映画のページ
1991 Irland/UK/USA 118 Min. 劇映画
出演者
Robert Arkins
(Jimmy Rabbitte - プロモーター)
Colm Meaney
(Jimmy Rabbitte, Sr. - ジミーの父親、熱狂的なプレスリー・ファン)
Andrea Corr
(Sharon Rabbitte - ジミーの姉)
Glen Hansard
(Outspan Foster - ギタリスト)
Ken McCluskey
(Derek Scully - ベース)
Andrew Strong
(Deco Cuffe - リード/ボーカル)
Angeline Ball
(Imelda Quirke - バックコーラス)
Maria Doyle Kennedy
(Natalie Murphy - バックコーラス)
Bronagh Gallagher
(Bernie McGloughlin - バックコーラス)
Michael Aherne
(Steven Clifford - ピアノ)
Dick Massey
(Billy Mooney - 初代ドラム)
Dave Finnegan
(Mickah Wallace - 二代目ドラム)
Johnny Murphy
(Joey Fagan - トランペット、元世界を股にかけて活躍したミュージッシャンだとの噂)
Félim Gormley
(Dean Fay - アルト・サックス)
Anne Kent
(ジミーの母親)
Gerard Cassoni
(Darren Rabbitte - ジミーの弟)
Ruth Fairclough
(ジミーの双子の妹)
Lindsay Fairclough
(ジミーの双子の妹)
Mark O'Regan
(Molloy - スティーヴンと親しい神父)
Maura O'Malley
(ジョーイの母親)
見た時期:90年代
★ きっかけ
因縁の深い作品で、どこから始めたらいいのか分からないぐらいです。因縁と言うと悪い事に使われがちな言葉ですが、良い話、楽しい話ばかりです。色々な事に発展し、楽しい思いをすることの多かった作品です。
まず何よりも先に挙げなくては行けないのは、きっかけを作ったのが井上さんだったということです。井上さんというのは大した事で無いような顔をして実はおもしろい物をすっと人に紹介する人です。もう2桁の年数になるでしょうか、ある日日本からまたベルリンに戻ろうという時に、確か空港だったと思いますが、井上さんがさっと手渡したカセットがありました。当時は私はまだ現役、バリバリ働いていた時。仕事に夢中だったのですが、このカセットを聞いたとたんに何もかもがぶっ飛んでしまいました。
ご存知のように私はソウル・ファンなのですが、1番最初に飛び出した一言「ムスタング・サリー」で私は椅子から転落しそうになりました。イントロが既に期待を持たせる始まり方だったのですが、そこに飛び込んで来たアンドリュー・ストロングの一声、「うわっ!」という感じでした。
で、一気に聞いたのですが、そのカセットには角田ひろ、ウィルソン・ピケットなどで知っていた曲がぞろぞろ。60年代から70年代をソウルで過ごした者にとっては大喜びのギンギラギンなカセットでした。その後暫くしてこれは映画のサントラだと分かり、早速映画を見に行きました。
ムスタング・サリーはマック・ライスという人が書いたのですが、私が最初に聞いたのはウィルソン・ピケット。60年代の中頃だったと思いますが、それ以来私にはピケットが1番上手に思えました。それから30年ほどして突如名も知らない歌手がピケットを超える歌唱力で最初の一声「ムスタング・サリー」で私を圧倒。相当な力量です。
ブルース・ブラザーズでも世界的にはそれほどハイにならなかったソウル・ブームですが(ベルリンでは映画は大受けだったのですが)、監督はこれでソウルがブレークするかなどとさもしい事は考えなかったようです。「他は関係ねえ、俺はソウルの映画を作るんだ」という見上げた根性で、ソウルのファンを大喜びさせる作品を作り上げていました。
★ 監督
・・・は超有名人。作品数は知名度に比べ少なめです。見ていたのはダウンタウン物語、ミッドナイト・エクスプレス、ザ・コミットメンツ、アンジェラの灰、ライフ・オブ・デビッド・ゲイル。
どれも好きというわけではありませんが、ダウンタウン物語は発想がユニークで感心したものです。
ミッドナイト・エクスプレスはトルコの政治批判が強く、音楽とは関係ないものでした。日本などに住んでいて事情を知らずに見ると、トルコはひどい国だみたいな論調のストーリーです。「酷い状況で監獄につながれている気の毒なアメリカ青年を救出」という流れになっています。実は後進国のように言われている国々は先進国のように思われている国からの催促もあり、国内での麻薬取締りを厳しくし、重罪扱いしているのですが、そのためにその国で事件に関係したアメリカ人が逮捕されてしまい、重罪を受けることがあります。すると先進国と言われる国が乗り込んで来て、「わが国の市民を特別に釈放しろ」などと言います。 そのあたりの矛盾を所謂先進国側から扱った作品でした。なので見終わるとどこかすっきりしません。
ザ・コミットメンツは以下に書きます。アンジェラの灰は社会問題を扱った作品ですが、今ひとつ私とは波長が合いませんでした。恐らくは極貧の現実をリアルに扱ったのでしょうが、「で、パーカーは何を言いたかったの」という感じでした。
ライフ・オブ・デビッド・ゲイルに関しては不満続出、文句たらたらだったように記憶しています。
パーカーの作品を見渡すと本人が音楽に関心があることは確かのようです。私はザ・コミットメンツ以外の音楽映画は見ていませんが、音楽を積極的に使った作品がいくつかあります。監督ではありませんが小さな恋のメロディも彼の手になります。
ことザ・コミットメンツに関してはパーカーの視点にずれは無く、(アメリカに住んでいない人がやる)ソウルという音楽をしっかり理解している上に、音楽をやる半分アマチュアの若者の様子も良く理解した上で映画撮影に入ったという気がします。以下に書く原作者の理解度が大きく貢献しているとは思いますが、それを扱う映画監督と波長が合っていないと実現しません。
★ ザ・コミットメンツ
パーカーは脚本も書く人ですが、ザ・コミットメンツには映画ができる4年前に書かれたロディー・ドイルの原作があります。ドイルには会って言葉を交わしたこともあるのですが、ベルリンに来た当時はまだとても明るく元気な感じでした。その後の写真などを見るとどうも元気が無いように見え、心配しています。
映画ザ・コミットメンツにはドイルが直接関わり、脚本に参加しています。私は英語とドイツ語で読みましたが、小説を読みたい方には英語をお勧めします。
日本語版もあり、おれたち、ザ・コミットメンツを書店でめくったことがありますが、ドイツ語版と似て、言葉の勢いが失せています。外国語で小説を読むというのは仕事で英語を扱うような方以外は骨のように思われるかも知れません。ザ・コミットメンツにはアイルランド風のフレーバーもあり、俗語も続出するので、一語一語丁寧に読む方には向きません。
しかしいくらか知らない単語が出て来ても先に読み進むつもりですと、間もなく言葉の波に乗ることができます。会話が中心なので、1つの文章を終わりまで言い切らない登場人物も多く、「おまえの歌聞いたぞ」「えっ、俺!」(・・・)「俺、歌った?知らなかった」みたいな会話が延々続きます。高校あたりまでに習った英語を覚えておられるなら英語をお薦めします。
枕にできるほど分厚いのですが、売りは会話。脚本に近いぐらい会話が書かれているのでページ数が多くなっています。ストーリーはわりと単純で、ネタばれでも映画を見てがっかりというほどのことはありません。小説を映画を見た後で読まれると、多少知らない単語が出て来ても楽しめます。ドイルの売りは愉快な会話。コミック小説とすら言われることがあります。
登場人物の考え方、反応に笑いの要素が多く、それがザ・コミットメンツの強みです。プロットではなく描写がおもしろい小説は映画化する監督に取っては頭痛の種になる危険があります。パーカーもそこは承知していたのでしょうか。できるだけ原作の雰囲気を出すように注意を払っています。
2時間弱の間に作家が出したいものをすべて出すのは無理。それを承知した上でパーカーはドイルの爆笑小説を、音楽映画に置き換えました。ドイルがソウルを良く分かっていたとしても、小説の弱みは音楽です。ガチガチのソウル・ファンにとってはいくら文字でジェームズ・ブラウンがいいとか、ウィルソン・ピケットがクールだと言われても音が聞こえて来なければフラストレーションが残ります。で、彼はバンドのサウンドをリハーサル、本番取り混ぜて前面に出して来ます。この作戦は大成功と言えるでしょう。結局私はカセットを聞いてから映画を見、その後小説を読み、作家に会いに行く、コンサートに行く、DVDを買う、譜面を買うという風にエスカレートしました。ものの見事に乗せられています(笑)。
ヒットしたか(売上)で映画の成功を決められてしまいます。私はそれとは別に映画としての出来がどうだったかで見る習慣があるのですが、その視点から言うとザ・コミットメンツには最高点をつけます。連れて来た俳優がすばらしかったです。オーディションをしたらしく、プロの俳優もいますが、当時はほとんど無名に近かった人が入っています。音楽は重要なポイントだったらしく、これっ切りで俳優業はやらず音楽に進んだ人、二股かけている人、俳優業中心になった人がいます。
俳優業でそれなりの成功を収めているのは、元から有名だったおやじさんの役のコール・ミーニーは別として、パルプ・フィクションにも出ているブラナー・ギャラガー、大ヒット作品には出ていませんが、テレビなどで順調に駒を進めているアンジェリーン・ボール。マリア・ドイルは歌と映画の両方に進みましたが、いくらか音楽の比重が高いかも知れません。男性でバンドのメンバーを演じていた人たちは音楽に進んだ人が多く、ベルリンに来たツアーに参加していた人もいます。その他に映画のサウンドをバックアップしたミュージシャンがいた様子です。
★ アンドリュー・ストロング
親の跡を継いでソウル・シンガーになったアンドリュー・ストロングは本名はストロングの正反対のウィークという名前。しかしあの力強い声を聞くと、ストロングの方が合っていると納得します。親父さんもザ・コミットメンツに顔を出したようですが、どこに出ているのかまでは分かりませんでした。
ストロングは映画撮影の時若干16歳。それにしては完成した発声、曲の解釈も良く、ソウル歌手になり切っています。デコの役を演じたというより彼に合わせて脚本を書いたと言った方がいいぐらいですが、小説が書かれた時はストロングは12歳ぐらい。ドイルがストロングをモデルにして書いたというのでは話にちょっと無理が出そうなので、パーカーが良いキャストに恵まれたと解釈しています。しかしストロング無しではこの作品はここまで輝かなかったと思います。
★ 脇役もただの脇ではない
ストロング抜きのザ・コミットメンツでは確かに山葵抜きのお寿司みたいになってしまいますが、他のキャストもすばらしいです。ドイツではもはや神話と仰がれているスタートレック。そのレギュラーだったコール・ミーニーはドイツではスターの部類に入るぐらいですが、ザ・コミットメンツでは出過ぎず引っ込み過ぎず。若い人にたくさん花を持たせています。若手は役割を良く理解しており、いかにも演技という人がおらず、パーカーの他の映画と全く違うスタイルです。全員の溶け込み方は絶妙な匙加減。ドイルの爆笑シーンは減っていますが、雰囲気は良く伝えています。
そこにもう1つ良く溶け込んでいるのがダブリンの気候と生活。アイルランドというのは青空、牧場、羊というイメージを抱いてもかまいませんが、天候不順、暗い、雨というイメージも間違っていません。アンジェラの灰のイメージとも似ています。気候だけでなく、町並みも自然な印象を受けます。これも物こそ言いませんが重要な脇役と言えるでしょう。
★ ストーリー
大学でバンドをやったりした方ならフムフムと納得の行く話。元々仲の良かったジミーとギターの弾き語りをやっていたデレク、アウトスパンが集まり、ソウル・バンドを作ろうと言い出します。3人の間ではジミーがアイディアマン、残りの2人が同調者です。ジミーはいつも新しいアイディアを思いつき、実行するので一目置かれています。早速新聞広告を出し、親しい人にも声をかけ、大オーディションを始めます。熱狂的なエルビス・ファンのジミーの親父さんまで入れろと言い出す始末。しかし理想のミュージシャンを見つけるのは大変。
国の半分ぐらいをオーディションしたかと感じるぐらいたくさんテストした結果、ソロ・シンガー、女性コーラス3人、バックバンドが揃い、猛練習。マネージャー兼プロモーターのジミーが年長のミュージシャンと一緒に音楽指導もやり、とにかく人前に出られるまでに成長。まずは慈善パーティーから始めます。
娯楽の少ない貧しい地域でバンドの登場は評判を取り、少しずつ名を上げて行きます。それに従って徐々にジミーの言う通りにならない出来事が起き、最後は空中分解。詳細は違っても似たような経験をした学生バンドやセミ・アマチュアバンドは世界中にあるのではないかと思います。
★ 成功の秘訣
表現にはアイルランドのローカル・フレーバーをたっぷり染み込ませてありますが、バンドの発展から解散の過程は世界共通。それで外国人が見ても共感を呼ぶのではないかと思います。
セミ・アマチュア・バンドで、メンバー1人1人はほとんどお金を貰って演奏した経験が無いという設定。でありながらかなり力強いサウンドがスクリーンで聞けるので、全く映画に関心が無く、音楽ばかりが好きだという人の鑑賞にも耐えます。
そしてこの作品は映画、小説共にアイルランドの発展の初期を飾ったように思えます。アイルランドと言えば欧州でも一流のジリ貧国と思われていたのですが(タイタニック号でアメリカに渡った多くの人は豊かさを求めてアメリカに渡ったアイルランド人ではありませんでしたか。よく覚えていませんが)、前世紀の終わり頃からじりじりと上昇。最近ではITで知られています。私はアイルランドのセーターを買うので以前から縁があったのですが、アイルランド製のセーターは持ちが良く、とても暖かいです。羊が寒い気候の中で育つので、毛が温かいのです。おや、話がそれました。
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