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Contre-enquête /
Counter Investigation

Franck Mancuso

2007 F 85 Min. 劇映画

出演者

Jean Dujardin
(Richard Malinowski - 刑事)

Alexandra Goncalvez
(Emilie Malinowski - リシャールの娘)

Agnès Blanchot
(Claire Malinowski - 医師)

Aurélien Recoing
(Josse - リシャールの同僚刑事)

Marie Guillard
(Mathilde Josse - ジョスの妻)

Gabriel Mancuso
(Gabriel Josse - ジョスの息子)

Laurent Lucas
(Daniel Eckmann - 少女誘拐暴行犯)

Jacques Frantz
(Michel Arnalde)

Jean-François Garreaud (Salinas)

Jean-Pierre Cassel
(Docteur Delmas - 医師)

見た時期:2007年8月

2007年ファンタ参加作品

要注意: 結末の趣旨が間もなくばれます。

詳しい真相は隠したままです。

これ1本だけを見るとテレビよりは良質の、映画館にかけるにはまあまあという程度の犯罪映画です。大感激というほどではありませんが、これと言ってクレームをつけるような失点もありません。

英語圏では酷評が多く、「ブロック作品の映画化だがやらない方が良かった」などというのもあります。ブロックのどの作品を指しているのかまでは分かりませんでした。私は上に書いたように優秀作とは言いませんが、みすぼらしい感じでもありませんでした。唯一文句を言うとすれば、今期のファンタに多かった自分でオトシマエをつける話だという点。何度言っても言い過ぎることはないでしょうからまたしつこく言いますが、私はオトシマエは自分でなく公の機関に任せるべきだという意見です。しかしその公の機関の方もきちんと責任を果たしてもらいたいです。妙な法律を作って加害者がどんどん得をするようでは行けません。

今年のファンタには犯罪に自分でオトシマエをつけてしまうという筋の作品が多く、実はちょっと怒っているのですが、その中でオトシマエはともかく、演じている俳優が上手く役に合っていると感じました。あの OSS 117 で大バカ野郎ユベールを演じた同じ俳優ジャン・デュジャルダンが主演です。ロビン・ウィリアムズのような、コメディーを演じていても実は生真面目に物を考える人なのではと思わせるタイプと違い、ユベールを演じている時は、「こんな男、愛人にも友達にもしてやらないぞ」ときっぱり決心できてしまうような嫌味なプレーボーイ。それが Contre-enquête では共感を呼ぶ気の毒なお父さんです。

ストーリーをざっと説明しましょう。ベテラン刑事、バリバリ働く女医、小学生ぐらいの年齢の少女という一家です。ちゃんと育てられた娘ですが、両親は子供に構う時間が不足気味で、この日もお父さんとデートの約束をしていたのに、事件が起きてすっぽかされてしまい、娘はおかんむり。それでも近所の少年から遊ぼうと誘いがあり、自転車で出掛けて行きます。その後行方不明・・・。

間もなく仕事中のお父さんの所へ同僚から連絡が入り駆け付けてみると娘の死体が。この辺は適度にセンチメンタルにしてあり、お涙ちょっと頂戴。行き過ぎになる直前で止めてありますが、ここで観客は主人公のお父さんに共感するという運びになります。このシーンでやや株が下がったのだと思いますが、その後の展開は推理小説ファンの鑑賞に堪えるかなりしっかりしたものです。

刑事という役得を生かして、お父さんと同僚は必死で犯人を探します。そして見つけます。これがちょっと嫌味な感じもあり、俳優がその気になれば感じのいい役も演じられそうなローラン・ルーカス。どうも初めて見た気がしないなと思ったら以前に見ていました。これまで2度主演で、2度ともとんでもない出来事に巻き込まれる被害者。Lemming変態村です。それが180度変わって Contre-enquête ではとんでもない事をやらかす、やけに頭のいい犯人です。フランスはハリウッドに比べると俳優が1つの役のタイプに縛り付けられることが少ないようです。

ジャン・デュジャルダンを見るのもこれで3度目ですが、最初の作品では準主役。ちょっと嫌な後味の残る(映画が悪いのではなく、そういう趣旨のストーリー、ジャンル)ブルー・レクイエムというギャングの話です。そこでは家族を失った男はアルベール・デュポンテールが演じています。新人で準主演を演じていたのがジャン・デュジャルダン。2度目は言わずと知れた今年のファンタの OSS 117。そして翌日見た Contre-enquête が3作目というわけです。3年の間に主演を取るスターになっています。私に取っては1作見た後はもうスター。

娘の事件後割と簡単に犯人が見つかり、自白も取れ、裁判も終わり、有罪。欧州には死刑はありませんが、少女誘拐殺人に適した長期刑が言い渡され、一見一件落着。娘のいない寂しさはどうしようもありませんが、とにかく前のような日常が戻って来ます。ところが余り間を置かず犯人からこっそり刑事に連絡が入るのです。「自分はやっていない」ですと。

驚いて調べているうちに少女をかどわかして殺す犯人が別にもう1人浮かんで来ます。娘の事件と同時期に活動していたと言えなくもない・・・。「調べなくっちゃ」というわけで、今のところ一応犯人とされているエックマンと連絡を取りながら調査をして行く刑事リマリノフスキーはやがてエックマンと協力し始めます。「冤罪だとすれば出してやらねばならぬ」ということなのでしょう。エックマンは刑務所に入っている凶悪犯と文通をしたがる女性の1人と親しくなり、それなりに自分の周囲を安定させて行きます。そして釈放。

「自分に犯罪歴もない女性が服役中の凶悪犯に惹かれ結婚」などという話を時たま聞きますが、私にはなぜそういう事をしたがるのか理解できません。改心した服役囚の側からすると、自分が出られなくても外の人間とコンタクトを取るのは生きる張りができていい事でしょう。しかし時たま見るドキュメンタリーなどによると、全く改心した様子もない危なそうな凶悪犯に惹かれる女性というのが結構な数いるようです。教会活動に熱心な人が宗教活動の一貫として手をつける分野でもあるようです。善意の意図を持った人と、興味本位の人が女性の側におり、刑務所にいる男性の方はこれからまだ長く続く刑期を人とのコンタクトで多少なりとも人間的に送りたいと考える人と、盲目的に英雄視されて大喜びしている人が混ざっているようです。エックマンはと言うと、色々考えることがあり・・・。

しかしもし彼が無罪で釈放されたのだったら、誰が娘を殺したのでしょう。ちょうどその頃鉄道の路線に沿って起きていた連続殺人事件があり、刑事はその線を追います。やがて容疑者が具体的に浮かんで来ます。

っと、ここまでは順当な進み方をします。「間違いを正し、真犯人を追う」です。これで上映時間の半分ちょっと。ところがここから全然違う方向に進み始めます。刑務所から出て来た男は手のひらを返したように怪しくなります。自分に協力してくれた女性にも冷たいそぶり。人道的な扱いを求めて裁判所に出ていた時とはがらっと違った感じの悪い表情。かっこいいお父ちゃんを演じているストレートな表情のデュジャルダンと違い、ルーカスはなかなかの役者です。チラッとマーチン・ランドウを思い出しますが、フランスで仕事をする時はアメリカよりもっと微妙な表情を出していいようです。

この後は結構たくさん推理小説を読み、犯罪映画を見ていた私も「こういう風になるだろう」と当てることはできませんでした。そういう意外性を最後に秘めた作品です。もしかしたら役者のポーカーフェイスが上手で観客の考えが及ばないのかも知れません。

自分でオトシマエをつける作品はどんなに理由が理解できてもやはり映画として出し大衆に流布させようとする場合ためらってしまいます。デュジャルダンは悲劇に見舞われた刑事を説得力ある演技で表現していますが、アメリカ人好みのオトシマエを欧州に持ち込んでもらいたくありません。

現代のアメリカのようにあそこまででたらめになってしまい、1つの州で犯罪を犯しても隣の州に入ってしまうと追いかけられず、そのまま生活ができてしまう場合、頭に来た人が自分の手で始末をつけようという気になるのは(やって良いかは別として)理解できます。しかし欧州は住民票制度がしっかりしており、住所不定の人が少なく、さらに隣の州に逃げ込んだから警察が来ないなどという甘い世界ではありません。ECとしてまとまった現在では国を越えても警察はついて来ます。同じ刑事がついて来るわけではありませんが、ドイツを去ってフランスに入ったとなれば、ドイツからフランス警察に「後を続けて追ってくれ」との依頼と資料が届きます。警察はアメリカほどちゃらんぽらんではありません。そういう環境では自分でオトシマエという行動には幾百もの疑問符が付きまといます。

幸いなことに欧州では自分でオトシマエをつける以外どうしようもないという出来事が少ないですが、ブルー・レクイエムの主人公はやはりその線を狙いました。現実の需要がまだほとんど無い欧州社会でなぜこういう映画を作るのか、ちょっと考え込んでしまいます。

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