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Bronson

Nicolas Winding Refn

2009 UK 92 Min. 劇映画

出演者

Tom Hardy
(Charles Bronson ことマイケル・ピーターソン)

William Darke
(Charles Bronson ことマイケル・ピーターソン、13歳)

Amanda Burton
(マイケルの母親)

Andrew Forbes
(Joe Peterson - マイケルの父親)

Hugh Ross
(Jack - マイケルのおじ)

Kelly Adams
(Irene - マイケルの妻)

Matt King (Paul)

Katy Barker (Julie)

Edward Bennett-Coles
(Brian - マイケルが結婚したい女性の婚約者)

見た時期:2009年8月

2009年ファンタ参加作品

英国人、マイケル・ピーターソンに何が起こったかを描写した実話です。

★ 不思議の国英国

英国は世界をリードし、実際に世界を動かす人たちがいる反面、自国の人に対する対応の仕方には疑問を感じずにはいられない不思議な国です。英国紳士と呼ばれるフェアな振る舞いをする人々やレディーと言われる慎み深い淑女で世界的に有名ですが、反面世界に先駆けて驚くような子供や少年の犯罪が起こり、エキセントリックさであっと驚くようなエピソードが伝わったりします。そういう出来事に巻き込まれた人たちは命を失うか、心が折れてしまうか、それとも執念の人となり自分を通し続けるか(それでも命を失う人や、失意の中で死んで行く人もいます)、いずれにしろゆっくりと人生を楽しむ余裕はなくなってしまいます。

私たちはただタブロイド誌に出る記事をおもしろおかしく読んでいればいいのかも知れません。しかし狂犬のように書きまくるタブロイド誌の意図がどこにあるのか、それを読んでいる人たちは、そのジャーナリズムのエネルギーをどう感じているのか興味が沸いて来ます。

★ 先進国英国

産業革命の頃からの英国は多くの方面で先進国と呼べるでしょう。革命前はどちらかと言えばイベリア半島やイタリアなどに負けていたように見え、それまで世界をリードしていたのはイエズス会他のキリスト教勢力でした。まだ船が帆だけで走っていた時代です。

英国は産業革命後そういった国々を見事に追い越し、その後ずっと優位を保っています。経済もはっきり資本という考え方で動くようになり、それ以前の皇室のバックにスポンサーがつく程度の話ではなくなりました。自分で働いてちょっと小金をためた人がそのお金を他所の会社に投資して儲けるという方式も発生しました。蒸気船も資本主義の考え方もきっかけはむしろフランスだったようなのですが、発展はイギリスの方がはっきり目に見えます。

経済でも社会制度でも世界をリードする近代国家ですが、それにしては何か置き忘れているのではないかと外国人が思うような事件が時々報道されます。ブロンソン事件もその1つだったらしく、タブロイド誌が時々取り上げていたようです。

★ ブロンソンの伝記

映画 Bronson はチャールズ・ブロンソンという男の一生を描いています。名前はボクシングのプロモーターが俳優ブロンソンのタフ・ガイぶりにあやかってつけたもので、正式に改名したようです。ブロンソン、元ピーターソンは現在も服役中です。

★ 子供時代から現在まで

子供の頃は家族の話ですと普通の優しい子供だったそうです。少年時代に問題を起こし、そこから人生が変わります。

映画の中では既に学校時代にトラブルを起こしていて、警察の厄介になった最初の事件は1974年とされています。郵便局の強盗未遂だったのですが、裁判になる頃に「正直に認めなさい」と諭され、罪を認めています。その結果思ったより長い7年の刑期になってしまったようです。警察、裁判所では(素直に認めると刑が軽くなることがある)日本の方式は通用しません。なのになぜそういう国で周囲の人が諭したのかは映画を見て不思議でした。

映画の中では強盗計画は間が抜けていたように描かれています。周囲に諭されて素直に聞いてしまったこと、その後の釈放中の様子などを見ると、ブロンソンは意外と単純で、あまり人を疑わない性格のようです。

まず1974年から1988年まで服役。1974+7=1981。ところが刑期は倍になっています。刑務所内での不服従、看守に対する暴行、脅しその他で刑が加算された結果です。

それでもようやく釈放されますが、数ヵ月後に再び逮捕、服役。そしてまだ入っています。昨年9月に釈放するかで話し合いがありましたが、まだ服役中です。この長い期間のうち外にいた期間は1年にも満たないのですが、35年弱のうち、かなりの部分を独房で過ごしています。独房はただ単にアパートの窓に格子がついたような部屋で暮らすのではなく、動物を飼う小さな檻のような所に閉じ込められています。ハンニバル・レクターが入れられていた独房より待遇はずっと悪いです。日本やドイツの刑務所はまるでホテルのようです。

★ 映画で描かれるブロンソンの生活

冒頭ブロンソンが舞台に立ち、自分の生涯について自分が狂言回しのような役目をしながら語り始めます。真左からと真右から全く違う顔に見えるようなメイクをしています。これは監督が演出しただけで、当のブロンソンはまだ保釈されていません。

子供時代から刑務所に入るまで、その後刑務所でどういう風に暮らしていたかについて、時々舞台のシーンをはさみながら語って行きます。

ブロンソンは刑務所をホテルのようだと例え、他の囚人と違いそれほど嫌がっているようではありませんでした。見ようによっては自分の不服従のためにそのホテル暮らしを自分で苦しいものに変えてしまったとも言えます。

看守の嫌がらせにムカッと来ても「ハイハイ」と言って従っていれば、あるいはおべっかを使っていれば7年の刑すら、態度がいいということで短縮されたかも知れません。そういう事をしない性格だという事をはっきりさせるために、ブロンソンの学校時代が描かれたのでしょう。

肉体的にはかなりタフな人だったようで、殴られても、怪我をしても、また起き上がります。従順という言葉は知らないようです。そのためか、刑務所内では囚人の間でスター扱いです。ふと思い出すのはエリック・バナの Chopper です。

映画が始まる頃のブロンソンはちょうど結婚をし、子供も生まれます。その直後の逮捕。それからまずは14年戻って来ません。その間に離婚があったようです。

釈放後ボクサーとして仕事が上手く行き、順調にお金ももらえるようになります。その時に知り合った女性と結婚したいと思うようになります。女性は正直に自分には婚約者がいると言うのですが、意に介さず、結婚指輪をプレゼントしようと考えます。

短絡に宝石店に行き、店員を脅して指輪を奪います。そのためまた刑務所行きになります。

その後も看守との乱闘、脅す、人質を取るなど、事件が続き刑期はどんどん長くなって行きます。刑務所は手におえないと悲鳴を上げ、ブロンソンは国中の刑務所をたらいまわしにされます。殺人を伴う暴力事件をきっかけに精神病質の囚人を収容する施設にも送られ、薬漬けにされたこともあります。別な場所では精神療法を行う心理学者の勧めで絵を描き始めます。

実はこれが大当たりで、ブロンソンは非常に芸術的な絵をどんどん描きまくります。それを見た指導官で心理学者の男が刑務所の所長に絵を見せるのですが、官僚的な所長には無視されます。それに怒ったブロンソンは心理学者に八つ当たりして、人質に取り、また1つ大事件を起こします。

映画に描かれていない、しかし英国の新聞では大騒ぎになった事件もあり、ブロンソンは現在もまだ服役中です。

★ 因果関係

両親は中産階級の普通の人たちで、身内には町の市長だった人もいます。子供を全く叱らない人たちとして描かれています。事実がどうだったのかは分かりません。家庭内暴力のように、両親が暴力をふるう子供怖さにしからなくなってしまうケースも考えられます。あるいは甘やかすことを子供を可愛がることと取り違えて、自分は子供を愛しているのだと信じ込んでいたのかも知れません。その辺ははっきりしませんが、ブロンソンの首に鈴をつける人がいなかったこと、成人するまでに善悪の判断がつくようにしつけられていなかったことはうかがえるように描かれています。

物質的には中程度に恵まれて育っており、短期間釈放された時両親は車で刑務所まで迎えに来て、新しい家に彼の部屋も用意しています。これからは親子で仲良く平和に暮らすと思っていたような描かれ方です。

結果としてモンスターのようになってしまったブロンソンですが、人間的な気持ちが欠如していたわけではありません。誰かのために優しい事をする人ではあったようです。ただ自分が好きな女性に指輪を贈るために宝石店を襲ってしまうような短絡さがあり、また相手の女性が断わっているのがぴんと来ないような面もあります。

意思は非常に強い男なのですが、善悪のけじめや社会的な規範とずれています。自分と付き合ってくれる相手に対する思いやりや忠誠心はあるようなのですが、相手がどう受け取っているかを見る目に偏りが見られます。そしてこういう実情なら仕方の無い進展かも知れませんが、自分に敵意を抱いている相手、無視する相手に対しては非常に敏感で、凶暴に反応します。当然ながら負の連鎖が起き、エスカレートします。

短く言うと、何かに失望した時非常に強いエネルギーを発する人です。物事や人間関係がどういう仕組みになっているのかを理解しておらず、そのまま成人してしまったのでしょう。自分の思い通りにならなかった時にどう対処するかを教える人がいなかったのではないかと思えます。

・・・とここまでは、描かれている人物の話です。

★ 監督は何を言いたかったのか

映画の視点ではブロンソンを狂人とは見なしていません。極度に凶暴な人間と見なしています。起こした事件に対する責任を本人に求めるので刑期がどんどん延びています。

不服従に対する懲罰の意味が多分にあり、看守を襲ったので刑務所の怒りもあるのでしょうが、娑婆で行った犯罪とのバランスを考えると、刑務所側、ブロンソン共に冷静さを失い、エスカレートしたとも見えます。その凄まじさを描くのが監督の意図だったのでしょう。

フリーズ・フレームもエキセントリックな男の話でした。殺人の冤罪で懲りた男が徹底的に自分の生活をビデオで記録するという話です。ブロンソンはこの作品と同系列になるかと思います。社会が一個人の人生をどこまで狂わせるかという例です。外から見るとブロンソンは危険極まりない男、フリーズ・フレーム のショーンは際限ないパラノイアに取り付かれた男となります。当事者の側から見ると、2人はとことん意地になっていることになります。その両者に圧力をかけたのは刑務所や警察。このエキセントリックさに私はついて行けません。

★ 監督の曖昧さ

フリーズ・フレーム は劇映画で、警察が自分たちの失敗をもみ消すというテーマでした。監督のスタンスは「そういう事が1人の人間の人生を狂わせた、これは行けない」ではっきりしています。

Bronson ではマイケル・ピーターソンの人生を描きながら監督がどのスタンスを取っているのかが見えませんでした。甘やかすことを愛情と取り違え、子供にきちんとしつけをしない親に対する批判でもなく、娑婆で起こした事件と量刑のバランスを考えない当局への批判でもなく、不服従の囚人に対して警棒を振り回すだけの刑務所職員への批判でもなく、ただ「こういう事があった、こうなってしまった」と描写されるだけなのです。

★ 材料は揃っていたのに

ファンタの実質初日に出た作品なのですが、ファンタ前半の「今年は弱い作品が多い」という評判の一翼を担った作品です。

俳優やセットなどには過不足ありませんでした。音楽がうるさいと感じたのが唯一の欠点。なのに作品が仲間内で気に入られらなかったのは曖昧さが原因ではないかと思います。今年は技術的な材料、資金、俳優の資質などに特に問題が無いのに、不発に終わった作品がいくつかありました。

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