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2005 USA 93 Min. 劇映画
出演者
Cuba Gooding Jr.
(Mikey - ヒットマン)
Shaun Brewington
(Mikey、子供時代)
Helen Mirren
(Rose - ヒットウーマン、マイキーの義理の母親兼現恋人)
Wendy Baron
(Rose、若い頃)
Darnell Williams
(マイキーの父親)
Marvina Vinique
(マイキーの母親)
Stephen Dorff
(Clayton Mayfield - ギャングのボス)
Vanessa Ferlito
(Vicki - クレイトンのボスの妻)
Ryan Eric Speise
(Anthony、赤ん坊 - ヴィッキーの子供)
Cullen Flynn Clancy
(Anthony、少年)
Matt Higgins
(Eddie - クレイトンの舎弟、ヴィッキーと不倫)
Macy Gray (Neisha)
Joseph Gordon-Levitt
(Dr. Don)
Mo'Nique
(Precious)
見た時期:2007年8月
ヘレン・ミレンがテレビに映画に活躍し、エリザベス女王を演じ、オスカーまで取ってしまったので、柳の下の鰌を狙ったのでしょうか。倉庫から引っ張り出して来たという印象を否めません。2007年のファンタに2005年の作品が出るなどというのは、アジアなど遠い国の作品かオマージュでもない限り普通はありません。
今年のファンタは時々ぱっとしない作品があって、これもその1つです。オスカーをもらった俳優を並べてみてもプロットがきちんとしていないとダメということのいい証明になります。
この作品の失敗は何を描くつもりなのかがはっきりしていない点。これを先にきっちりさせておかないと、あいまいな仕上がりになります。犯罪映画なのですが、犯罪に重点を置かず、主人公の心情や私生活に重点を置き過ぎています。
監督は作品数が少なく、プロデュースでチョコレートに参加、監督としてはサイレンサーがデビュー、その他ほとんど映画界での活動はありません。それを考慮するとまあ、何とか大スターを使って話をまとめたと誉めるべきでしょうか。無理に誉めなくてもいいとおっしゃるのなら落第点です。
簡単に筋をご紹介すると、ヒットマンを生業としていた2人組がある日掟を破って殺すはずの人を助けてしまいます。引退前の最後の仕事だったので、この事件を機に2人組が業界から姿を消すのはおかしくありません。助けた母子と一緒に4人で表から姿を消します。ギャングの依頼で殺されるはずの女性が臨月だったので、1人増えました。表と言っても裏の社会にいたので、姿を消した先は表。一般市民の顔をして一軒家に住み始めます。
私は子供が小学校に上がる年頃になったらどうするんだろうと思っていましたが、やはりその頃にトラブルが起きます。2人組の1人はもう結構年で、その上癌になったので本当に引退。彼女と組んでいた若い方の男は4人分の食い扶持を稼がなければならないので、時たまお仕事。殺されるはずだった女性は生まれて来た息子の世話。大人3人は現場に居合わせたので、全員口を閉ざすということを知っています。それである日までは上手く行っていました。
ところがある日(必要も無いのに全裸で登場する)ギャングの親分スティーヴン・ドーフに見つかってしまいます。彼は新興ヤクザのボスで、あの日、浮気をしたらしい妻を2人のヒットマンに殺させることにしていました。上に書いたような予定変更があり、臨月の妻は消え、ヒットマンがその後何も言って来ないので妻は片付いたものと思っていましたが、ある日生存しているのがばれてしまいます。そして関係者を消すようにとの指令はよりによって2人組の若い方に下されます。
っと、ここまでこういう風に聞いているとフィルム・ノワール的なスリラーだろうという感じがします。ところがここに不要なほどややこしい人間関係を盛り込んであるのです。新興ボスの妻というのがギャングの世界の妻と言うにはちょっと良過ぎるキャラクター。そして2人のヒットマンが非常にわざとらしい関係。2人は再婚した義母(ミレン)と前妻の息子(グーディング)という間柄なのですが、同時に恋人同士。セックスは2人で・・・という風になっています。義理とは言え一応母子なので引いてしまいます。ミレンはまだ小学生ぐらいの子供だった義理の息子の目の前で射殺しています。子供を実父の暴力から救うためでした。
白人と黒人のカップルは最近では映画の世界でも珍しいことではありません。現実の世界でもアメリカ以外ではずっと以前から可能になっていましたし、最近ではアメリカでも珍しい話では無くなっています。それだけでは人をあっと言わせることができないと思ってか、親子ぐらい年の違う男女、それも女性が年上という風にしました。それでもまだ人をあっと言わせるのに十分ではないと思ってか、2人の関係を義理とは言え親子にしてみました。・・・と、まあ、「あんたまじめに映画つくってんの?」と言いたくなるような人間関係になっています。
チョコレートの時はアメリカの南部の話で、主演の男が演じるのは頭カチカチ、白人至上主義にどっぷり浸かった親父の息子。その男が自分というものを取り戻し始めた過程で黒人の女性と恋に落ちるという設定。しかもまだ若い自分の息子を失ったばかり(本当に亡くなってしまいました − ヒース・レジャー)ということで、彼の人生が1度ひっくり返り、立て直す過程で親父から自分を切り離そうという時期にも当たっていました。ですから孤独な白人の中年男がたった今死刑で夫を失ったばかりの黒人女性と恋に落ちると言うのは何となく観客も納得する流れでした。
それに比べ裏社会を自由に動き回るヒットマン、金回りも良く、どこで誰を選んでも文句を言われるという立場でなく、ここまで四方八方を不自然な関係にする必要があったのかと考えてしまいました。単に白人と黒人のカップル、単に年の違うカップル等など、1つの条件だったら愚痴りませんが、あれもこれも詰め込んですっかり不自然にしてしまったような印象を受けました。殺し屋が掟を破って云々の逃避行ストーリーで十分筋は成立すると思うので、私には監督(脚本家)がなぜこんなに色々付録をつけたのかが理解できませんでした。
ヘレン・ミレンというのは独特の考えを持った人らしく、ずっと前に恐い教師の役をやった時から目立っていました。女王に誉められてもスパッと言い返すぐらいの人です。西欧風の名前ですが、実はミロノフという白系ロシア人の孫娘でイリナ・リュディア・ペトロヴァナ・ミロノヴァと言います。勲章をいくつかもらっています。エリザベス女王を演じたと思ったら、同じ頃にサイレンサーを演じるなど、1つのタイプに固まらない人です。
彼女は英国の女優ですからかなり芸達者と思います。しかし彼女から下品な役というのは予想していませんでした。サイレンサーは下品な作りです。この下品さはセットや衣装、ミレンの出で立ちなどから来るものではなく、全体のコンセプト、脚本から滲み出て来ます。彼女がそれと分かって演じたのか、あるいは彼女が脚本の解釈を自分でやり、そういう風に演じたのかは知ることができません。
見終わってどういう印象が残ったかという時に、下品さというのが最初に浮かぶ作品です。次に必要も無い設定を無理やり詰め込んだという印象。そして親の因果が子に報い、子の因果が孫に報い・・・という世襲ヒットマン物語は終わります。いいんだろうか、それで。
全体に脇の甘さの目立つ作品でした。
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