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ラバー /
Rubber

Quentin Dupieux

2010 F/Angola 82 Min. 劇映画

出演者

Stephen Spinella
(Chad - 保安官)

Jack Plotnick
(経理担当者)

Wings Hauser
(車椅子の男)

Roxane Mesquida (Sheila)

Ethan Cohn (Ethan)

Charley Koontz (Charley)

Daniel Quinn (父親)

Devin Brochu (息子)

Hayley Holmes
(Cindy - ティーンエージャー)

Haley Ramm
(Fiona - ティーンエージャー)

Cecelia Antoinette
(アフリカ系の女性)

David Bowe (Hughes)

Remy Thorne (Zach)

Tara Jean O'Brien (掃除婦)

Thomas F. Duffy
(Xavier - 副保安官)

Blake Robbins
(Luke - 副保安官)

Pete Dicecco
(Pete - 副保安官)

James Parks (Doug - 副保安官)

Courtenay Taylor
(Denise - 婦人警官、副保安官)

Pedro Winter (タイヤを焼却する男)

見た時期: 2010年8月/2011年7月

ネタバレと言うほどの説明は入れていません。詳しく説明されてもあまり理解できないと思いますが。

★ 1度だけの実験映画

ファンタには驚くようなアイディアの作品が来ることがあります。所謂実験映画よりはエンターテイメント性があり、お金はそれほどかけず、人をあっと驚かせる作品です。そういう作品の中にはアイディアの性質上殆ど1回切りの作品があります。

例えば後で考えると全然おもしろくなかったのですが、1度だけ観客に期待を持たせ、最後まで引っ張る力を持っていたのが、ブレア・ウィッチ・プロジェクト。監督はこれ1作で燃え尽きたのか、その後あまり話を聞きません。続編はあったのですが、評判は上がりませんでした。

今考えても恐ろしいのがキューブ。全く同じコンセプトで他の監督が続編を作るほどに評判を取りましたが、監督自身はすぐ次のジャンルの作品に移り、またまた独創的で1回切りのアイディアを使った NOTHING ナッシング も作っています。この人の頭は多分アイディアの宝庫で、監督としての腕も確かなようです。

Rubber は実験映画の匂いが強いという意味ではブレア・ウィッチ・プロジェクトの方に近く、エンターテイメント性はブレア・ウィッチ・プロジェクトより良く、画面などの完成度はヴィンチェンツォ・ナタリよりは落ちる、だからと言ってそれが作品の価値を下げてはいないという作品です。

★ 節約、節約、節約、でもみすぼらしくない

デヴィッド・リンチの作品を思わせるような、特殊撮影の少ない、特にシャープな画面でもない地味な画面で、トリック撮影と言えば、主人公の動きを恐らくは紐で釣ったり、棒で支えたりしているのかなと思えるシーン、人が死ぬ時に飛び散る血や肉のシーンぐらい。地味な手法のみ使っています。

撮影をしたのはどこかの砂漠。記録を見るとカリフォルニアのようです。名前の知られていない俳優、主人公はゴム・タイヤ、セットは安モテル、備品、小道具は椅子や車など、ごく僅か。

ホラー映画という事になっていますが、見終わると、それ以上の広がりのある作品で、「なんでやねん」というシーン満載。考えれば考えるほど分からなくなるので、あまり深く考えない方がいいです。物は極力節約し、その分頭はフル回転。監督にしてやられるのですが、後味の悪い作品ではありません。

★ わけの分からないストーリー

砂漠。十数人の聴衆の前で保安官が突然演説を始めます。この男、助手である経理に車を運転させ、自分は座席ではなく後ろのトランクの中に入っているので、初登場するシーンから「なんでやねん」。

近くにいる十数人を相手に上から目線で映画論をぶちます。招かれたらしい観客は望遠鏡を手渡されますが、立ちんぼう。冒頭人数分の椅子が置いてあるのですが、保安官が乗っている車が1つずつご丁寧にぶつけて潰してからの登場。

ネタバレはこのシーンにあり、保安官が一言「世に出ている映画には意味が全く無い!」。見終わると納得する一言です。

渡された望遠鏡を使って観客は立ったままはるか遠くにあるゴム・タイヤのロバートを眺めます。

このタイヤが主人公。最初はよろよろしていましたが、何度か立つ練習をして、その後は転がり始めます。暫く行くと、目の前の邪魔な物を神経を集中させて破壊してしまいます。最初は空き缶を潰したり、瓶を破裂させたり。それがやがて邪魔な物ではなく、邪魔な動物、邪魔な者に変わって行きます。

どちらが前か、後ろか、上か下かも分からない古いタイヤですが、間もなく殺人タイヤに変身します。相手に対して敵意が強く、まるで人を殺せる電磁波でも出しているかのよう。

ゆらゆら転がりながらついたのはしょぼいモテル。そこには人もいるので殺人も。そして本人、と言うか本タイヤは部屋に入ってゆっくりリラックス。テレビを見たり、シャワーを浴びたり人間的な振る舞いもあります。

後半わけが分からなくなるのは、タイヤの悪さと無関係に、観客が毒を盛られ死んでしまうというストーリーが盛り込まれているから。こちらの犯人は冒頭出て来た保安官の指示を受けた経理。ところが中に1人望遠鏡でタイヤを見るのに夢中で空腹も感じない男がいて、その男だけは死なない・・・。

★ 弱点

アイディアの大部分は斬新で、いい点をつけますが、唯一止めておいた方が良かったと思ったのは、保安官たちと私たちが混ざってしまうシーン。映画の枠が外れてしまい、死ななかった観客、モテルに来ていた保安官たち、そして映画館で見ている私たちが混ざってしまいます。いかにも稚拙な実験映画という感じになってしまう部分です。この時だけは映画学校の学生が作ったのかと思いました。

その他はナンセンスぶりと、画面、俳優にバランスが取れていて、上手にまとまっています。

ああ、言い忘れた。タイヤは保安官たちに怪しまれ、トリックにおびき出されて殺されてしまいます(タイヤの殺人力に限界があり、笑えるシーン)。ところが死んだはずのタイヤは一枚上手。ですのでその気になれば続編も作れますが、止めておいた方がこの作品の価値は上がると思います。

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