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2009 UK 100/298 Min. 劇映画
出演者
David Morrissey (Maurice Jobson - 刑事局長)
Saskia Reeves (Mandy Wymer - 霊媒)
Warren Clarke (Bill Molloy - 地元警察幹部)
Shaun Dooley (Dick Alderman - 捜査官)
Chris Walker (Jim Prentice - 捜査官)
Tony Pitts (John Nolan - 刑事)
Jim Carter (Harold Angus - 刑事)
Tony Mooney (Tommy Douglas - カラチ・クラブ事件で負傷し、引退した刑事)
Michelle Holmes (Sharon Douglas - トミーの妻)
Charlotte James (Karen Douglas - トミーの娘)
Sean Harris (Bob Craven - カラチ・クラブ事件で負傷した刑事、トミーの当時の相棒)
Mark Addy (John Piggott - ミシュキンの弁護士)
Peter Mullan (Martin Laws - 地元の神父)
Robert Sheehan (BJ - カラチ・クラブのバーテンダー、男娼)
Kelly Freemantle (Clare Strachan - カラチ・クラブのウェイトレス、模倣犯の犠牲者)
Daniel Mays (Michael Myshkin - 幼女連続殺人犯、知的障害者)
Gerard Kearns (Leonard Cole - マイケルの友人)
Cara Seymour (Mary Cole - マイケルの母親、レオナルドの母親、ピゴットの父親の知り合い)
Joseph Mawle (ヨークシャー・リッパー)
Tamsin Mitchell (Hazel Atkins - 最近失踪した少女)
Andrew Cryer (Atkins - ヘイゼルの父親)
Andrew Garfield (Eddie Dunford - 地方新聞の記者)
Anthony Flanagan (Barry Gannon - エディーの先輩記者)
Paddy Considine (Peter Hunter - スコットランドから派遣された刑事)
Sean Bean (John Dawson - 地元の不動産、建設方面の有力者)
見た時期:2010年4月
★ 事件の全容が明らかになる
また監督が変わりました。前の主人公も死んでしまったので、新しい人物がメインになります。モーリス・ジョブソン。警察の局長です。そもそもの始まりから事件に首を突っ込んでいる人ですが、グループの中では比較的消極的で、黙って上の指示に従っていました。とは言っても、第1作の最後、エディーが持ち込んだ重要な証拠書類を破棄させた人物です。チンピラのような刑事が被疑者を拷問している現場にも立ち会っています。色々なやばい場所に顔を出していましたが、積極的に自分から何かをやる人ではありませんでした。
受動的だったジョブソンが積極的に動き出すきっかけを作ったのはヘイゼルという少女の失踪事件。1974年頃頻繁に起きていた少女誘拐事件がまた起きました。当時、少女連続殺人事件の犯人としてはマイケル・ミシュキンという知恵遅れの青年、1人だけ紛れ込ませたウエイトレスの殺人はレオナルド・コールというマイケルの友人が犯人とされ服役中。そしてヨークシャー・リッパーも1980年には捕まっており、事件は解決したこととされていました。
同僚に殺されてしまったハンターは実はウェイトレス殺人事件は刑事の1人が犯人だと理解しており、エディーも1974年の少女殺人事件の犯人に行き着いていました。観客は知っていますが、世間はそんなことは知らず、逮捕された2人の青年が犯人と信じていました。
世間に発表した公式の犯人も、悪徳警官や汚職有力者が知っている真犯人も、それとして一応けりがついていたはずの1983年に起きた新たな誘拐事件はジョブソンの頭に大きな疑問符をもたらし、ジョブソンは調査を始めます。
同じくこの事件がきっかけで動き出したのは被告人の家族から強引に弁護を引き受けさせられ、再審請求に乗り出した弁護士のピゴット。最初はあまりやる気の無かったピゴットですが、間もなく被告人が怪しげな自殺をしてしまいます。被告人の母親から頼まれ正式に弁護契約をする直前ですので、ピゴットの頭にも大きな疑問符が引っかかってしまいます。
1974年と1980年に上手くつじつまを合わせた汚職プロジェクト・チームですが、全員が全てを知っていたわけではなく、何人か死人も出ており、全容を知っている人物はごく限られていました。そこへ新しい事件が起きてしまい、無理に合わせてあった辻褄にほころびが生じてしまいます。
登場人物のほとんどが過去に何かしら良心の咎める出来事を経験しており、できれば腐った町の出来事に蓋をしてしまい、何事も無かったかのように暮らしたいところ。しかし新しい事件はそれを許してくれません。
★ ボタンの掛け違い
まず1983年になって起きたヘイゼルの失踪。状況から見て、1974年に起きた連続殺人事件の犯人がまだ巷を大手を振って歩いていることになります。
ということは単純計算をしてみても刑務所にぶち込まれているマイケル、あるいはレオナルドは真犯人とは言い難くなって来ます。無実のマイケルを拷問して自白を強要し、精神薄弱で自分を守る力が無いことを利用し、犯人に仕立て上げてしまったことになります。マイケルは第一発見者だっただけです。
マイケルに改めて質問に出かけたジョブソンですが、マイケルは怯え切って失禁してしまいます。物静かに考える性質のジョブソンはそれを見てますます疑いを抱くようになります。観客には一緒に来た刑事がマイケルに過去の拷問を思い出させるようなシグナルを送っているのが見えます。当時取り調べの時にマイケルは捏造自白を強要され、知恵遅れながら自分がやっていない事はやっていないと言っていたのですが、そのたびに酷い拷問を受け、やがて従順になって行きました。ジョブソンは隣に座っている同僚が密かにマイケルを脅していることには気づきませんが、マイケルがかつて拷問を受けたことには気づきます。自分もそういう尋問に立ち会ったことがあったからです。悪徳刑事グループは頻繁に拷問をしていました。
マイケルの捏造自供によって大きくボタンが掛け違います。それで隠れてしまった真犯人はジョン・ドーソン。この実業家には幼女を苛める趣味があったのです。・・・ということになっているのですが、このプロットはちょっと弱いです。ショーン・ビーン演じるドーソンは悪に手を染めつつ成功した実業家で、1974年にも大きな都市開発計画を実行し始めたところでした。何かやれば成功するタイプで、権力欲の塊のような自信満々な男です。そのため夫人の方がノイローゼ気味で、精神を病んでしまいます。この種の男が抵抗できない小さな女の子を餌食にしたがるかについてはちょっと疑問。むしろ抵抗も可能な大人を撃ち落し、敗北感を味わせることを好むのではないかと思いました。それはともかく、第1作の冒頭起きた白鳥の羽殺人事件はドーソンが犯人でした。
★ 入れ子のように犯人を隠す
この作品が推理物としてもっとおもしろくなる可能性を秘めているのは、その次の段階です。私たちはエディーの事件でドーソンが犯人だと思い、事件の解決としてはそれで満足していました。ところがその先があるのです。ドーソンは連続事件の1つにすぎず、別な男が専門職だったのです。町の牧師が子供を汚職プロジェクト・チームに斡旋していました。客はドーソンであり、別な日には刑事でありといった具合です。後に弁護士になったピゴットの父親もそういう刑事の1人でした。
★ 森の中に木を隠す
第1作の事件の目撃者を消す時にはヨークシャーー・リッパー事件に1人犠牲者を紛れ込ませています。これも推理物のプロットとしてはおもしろいです。特別ユニークというわけではありませんが、森の中に木の枝を置いても特に目立たないという手法。
★ ドーソンの周囲の女性の不運
第1作でエディーの恋人になる女性は牧師がさらって犠牲になった子供の母親です。その母親をドーソンは愛人にしています。呼ばれれば行かなければならないような関係のようです。ドーソンは既婚者。その夫人は頭がおかしくなっています。まあ、こんな事が続いていれば離婚するか頭がおかしくなるかしか道は無いでしょう。
エディーの恋人になった女性は事件後自殺をした人の未亡人。子供がいなくなったために絶望して夫婦関係が壊れ、夫が死んだのかなどと楽観的な解釈をしていたのですが、後半、エディーにドーソンとその女性の関係がばれた時に、決定打の一言が飛び出し、そんな単純な話ではないことが分かります。エディーにとってもガーンと一撃ですが、観客もうわっと思います。腐っている、この町は・・・。
★ プロットの弱さ
こんな具合なので、3作目の刑事局長が真相究明をやってしまうと、彼の命も危ないはずです。ところがここでふにゃっと弱くなり、ハッピーエンドにこぎつけます。なんでやねん。1作と、2作目のハードボイルド性はどこへ行ったんや。
その上あろうことか、3作目はオカルト映画になってしまうのです。改めて子供が失踪し、何とかしなければ行けないのに行き詰まり、刑事局長と刑事が2人で霊媒(何でやねん!?)を訪ねるのです。するとその霊媒は「子供が助けを呼んでいるぅ〜」などとのたまい、ある場所を示したりします。
さらにあろうことか、刑事局長と霊媒はあっさり寝てしまいます。何でやねん。
3作目に入ってわけの分からない展開にもなりますが、2つの連続殺人についてはそれぞれ理屈の通った説明があります。
説明をすると大々的なネタバレになります。どうしてもご覧になりたい方は、マウス(左)をクリックした状態のカーソルでたどって下さい。
情報はここから・・・
☆ 1974年の事件
死体に白鳥の翼を縫いつけられた少女の殺人はドーソン。
バリー・ガノンの事故死は仕組まれた殺人。
ポーラ・ガーランドの娘は一連の誘拐殺人事件の犯人に殺される。
ポーラ自身はドーソンの意を受けた刑事にやられる。
ドーソン殺人はエディー。
エディーは自殺的事故死。
一連の少女殺人事件の結末は3作目に持ち越し。
ドーソン殺人がどう扱われたかも3作目に持ち越し。
☆ 1980年の事件
クレア・ストラチャン(事件当時ウエイトレス)は刑事に殺された。動機はドーソンが死ぬ時現場を目撃していたから。
同じ理由でBJ(事件当時ウエイター)も危ない。2人の現場からの逃亡は2人の刑事に目撃されている。
ドーソンの死後起きた酒場の大量虐殺は4人の刑事の手による。
町で起きた連続殺人事件の20人近い犠牲者はリッパーの手による。
☆ 1984年に明らかになる事
1974年のジプシーの居住地の火事は汚職グループの放火。刑事たちの手による。
ミシュキンは幼女殺人の犯人ではない。同じくレオナード・コールも事件に関係ない。
レオナード・コールの死は自殺と扱われているが、服役後新たに起きた殺人事件のため再審請求が具体化したとたん消された。
ドーソン他汚職グループに幼女を斡旋していたのはマーチン・ローズ。
斡旋を受けた汚職グループの男たちがかわりばんこに子供を殺していた。
ドーソン他のグループは1974年の時点で、英国北部のポルノ雑誌産業を一手に握り、同時にショッピング・モールを大々的に作る計画を立てていた。
ピゴットの父親は刑事で、子供の斡旋を受けていた。後に自殺している。
ドーソン殺人の現場にいた刑事の1人で、負傷し引退したトミー・ダグラスはその後ポルノ関係の仕事に就く。
新たに起きた誘拐事件により、当時マイケルやレオナルドを犯人に仕立てたことがばれそうになる。ダグラスは間もなく娘と一緒に死体で発見される。手口を見ると牧師の犯行と考えられる。彼の相棒のボブは2作目の終わりに片付けられている。
☆ ドーソン殺人の扱い
エディーは恋人の死を見て、ドーソンに復讐を企てる。ピストルを持ってドーソンがいた店に乱入し、ドーソンを仕留め、車で逃亡する。追って来たパトカーに向かって車を走らせ自爆、死亡。
エディー乱入、ドーソン殺害直後に4人の刑事が覆面姿で店に現われ、その場にいたほぼ全員をマシンガンなどで殺害。ドーソンはエディーに殺されたとはされていない。現場から逃げ出したウエイターとウエイトレスは刑事に目をつけられており、ウエイトレスはリッパー事件に紛れ込ませて殺された。次はウエイターのはずだったが、彼は助かる。
・・・ここまで。
★ 分かり始めた英国
長い長い間私は英国という国について不思議に思っていました。大英帝国の昔から、国連が大きな力を持っている現代まで、英国は表に、裏にと形を変えて世界のかなりの部分を手に収めていました。そんな凄い国、海外の有色人種が移民の希望国の1番目か2番目に挙げる国、さぞかしすばらしい国だろうと思っていた時期があるのですが、いざ訪ねてみると全然違っていました。ロンドンに住む外国からの移民はあまり幸せそうではなく、他所から訪ねて来た外国人の観光客を差別したりします。鬱憤を晴らしているんでしょうねえと私も諦め顔。
ちょっとそんな経験をした後少し目が開き、英国はどんな国なんだろうと思って見ると、中部から北の方の人たちは、意外にも失業者が多く、失業保険で暮らしている人たちがお互いに助け合っている様子もなく、明るさがありませんでした。最近少し様子が変わっているのかも知れませんが、町じゅうが麻薬漬けになったなどというよろしくない話も耳にしました。30代、40代の働き盛りの人が社会保険が家賃を出すアパートに住み、失業保険で暮らし、時々新しい技能を学ぶために学校にも行かせて貰い、子供を育てられるだけの手当てを貰い、医療費は無料にも関わらず、仕事だけは貰えないという事情をレポートした番組を聞いたこともありました。メディアを通じての情報ですので偏りがあるかとも思われますが、いずれにしろ、世界に大きな力を持った国なのに、国内の人は非常に不幸に見えました。
そんな事を知ってからは映画を見て、「なるほど、そういう事情を描写しているんだ」と気づいたりしました。事情を知らずに見るとホラー映画だから、そういう演出にしたんだと思うところですが、最近はただ単に現実を表現しただけなのだと考えるようになっています。
その視点で見ると、この国は一体なぜ国民をこんなに長い間不幸にしたままなんだろうという疑問が湧いて来ます。国としては今の大不況でない時は儲かっていた時期もあります。しかし英国の企業は私の知る限りどんどんつぶれていました。かつては職人芸のすばらしい自動車、おもちゃ、衣類等などがあり、英国産の製品なら是非買おうと思ったものです。私が今でも大切にしているおもちゃも英国製で、両親に貰ってからもう50年以上経っています。
英国はいつの頃からか物を作る国を止めて、マネートレーダ 銀行崩壊のような商売に専念する国に変わったのでしょう。国にはお金がたくさんあり、国民に失業保険を払って食わせてやる余裕があったのかも知れません。私は経済の専門家ではないので、本当のところは分かりません。これは印象です。
上の方の層に属する女性たちの表情も独特で、人生の楽しい部分がスパっと抜けているような印象を受けます。屈託の無い笑顔というのを滅多に見ません。報道を見る限りでは女性のアルコール依存も増えています。世界有数の金持ち国の1つだったはずですが、現在は暗い話ばかり聞こえて来ます。作者はそういう面にスポットを当てたかったのでしょう。私には十分伝わって来ました。
推理物としてもう少し脇を固めれば、社会物兼推理物でかなり行けたと思います。ちょっと残念です。
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