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2008 UK 91 Min. 劇映画
出演者
Michael Fassbender
(Steve - ヤッピー)
Kelly Reilly
(Jenny - 保母)
Thomas Turgoose (Cooper)
Bronson Webb (Reece)
Jack O'Connell (Brett)
James Gandhi (Adam)
Shaun Dooley
Finn Atkins (Paige)
Thomas Gill (Ricky)
見た時期:2008年8月
今年は時々感じの悪い作品や、作った意味がはっきりしない作品がありました。Eden Lake もその1つで、なぜオープニングに選ばれたのか不思議です。すぐ出す気にならなかったので、今頃のご紹介となります。今年春のファンタに出た Eden Log と全く別な作品です。お間違いのないよう。
★ ポスターの印象
主人公の女性がドロだらけになって睨んでいる写真がポスターに使われています。ポスターはできがいいのですが、ここから浮かぶイメージとストーリーにはずれがあります。私ならこのポスターを見たら出来のいいホラーかと誤解します。
森の中を逃げ回るのでこの女性は確かにこういう姿になります。嘘の写真ではありません。しかし Eden Lake は鬼ごっこのシーンが多く、あまりゆっくり考えている時間の無い作品です。
★ むかつくストーリー
幼稚園の保母さんをしている女性ジェニー(ポスターの女性)と羽振りのいいヤッピー風男性スティーヴのカップル。まだ結婚はしていませんが、親密な仲で、スティーヴは結婚を申し込むつもりです。ロマンティックな週末を過ごそうというのでテントを持ってキャンプに行きます。湖を見つけ湖畔にテントを張ります。その湖の名前がタイトルになっています。
湖の名前を書いた看板の裏側に何か書いてあります。2人がそれを読んだとしても、何でも自分の意見を通したがるスティーヴが他の場所を探したかは明言できませんが、冒頭観客に示される一言がこの作品を言い表わしています。ホラー映画の文法通り、やっては行けない事、止めておいた方がいい事のパレードがここから始まります。
前半スティーヴ主導型で行動する2人。女性の解放運動が日本へやって来たのは欧州、アメリカからですが、英米を見ていると意外に男性に従属するタイプの女性が多いです。この2人を見てなぜあんな男がいいんだろうと思われる方もおられるかも知れません。
さて、湖畔に勇んでやって来た2人ですが、土地の不良の子供たちに出くわし、キャンプの邪魔をされます。ジェニーは関わらない方がいいというスタンスなのですが、スティーヴが逆に逆に動き、子供たちを必要以上に刺激します。スティーヴは旅行し慣れていないなあと感じます。ジェニーは不安から消極策を提案するのですが、TPOを考えるとジェニーの方が正しいように見えます。
自分を通した結果スティーヴは痛い目に遭わされ、事がエスカレートし、命の危険が生じます。当然ながら自分だけでなく、ジェニーも危険に晒されます。スティーヴは重傷を負い、今度はジェニーが試される番です。ホラー映画なので当然ながらスティーヴもジェニーも常識と反対の行動を取ります。「こういう時は逃げる」、「こういう時はためらわず通報する」、「こういう時は避ける」といったあったり前の行動をしません。その結果、スティーヴよりは頑張るジェニーにも危険が及びます。そして最後は非常にむかつくショーダウン。
★ ああ嫌だ
一言で言うと《不条理物》で、私が嫌いな《週末に旅行に行ったら襲われる》という最近流行りのパターンです。無論穿った見方をすれば、贅沢をできない人がヤッピーをやっかんで作った作品、あるいはそういう人たちが鬱憤を晴らすための作品なのかも知れません。万年ジリ貧の私はこういうキャンプすらできる立場でないので、本来はこのショーダウンに歓声を上げるべきなのかも知れません。しかしそういう私が見てもこの作品はむかつくばかりでした。
私はヤッピーが好きではなく、地味に仕事をして家族を思い頑張っている人の方に好感を抱きます。しかしたまたま誰かが大金持ちならそれはそれで良く、自分の立場に合った行動、責任を期待します。(例えば贅沢をして自分の事を秘書や雇い人にやらせても、そういう形で職場を1つ2つ増やしてくれたり、物を買ってくれれば、貧乏人とは別な形で社会に貢献しているわけです。)ですから単にこの男がヤッピーだから、この女があまり自立していないからと責める気は無く、それぞれの立場の人がその人なりの暮らしをしていればいいと思っていました。
簡単に言ってしまえば、皆がそれぞれの生活をしているのだったら自分より儲かっているヤッピーが苦しんでいるシーンを見せられても、ジリ貧の立場で見て特別うれしくはならないのです。
★ 別なむかつき
ヤッピー・カップルが時に自分に責任のあるドジをやって、それが跳ね返って来るというのもこの作品のテーマの1つですが、もう1つその2人と対決する子供たちも重要なテーマです。
どうしようもなく荒廃した精神の子供が数人つるんいて、よそ者のカップルに危害を加えます。かなりひどい事をしますし、結果としてスティーヴの命が危険にさらされます。スティーヴを思ってはらはらするというのも1つの趣向でしょうが、子供たちの側からの視点も重要です。
子供の中には上下関係があり、1人独裁者的で危険な少年がいます。その子に逆らうと子供同士でも命が危ないです。それを十分承知して黙々と命令に従う子、仲間に入らず、出会うと苛められるのでできるだけ外にいる子など反応は様々。1人のボス的な子供に引きずられる様子は見ていて不快以外の何物でもありません。こういうのは映画の製作国に関係は無いでしょう。日本でも十分あり得る人間関係です。
★ 当然の帰結
子供の中に本当に邪悪と呼んでいいような子が1人、2人いるのですが、じゃあ、なぜこの子たちがこういう風になっているのかを考えると、親の因果という結論に直結します。何の疑問も挟まずただそれだけを原因と扱っているこの作品の単純さに呆気に取られますが、それでも親の教育の結果こういう子供に育ったという可能性が1番大きいだろうとは言えます。親自身が将来にこれと言った広がりの無い貧困層に閉じ込められており、自分が子供だった時には現在の子供と似たような状況で育ったのでしょう。環境が人間を作り、それが次の世代に伝わって行くということは十分表現されています。あまりにもそれだけという解釈が気になりますが。
★ 誰に薦めたらいいのか
この作品を見て楽しいと感じる人がいるだろうか、これで鬱憤が晴れるだろうか、一体誰のために作ったんだろうかと疑問続出。親しくしている友達に薦める気にはなりません。これを見たらその後1週間ぐらいはむかついているのではないかと思うからです。よほどへそ曲がりの人になら薦められるかと思いましたが、それもだめです。
以前ファンタの仲間に2人ほど稀代のへそ曲がりがいました。どんな作品を見ても私たちと反対の意見を言うのです。皆が喜んでいて楽しめた作品でも「・・・でも」と来ます。1人は悲しい事に病死。弔辞に仲間が「君はへそ曲がりだった」と書く人が出るぐらいのへそ曲がりでした。もう1人は数年前に表舞台から消えました。しかし私たちは今でも2人を懐かしく思っていて、へそが曲がっていても仲間だと感じています。2人の意見を聞いてみたくなるのです。その2人にすらこの作品を薦める気になりません。万一薦めるとしたら最初に「見終わったらむかつくぞ」と警告を発しておくでしょう。へそが曲がっていて「おもしろかった」とか「楽しかった」と言うかも知れませんが、私たちの側からは一言「むかつく人が多いぞ」ぐらいは言ってあげようと思うのです。
饅頭恐いではありませんから、Eden Lake に裏はありません。ムカーっと来ます。
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