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Irland 2011 96 Min. 劇映画
出演者
Brendan Gleeson
(Gerry Boyle - 制服警官)
Fionnula Flanagan
(Eileen Boyle - ゲリーの母親)
Rory Keenan
(Aidan McBride - 殺された新人制服警官)
Katarina Cas
(Gabriela McBride - エイダンの妻)
Declan Mannlen
(James McCormick)
Laurence Kinlan
(鑑識のカメラマン)
Mícheál Óg Lane
(Eugene Moloney - 村の少年)
Gary Lydon
(Gerry Stanton - 警視)
Darren Healy
(Jimmy Moody - 私服刑事)
Mark O'Halloran
(警官)
Laura Hitchings
(婦人警官)
Sarah Greene
(Sinead Mulligan - 売春婦)
Dominique McElligott
(Aoife O'Carroll - 売春婦)
Liam Cunningham
(Francis Sheehy-Skelfington - マフィアのボス)
Mark Strong
(Clive Cornell - 上から2番目のマフィア)
David Wilmot
(Liam O'Leary - サイコパスのマフィア)
Owen Sharpe
(Billy Devaney - 容疑者)
Eamonn Olwill
(Priest - 司祭)
Don Cheadle
(Wendell Everett - FBI)
Pat Shortt
(Colum Hennessey - IRA)
Ronan Collins
(交通事故を起こす若者)
Paraic Nialand
(交通事故を起こす若者)
John Patrick Beirne
(交通事故を起こす若者)
Liam O'Conghaile
(交通事故を起こす若者)
Christopher Kilmartin
(交通事故を起こす若者)
見た時期:2012年4月
★ パクったか
前の作品が優等生的な作品とすると、こちらはわざとモラルなどをきれいにスルーして、やりたい放題、言いたい放題、むちゃくちゃを売りにした作品です。このジャンルも最近ではきっちり確立して、いくつかそういう作品が作られていますが、これは失敗作。いい俳優を呼んでいるだけに残念です。
この作品も一部パクリの疑いがあります。2003年にファンタに出た You can't stop the murders とそっくりの始まり方をします。あまり仕事熱心でない制服警官がその日の仕事を始めたところ、若者の運転する車が通りかかり、暫くすると死亡事故に。
社会から隔絶して居眠りしているような小さな村にもマフィアがやって来て麻薬の密輸を計画。そこへアメリカから FBI が乗り込んで来ます。このあたりから You can't stop the murders との類似点がなくなります。
雰囲気的には You can't stop the murders にホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!を加えたような感じがします。
★ キャラクター
主演の1人がアイルランドの制服警官ゲーリー・ボイル。末期癌の母親を抱えていて、独身。田舎者で、自分は島国根性のアイルランド人だというアイデンティティーのしっかりした中年男。一生に一度だけ行った外国は、アメリカのディズニー・ワールド。
最初から特にはっきりさせてあるのは、ゲーリーが頑固な田舎者で、偏見やクリシェーで頭が固く、黒人はゲットーに住み、麻薬漬けといった固定観念を持っています。物怖じせず、捜査会議でも堂々と発言し、自分の偏見を披露。ドン引きする上司を尻目に全く意見を変える意思もなければ、空気を読んだモラルの芝居に加担もしません。KY の権化のような人物。
もう1人の主演はアメリカから捜査で派遣されて来た FBI のウェンデル・エヴェレット。ボイルに黒人のスラム街で育ったんだろうと言われてしまいますが、実はエリート中のエリート。既婚者で子供もいます。上品で教育水準が高く、近年のアメリカ人に良くあるように、黒人差別はもってのほかと考えており、卑屈になることもなくこれまで立派な仕事をこなして来た人物。頭だけではなく体も張り、これまで何度か撃たれたこともあります。
アメリカ南部でもここまで頭の固い白人はいないだろうと思えるようなゲーリーと仕事をすることになり、ゲーリーの黒人に関する固定観念にぶつかり、加えて島の人も全く協力をしないので、捜査は難航。中には英語が分かっていても一言も英語で話してくれない人もいます。
対するマフィアのボスのフランシス・シーイー・スケルフィントンには渋い俳優リアム・カニンガム。マフィアの世界も最近は近代化が進み IT 機器を使った超ハイテク犯罪者もいますが、フランシスはローテク・マフィア。金融マフィアなどではなく、麻薬を船で運ぶという裏実体経済派。数人の手下を連れて乗り込んで来ます。
他に制服警官、刑事合わせて1ダースちょっと、殺された警官の未亡人、ゲーリーが注文した売春婦2人、武器を発見した少年などが登場します。
★ 事件と捜査
アイルランドはコーンメイラの田舎。ダブリンから赴任してきた新人でゲイの警官エイダンが前半で殺されてしまい、死体が消えてしまいます。夫が帰宅しないので美人の奥さんが心配して届けに来ます。
ちょうど同じ頃男が1人殺されていて、部屋の壁に5と½ と血で書き残されていました。殺された男は国際麻薬密輸団に関わっていました。マフィアが大量の麻薬を密輸する目的でこの地に上陸して来ています。車を停めて尋問という時に殺されてしまうのがエイダン。車の中にいた数人の男たちがマフィア。
マフィアが麻薬を荷揚げする時、警察はよそを向いているように準備がしてあり、5億(ドルか、ユーロかは不明。いずれにしろ大金)の取引が成立するはずでした。署全部が鼻薬を嗅がされている中ゲーリーは頑固な性格から断わっています。
アメリカからマフィアの動きを追って派遣されて来たウェンデルが普段やり慣れた聞き込み捜査を始めようとしますが、ゲーリーは偏見のかたまり。村のほかの人も負けず劣らずよそ者嫌い。黒人だから相手にしてもらえないのか、単によそ者だからなのかは不明。捜査活動だとしても、アイルランドの制服警官が殺されたのだとしても、質問に来るのがウェンデルだと全く口を開きません。
しかし東欧出身で美人のエイダンの妻にゲーリーは心を動かされ、彼なりにがんばってみます。ゲーリーから差別用語などという生易しいものではなく、差別文章をバンバン言われてしまうウェンデルですが、色々お互いの家族のことなどを話しているうちに打ち解け、捜査は少しずつ進みます。加えて、アメリカからわざわざ麻薬の捜査に来たウェンデルはマフィアに鼻薬を嗅がされてていません。
つまり、黒人のウェンデルと打ち解けないのは、何も人種差別、よそ者差別だけではない、買収されていない人間が買収された人間の中にいると具合が悪いという理由も加わって来ます。そんな中ある町で荷揚げがあると考えたウェンデルは1人でそちらへ向かいます。
どっこいマフィアはまだ近くにいて、鼻薬を拒んだゲーリーを殺しに来ます。ゲーリーはちょっと前に少年が発見した武器の入った大きなバッグの中から小さなピストル、カラシニコフなど3つだけくすね、残りは IRA に横流し。その時取った小型ピストルをズボンの中に隠していたため難を逃れ、撃たれたのはマフィアの方。冒頭殺された男も実はこの男の犯行。その上まさか自分が死ぬとは思っていなかったこの男は取引の場所まで喋っています。なので生き残ったゲーリーは急いで他の場所に向かっているウェンデルを呼び返します。
取引の行われている埠頭に現われたゲーリーとウェンデルはマフィアと撃ち合い。ウェンデルもゲーリーも負傷しながら船に乗っていたボスも含め全員を討ち取ります。しかし船が爆発。陸にいたウェンデルは助かりますが、船にいたゲーリーの行方は不明。尤も途中でゲーリーが冷たい海で時々海水浴をするシーンがあるので、恐らくは助かったことでしょう。続編ができるかも知れません。
★ 世間の評価に比べ
この作品はかなり良い評価を得ています。私の目には狙ったところに鰌がいなかったように見えます。1番の主演グリーソンがヒットマンズ・レクイエムで成功しているので、2匹目の土壌を狙ったと思います。国際的な評価では10点満点で7前後。ストーリーの枠を失敬されたかも知れない You can't stop the murders は国際的には6点前後の評価。ただ、You can't stop the murders は通の間では絶賛の作品で、そこからも2匹目の鰌を狙った可能性があります。
私の目にはヒットマンズ・レクイエムと You can't stop the murders にむしろ8点か9点ぐらいあげたい感じで、The Guard は釣り上げてみたら雑魚だったように見えます。
その理由は哀愁を漂わせていたヒットマンズ・レクイエムのグリーソンに比べ、The Guard のグリーソンはフランスのちょっと前のコメディー(例えばルイ・ド・フュネス)のようなスタイルで、彼の取る態度に意外性が少なかったことが挙げられます。最初の警察のミーティングの時に彼のキャラクターが明かされてしまい、その後の彼の態度に驚きが無い点がマイナスに働いています。役者としてのグリーソンの良さはヒットマンズ・レクイエムに集中しています。加えて、相方に選んだドン・チードルが今ひとつ輝いていない点もマイナスに働いています。ヒットマンズ・レクイエムでのコリン・ファレルとのコンビは絶妙で、2人揃って笑いと哀愁の両方をかもし出していました。 チードルは表情が乏しく、裕福に育ち、インテリで、アメリカで白人にもそれなりの尊厳を持って扱われる優秀な捜査官が、欧州のド田舎の物を知らない制服警官に言いたい放題言われる 戸惑いが出ていません。この役にはいっそのことコメディーに慣れているジョン・モートンを呼んで来た方が良かった、あるいは無名でもいいからインテリ、エリート色の出せる俳優を連れて来た方が良かったと思います。
グリーソンは出番が短くても印象を残す演技ができる俳優なので、使い方を誤らなければいい作品が期待できます。万一続編を作る時は脚本を練ってもらいたいと祈るばかりです。
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