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Finnland/D/Australien 2012 93 Min. 劇映画
出演者
Udo Kier
(Wolfgang Kortzfleisch - 第三帝国の総統)
Tilo Pruckner
(Richter - 科学者)
Julia Dietze
(Renate Richter - リヒターの娘、教師、軍人)
Götz Otto
(Klaus Adler - コルツフライシュの後継の地位を狙う軍人)
Christopher Kirby
(James Washington - 月面の宇宙飛行士、ファッション・モデル)
Stephanie Paul
(アメリカ合衆国大統領)
Peta Sergeant
(Vivian Wagner - 大統領選挙参謀、キャンペーン・スペシャリスト)
Monika Gossmann
(Designer)
Kym Jackson
(McLennan)
国連代表
Tero Kaukomaa (フィンランド)
Yuki Iwamoto (日本)
Samir Fuchs (中東)
Ramin Yazdani (パキスタン)
Irshad Panjatan (インド)
Jeffrey Coulas (英国)
Claus Wilcke (ロシア)
Nick Dong-Sik (北朝鮮)
Fang Yu (中国)
その他の第三帝国月面基地の軍人、居住者
Jim Knobeloch
(武装親衛隊将校)
Eugene Schlusser (将校)
Vivian Schneider (Brunhilde)
Milo Kaukomaa (Siegfried)
Lisa Zoe Brautigam (Hannelore)
Martin Grelis
(武装親衛隊下士官)
Andrew Buchanan (武装親衛隊下士官)
Jorres Risse
(武装親衛隊)
Tom Hosbach (Dieter)
地球住民
Michael Cullen (国防長官)
Ben Siemer (Sanders)
Andreas Konzack (警備官)
George Koutros (ネオナチ)
見た時期:2012年6月
映画館到着の時は上映が危ぶまれました。何しろ定刻に来たのは私1人。少なくとも2人いないと上映しないそうで。上映中止になると、次の無料映画まで2時間待たなければなりません。コーヒーを取って待っていたら、幸いなことにカップル到着。その後他のカップルなどが到着。無事上映に決まりました。
あちらこちらのマニアの間で話題になっているパロディー作品です。制作は資金面もアイディアも関係者の寄付によってまかなわれ、インターネットに呼びかけて作られました。特にスタートレック・ファンが喜んで関与したようです。主要制作国はフィンランド。多くのアイディアが寄せられたようで、サラ・ペイリン始め多くの人物のパロディーに加え、多くの映画のオマージュになっています。
ドイツからは補助金と俳優が動員されています。ウド・キアーはお得意の第三帝国総統役。私はキアーがドイツ語を話すのを聞いたことがなく、もし彼のドイツ語シーンがドイツで改めて吹き替えされていないとすれば、彼のドイツ語を聞くのはこれが初めてになります。
知人はオリジナルを見たのですが、私はいつも行く夏場無料工場跡映画館で、珍しく料金を払って見ました。吹き替えです。この映画館は平日と金曜、土曜の午後8時開始までは450円とか500円の入場料を取って、屋内上映。金曜と土曜の午後10時からは野外、無料上映です。前回ご紹介した Super 8 スーパーエイトは無料。
オリジナルでは第三帝国の人間がドイツ語で話すシーンは実際にドイツ語、残りは英語だったそうです。ムーン・ベースでドイツ人は英語も勉強しているので、アメリカに到着してからはアメリカ人とは英語を話すという設定になっています。ドイツ吹き替え版では全部ドイツ語になってしまうので、注意して見ていないとごちゃごちゃになりますが、口元を見ているとドイツ語シーンで俳優がやたらはっきり口をドイツ語風に動かすので、大体は今何語でしゃべっているのか分かります。
★ あらすじ
時は2018年、所は月面。ちょうど地球からは見えない月の裏側に入っています。久しぶりの月訪問は合衆国大統領の選挙キャンペーンに使われていて、再選を狙うサラ・ペイリンそっくりの女性大統領が、選挙キャンペーン参謀ワグナーと一緒に企画していました。
2人のアメリカ人宇宙飛行士が月面を探索中で、アメリカの関心は月にあると言われる資源ヘリウム3。 ところが白い宇宙服を着た白人宇宙飛行士が発見したのは鉤十字型の大きな建物。グレーの宇宙服を着た同僚に知らせようとした時、彼は何人もの軍服風の宇宙服を着た兵士に撃ち殺されてしまいます。2人が月に来る時に使ったロケットも破壊され、グレーの宇宙服の宇宙飛行士は捕虜になります。
敵の基地と思われる所に連行され、宇宙服のヘルメットを取られた彼の姿を見て、捕まえた側は愕然。「黒い男だ!」
自分を捕まえた相手を見たアフリカ系アメリカ人宇宙飛行士も愕然。「何だ!ここは!」
捕まったアフリカ系宇宙飛行士はジェームズ・ワシントン。捕まえたのはヒットラーの死後ロケットで秘密裏に月へ逃げた第三帝国の後継者。つまりネオ・ナチではなくオールド・ナチ。この国がなぜ第三帝国と呼ばれるかと言うと・・・。
かつてばらばらだったドイツが1度まとまったのが神聖ローマ帝国。現在のドイツの大部分、オーストリーの大部分、チェコ、スイス、リヒテンシュタイン、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スロベニアの大部分、フランスの一部、イタリアの一部、ポーランドの一部 - まあ EU みたいなものですが - がまとまって大帝国を作りました。962年から1806年の長きに渡って続きました。ドイツでは962年ではなく、その前のカール大帝の時代から数えます。
次が所謂ドイツ帝国と呼ばれる国で、1871年から1918年まで。名目、謳い文句はともあれ、第二帝国ができる前のドイツは箍が外れていてバラバラ。300もの国に分かれていました。それがドイツ連邦として一応まとまり、後にまとまり直してドイツ帝国となります。これが第二帝国で、有名人は宰相(=首相のような職)ビスマルク。
次が悪名高いヒットラーの帝国で3つ目だということで第三帝国と呼ばれることがあります。月に避難したのはこの直系なので、第四帝国ではなく、第三帝国。それまでドイツには皇帝がいたのですが、ヒットラーが政権に就くより前に退位しており、「帝国と言うのなら皇帝がいなければおかしいだろう」と突っ込みを入れることができます。それにカール大帝、ビスマルクをヒットラーと同じ次元で比べるのはちょっとねえ。
ま、2018年現在この国を治めているのはいつもナチばかり演じているウド・キアーにそっくりのヴォルフガンク・コーツフライシュ。 1890年生まれ、終戦に死亡したヨアヒム・コーツフライシュという貴族系の将軍が実在するのですが、アイアン・スカイがそれに引っ掛けてあるのかは不明。ヨアヒム・コーツフライシュは米軍に投降せず戦死。
アイアン・スカイはパロディーだらけで、登場人物が誰かに似ているのは仕方ありません。私は知識があまり無いので、誰が誰のパロディーなのか分からない時があります。スタートレック・ファンが大きく関与しているということなので、スタートレックの引用があるのでしょうが、それは私には分かりませんでした。私はむしろスカイキャプテンとの類似性に注目しました。
鉤十字の月基地の中は1940年代に合わせたレトロですが、科学者が研究をしていて、色々な機械があります。人間はすべてがヒットラーお気に入りのアーリア人で、映画に登場する女性は少ないですが、男女のバランスは取れているらしく、後継の子供たちが生まれています。子供たちに勉強を教えいているのは基地の科学者リヒター博士の娘レナーテ。出世をもくろむ若手将校クラウス・アードラーは彼女と結婚するつもり。
★ アーリア人の純粋性は嘘っぱち
ドイツに来た頃、知識は平均的な日本人と変わらず、ナチがやった悪行の数々は、キーワード的な項目としてしか知りませんでした。ドイツにナチの研究をしに来たわけでもないので、語学など基礎学習をしている時はそれ以上知識が広がりませんでした。
元々はベルリン人をテーマに論文を書こうと思っていたため、予備知識としてベルリン人の構成をチェックしました。すると出るわ、出るわ。外国人が3人に1人などという時代もあったのです。〇〇チェフ、〇〇スキー、〇〇ノフなどという苗字の人が今でもたくさんいますし、区を見てもどう考えてもスラブ系としか思えない名前がぞろぞろ。食べ物の名前を見たらフランス語の痕跡。加えてたくさんイッディッシュ語が語彙に入っています。
そうなんです。ヒットラーが何を勘違いしたのか分かりませんが、ドイツ人、特にベルリン人から純粋なアーリア人を見つけるなどというのはちょっとあり得ない話だったのです。大体からアーリア人と言えばイラン周辺の出身で、その系統の言語を話す人たちを指すので、生物学的な話ではありません。ヒットラーが言っていたなんちゃってアーリア人は北欧系の容姿の人と言い直さなければ行けないようですが、その北欧をヒットラーは占領しようとして嫌がられています。ちなみにアイアン・スカイの制作国フィンランドは第二次世界大戦の敗戦国。言語的にはフィンランド語はアジア系。ヒットラーがアーリア人とのたまわった時一体何を考えていたのかは、ちょっとベルリンの住民構成を見ただけでも???となります。
話を戻して、斬新なグレーの宇宙服を着ていたアフリカ系宇宙飛行士ワシントンは取調べを受け、自分がなぜ月にいたのかを説明しますが、ナチは理解できていない様子。そしてアーリア人ばかりのナチは黒い肌のワシントンを(本人は全く卑下していないのに)半ば哀れみ、固い意志を持って彼を何とか白人にしてやろうと試みます。
意思に反してリヒターの特効薬で白髪の白人にされてしまったワシントンは文句たらたら。ナチに「これで君も僕たちの仲間だ」と言われてもちっとも喜びません。
取調べは肌の色がメイン・テーマではなく、彼の持っていた小型電子計算機(アイポッド、スマートフォンのような物)や、アメリカの状況。彼が持っていた片手に入るような小さな物が、月基地の大きな部屋にぞろぞろ並んでいる機械より能力があると知ったナチは、是非地球に行ってもっとこういうのをたくさん手に入れなければという結論に達します。ここで USB やバッテリーのギャグが登場。
この落差は私にも覚えがあります。子供の時コンピューターのプログラムをしたことがあったのですが、当時は鉛筆手書きのプログラムをパンチカードに打ち込んで、それを機械に流すようになっていました。教室で理論をやり、最後にパンチカードを手にコンピューター室へ。大きな部屋に所狭しと大型冷蔵庫ぐらいの背の高い機械がぞろぞろ並んでいて、やたら太いマグネット・テープが回っていました。現代のサーバー室や、スーパー・コンピューターが所狭しと並ぶ部屋と一見似ていますが・・・。
その後ずっと文系に進んでいたので、コンピューターとは縁がありませんでしたが、その時のフロア全体の機械でやっていた事が、後のディスプレイに3行ぐらいしか文字が映らない初期のワープロでできてしまう時代になっていました。ですからアイポッドの能力は当時最大のスーパー・コンピューターでも手も足も出なかったでしょう。その落差は当時1度でもコンピューターに関わった人に取っては、ただのギャグではなく、感慨深いノスタルジー。
さて、これまで月の裏側に隠れて住んでいたコーツフライシュ総統は、ワシントンの出現を地球に戻るいいきっかけと捉え、取り敢えずアイポッド確保のためにワシントンとアドラーを送り込むことに決めます。長期目標は地球征服。アドラーと結婚することに決まっていたレナーテは、ワシントンに興味を示し、こっそりロケットに乗り込んでいます。
地球に着いたアドラーはワシントンもキャンペーンで関係している合衆国選挙参謀のワーグナーを誘拐。ワグナーはナチを次の選挙のイメージ・キャンペーンで使えると思い、アドラー、レナーテと話をつけて大統領に引き合わせます。大統領もこの案に大賛成。あの反ナチで大戦に勝った国の大統領が、堂々とナチ・キャンペーンを始めます。
ワシントンはもはや黒い肌の魅力的なモデルではなくなり、しかも月面着陸からナチにキャンペーンの焦点が移ってしまったのでお払い箱。ホームレス生活。しかも髪も肌も白くなってしまったので、黒人からは相手にしてもらえません。そしていくらナチの方から「君は僕たちの仲間だ」と言ってもらっても、ナチの危険性は承知しているので喜ばず、微力ながら町で人にナチの危険性を警告しようとします。ここはゼイリブの乗りです。
道で偶然レナーテと再会したワシントンは彼女に証人になってもらい、ナチの危険性を具体的に警告しようとしますが、彼女と揉め、警察に検挙されてしまいます。警察は2人の話を荒唐無稽と決めつけ、信用しません。痴話喧嘩とでも思われたのか、無事釈放。その足で近くの映画館へ。レナーテが月基地で一部を教材に使っていたチャップリンの独裁者を上映していたからです。レナーテは初めて全編を見ます。彼女は独裁者が長編とは知らず、ナチに都合のいいシーンだけを編集してあった物を短編映画だと思い込んで使っていました。頭は切れる彼女、ナチの思想が問題ありと理解し始め、ワシントンの危惧も理解し始めます。
アドラーとワグナーは本性剥き出しで関係を持ち、合衆国大統領と近いことを利用して、ただアイパッドを持ち帰るだけの計画を大巾に変更。このままアメリカを乗っ取ってしまおうと考え始めます。月に残っているコーツフライシュと今どこにいるか分からないレナーテは今のアドラーに取っては邪魔。ところがそこへ突然現われたのがコーツフライシュ。言い訳が通じず、撃ち合いになり、コーツフライシュが倒れます。アドラーはアイパッドを持って一路月へ。
実は月基地には大型のツェッペリン型輸送ロケットと、船で言えば航空母艦に当たるようなロケットがあり、アドラーはそれを動員して地球攻撃を開始します。
レナーテとワシントンはナチを倒すべく月へ向かいます。
地球では月の第三帝国から攻撃を受けることを知り、国連の常任理事会などが開かれますが、話が変な方向へ。火星探索用だった筈のジョージ・W・ブッシュというロケットが実は戦闘用ロケットで、アメリカはこれを動員。率いるはアドラーにポイ捨てされたワグナー。アメリカ一国では手に負えないと分かった時、なぜかフィンランドを除く各国が助っ人を買って出ます。フィンランド以外の全ての国が宇宙の平和利用と言って作っていたロケットは実は武装していたのです・・・あっちゃ〜。世界連合軍対月の第三帝国。そしてフィンランドは大戦中ドイツ側だった・・・。
戦いはぐちゃぐちゃになり、連合軍は女子供が死のうがお構いなし。アドラーは自分の基地が攻撃されても地球征服を強行。ま、不自由な月で暮らすより、地球の方がおもしろいので観客は納得。最後はなぜかブリッジに主要登場人物が皆集まり、殺し合い。悪者は死に、ワシントンとレナーテは生き残り、月で幸せに暮らしましたとさ。
地球では発見されたヘリウム3をめぐって大喧嘩。果ては核戦争になり、月にいた方が幸せかも知れないという終わり方です。
★ かなりの知識が必要
大勢の人がアイディアを寄せ合って作ると普通は支離滅裂な話になってしまうものですが、アイアン・スカイは大勢の人が口を突っ込んだわりには良くまとまっています。細かい所で突っ込みを入れようと思えば入れられるのですが(例えば月に長く住んでいた人が地球に来れば何倍もの重力がかかり歩くのが大変なはず、どうやって食料を供給していたのか、栄養状態は等など)、そういうところはすっ飛ばして笑えます。
最近の世界の政治状況を知っていた方が理解し易く、さらにドイツの戦争の頃の歴史を知っていた方がいいですし、チャップリンの独裁者も見て置いた方がいいでしょう。宇宙を扱う SF 映画もたくさん見ておいた方がいいですし、とにかくかなりの知識を持っていた方が楽しめます。
予備知識ゼロで見た場合どの程度楽しめるのか分かりません。ただ少し知識があって見ると、「自分の知識が足りない、足りない、足りないぞ」という気がするので、却って先入観も予備知識もすっ飛ばして見た方がいいのかなとも思います。
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