺りから各国で新たな発生が確認され、2002年以降殺された羊の数が激増しています。2004年には英国で10万頭以上の羊が犠牲になり、私も処理された羊が山積みになっている写真をニュースで見て心が痛みました。まだ原因がきちんと解明されておらず、ビールス説と動物の体内の特定のたんぱく質に異常が生じるという説が有力視されています。私は所謂動物愛好家ではないので、人間に対する害が除外し切れない場合は処理もやむを得ないと考えています。しかし早く研究が進んで、羊がこういう病気にならずに済むようにと願っています。
欧州の人はウォレス&グロミットのショーンのように羊をこよなく愛する人がいるかと思うと、食用だと考えてばっさり殺してしまう人もいます。肉食の習慣が長いので、彼らに取っては日本人がお米を食べるのと同じ感覚なのかも知れません。宗教になると日本では米を神にささげるわけですが、欧州ではそこで動物が出て来ます。米の収穫は厳密に言えば植物を殺すことになるわけですが、血が流れるわけでもないので、私たちはあまり心が痛みません。この辺りを突き詰めて考えると東西の違いがはっきり出て来ます。
しかし欧州にも動物を食用でなく、友達と考えて愛情を注ぐ人もいるわけで、ファンタにはウォレス&グロミットのショーンのバッグを持って来た人もいました(アードマンが売っています)。ファンタは18歳未満入場不可の催しで、この女性もれっきとした成人でしたが、羊をかわいいと思っていたようです。私もショーンは大好きなのでこういう人とは気が合います。
食べる方となると私は極端な菜食主義者ではないのですが、比較的肉は少なめに食べていました。日本の習慣のままで鳥、牛、豚が中心。欧州に来てからは羊の肉に出会うことも多く、トルコ、アラビア系の料理店では羊を食べることもあります。今でも苦手なのが兎の肉。食べる前に兎の姿を見て心が痛み、食欲がなくなってしまうのです。それが学生食堂でドーンと出て来たりするので、びっくりしたことがあります。日本人が食べ、欧州人が嫌がるのが鯨の肉。鯨は学校の給食に出たりして、当時は貧乏人の食べる物ということになっていました。ドイツ人は特に日本人が鯨を食べることを嫌がり、先日は日本国大使館の前に死んだ鯨をドーンと並べて抗議運動をしていました。こういう人たちも動物愛護運動家なのだと思いますが、その同じ人があのかわいい羊や兎は疑問を持たずに食べるのかと思うと、一体何を基準に考えたらいいのか足元がぐらついて来ます。
長く欧州に住んでいても合わせられない習慣がいくつか残ります。ドイツのパンは大好きになったのに、兎の肉は食べられない、ジャガイモは大好きになったのに、コーヒーは浴びるほどには飲めないなど。肉に関しても私は日本人だなあと自分で思います。
そんなことを考えながら50000頭の羊ゾンビを眺めると不思議な楽しさが味わえます。
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