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USA 1989 102 Min. 劇映画
出演者
Jamie Lee Curtis
(Megan Turner - 警察学校を卒業したばかりの巡査)
Louise Fletcher
(Shirley Turner - ミーガンの母親)
Philip Bosco
(Frank Turner - ミーガンの父親)
Elizabeth Peña
(Tracy Perez - ミーガンの親友)
Ron Silver
(Eugene Hunt - 株のブローカー)
Clancy Brown
(Nick Mann - ミーガンの署の刑事)
Kevin Dunn
(Stanley Hoyt - 警察の上司)
Richard Jenkins
(Mel Dawson - 検事)
Mike Hodge (警察の上司)
Mike Starr (警察の上司)
Tom Sizemore
(スーパーマーケットの強盗)
Matt Craven
(Howard - 税理士)
見た時期:2012年10月
★ タイトルの由来
拳銃製造で行われる化学的な処理で鉄の色が青っぽくなることから、拳銃も「青い鋼」と呼ばれるそうです。タイトルはそこに由来しています。
★ 登場人物
重要な役割を務めるのは3人。主人公のミーガンは警官になることが人生の夢で、ちょうど今警察学校を卒業したばかり。これから数年巡査として制服を着て町をパトロールするところです。その後昇進試験を受けて刑事になるかはまだ全く分かりません。
2人目で、ミーガンと同じぐらい重要な役は彼女と対決する変質狂。元々は株のブローカーだったのですが、ひょんなことからミーガンが強盗を拳銃で仕留める現場に居合わせ、射殺された強盗の手から落ちた拳銃を拾ってしまいます。
3人目は話の中盤から後半にかけて重要な役目を負うミーガンの署の先輩刑事。最初はミーガンのミスと決めつけ、休職を命じる側にいますが、事件の展開につれミーガンが被害者かも知れないと考えるようになり、上司より状況を重視し始めます。後半は彼女と組んで事件の解決に励みます。
★ 嫌われる職業 - 警官
警察学校を卒業してすぐミーガンはニューヨーク市街のパトロールを始めます。友人、知人、身内からは警官になった事を非難されるぐらいの状況。日本人なら「なんでやねん、立派な仕事じゃん」と言いたくなりますが、警官、兵士に対する冷たい目は欧州に来てから何度も経験しました。
警官というのは私たちが税金を払って雇っているボディーガードのようなもので、国民の安全を守るのが仕事。日本では戦後上手く行き、おまわりさんと呼ばれて親しまれています。子供がなりたい職業の1つでした。私も長期に家を空ける時には近所の派出所に行き、「よろしくお願いします」と言ってから出かけたものです。警官というのは本来そういう風に国民を守り、そのため国民から信頼をされる仕事のはず。
ところが欧米では日本で言えば「サツ」とか「イヌ」風の侮蔑の意味で動物の名前がついていたりして、人から唾を吐きかけられかねない仕事なのです。なのでせっかく試験に合格して立派な警官になっても、周囲からは嫌な視線を投げられます。世界全体ではどうもこういう風潮の方が多いようです。
ミーガンもそういう経験が最初からついてまわり、親友がお見合いのように男友達を紹介しても、その人が彼女の職業を知ったとたん、数メートル引いてしまう始末。はっきり「もう付き合いたくない」という姿勢を見せられます。そこで傷つかないのがミーガン。土性っ骨が座っていて、相手にズドンと来る冗談で返します。
★ 初仕事
仕事を始めたばかりの日、向かいのスーパーマーケットを反対側のカフェから何気なく見ていたら、ちょうど強盗がお仕事中。急いで銃を抜いて駆けつけます。初仕事なのでがたがた震えながらへっぴり腰で銃を構え、犯人のいるレジに迫ります。客は床に伏せていて、レジ係が銃で脅されている最中。ミーガンは規則通り銃を捨てるように言いますが、相手は聞かない。それで体の中心部に数発(おそらくは6発全部)銃弾を打ち込みます。強盗はぶっ飛んで死亡。銃は男の手から宙に飛んで、床に伏せている被害者の男の手元に落ちます。強盗を身をもって体験した男は目の前に弾のこめてある銃が落ちて来たので、それを拾ってトンズラ。警察が現場に到着する前に消えます。当時は今ほど監視カメラが使われていなかったらしく、この男の存在には誰も気づきません。
ミーガンは初仕事で強盗を討ち取った事を褒められる前に、過剰防衛で懲戒免職寸前。いくら相手が銃を持っていたと証言しても、肝心の銃が見つからないので問題視されたまま、バッジと銃の返還を求められ、処分が決まるまで自宅待機。これは誰に取っても嫌な状況ですが、特に警官にあこがれて就職したミーガンは大きく落胆。
★ ミーガンの周囲
ミーガンには彼女が警官になったことにあまり賛成でない両親、彼女に男性を紹介しようと一生懸命の親友ぐらいしか心を許せる人がいません。客観的に見ると非常に孤独な人ですが、本人はそれを大して苦にしていない様子で、親友が最近紹介した税理士が職業を知ったとたんに引いてしまっても、さほど困った様子はありません。「こんなにきれいな君がなぜ警官なんか・・・」という表現は日本人にはちょっとした驚きですが。ちなみにドイツの婦人制服警官はやたら美人が多いです。
そんなある日、映画の観客には誰か分かっている男ハントがミーガンに話しかけ、デートに持ち込みます。ハントはスーパーマーケットから銃を持ってトンズラした株のブローカー。あの時初めて銃を手にして、その魅力に取り付かれてしまいます。
この男が監督のビゲローが当時結婚していたキャメロンとそっくりな顔つきです。恐ろしい犯人役に当時ルンルンだった夫と似た人物を採用したのは偶然。ビゲローとキャメロンは結婚前も、結婚中も、離婚後もプロデュースなどいくつか裏方の仕事で協力し合っており、友好関係は長く続いています。ブルースチール撮影中にカーティスの次の作品の打ち合わせに訪れたキャメロンは初めてビゲローと会いました。時期的には恐らくビゲローがシルバーをキャスティングしたのが、キャメロンと出会うより先だったでしょう。
話を戻して、ハントがどういう考え方をしているのかはミーガンとハントがヘリコプターでニューヨークの夜景を見ている時によく現われます。「地上で見ると等身大の人間が、上からヘリで見るとちっちゃな点に見える」と言います。ミーガンはその夜自分がヘリコプターから落ちる悪夢を見ます。
見終わってから感じたのですが、株のブローカーをして有り余る金を持っている、まだ若い、大した肉体労働ではないという条件が重なると、人によっては退屈さから、殺人を始め、いずれはクリスチャン・ベイルになるのかと思いました(アメリカン・サイコは2000年に世に出た作品。しかし描かれる時代はブルースチール制作の頃)。
★ 連続殺人事件発生
最初は鏡相手に銃を撃つ真似をしているだけだったハントはある雨の日、道で転び、銃がポケットからこぼれ落ちてしまいます。ハントが転んだ事は見ており、拳銃は見ていない通行人がハントを助けようとした時、ハントは癇癪を起こして相手を射殺してしまいます。初めての殺人は彼に万能感を与えてしまい、連続殺人を始めます。そこに重なるのはスーパーマーケットで銃を手に強盗を容赦なく射殺したミーガンの姿。
一方でミーガンに接近し、デートしながら、他方ではただの射殺では飽き足らず、殺人に使う銃弾にミーガンの名前を刻むという妙な事を始めます。いくつ目かの事件の捜査でそれが発見され、ミーガンは休職を解かれ、銃とバッジを返還され、しかも仮の役職として刑事になります。昇進ではなく、彼女を先輩刑事の目の届く所に置くことと、犯人が彼女に近づいた時に便利だからです。彼女には容疑もかけられていますが、同僚刑事は公平に見て、ミーガンが犯人の標的かも知れないとも考えています。
ミーガンの身辺を洗っている警察はハントの事も一応ミーガンのデートの相手として知っています。しかしミーガン自身も警察もそれがスーパーマーケットにいた被害者の1人とは気づいていません。
あるデートの日、何とハントは自分が何物なのかを話します。彼はミーガンと自分は心が繋がっていると思い込んでいて、実際銃に対する過剰な憧れや信頼感は共通しています。ただミーガンは法の側に立っており、ブローカーは法のあちら側に立っています。ハントが御託を並べている間にミーガンはさっさと通報し、逮捕してしまいます。
★ そこから先が大変
ほっとしたのもつかの間、ハントは豪腕弁護士の手によってあっと言う間に釈放。2人きりの時の告白だけでは証拠にならず、ハントは物証となる凶器の拳銃を自宅以外の場所に隠しています。この後ストーカーと化したハントと、逮捕できるほどの証拠が無い警察の戦いが始まります。
ハントはミーガンの周囲を観察し、親友のトレーシーに手をかけます。家庭を持っているトレーシーはミーガンの眼前で射殺され、頭を殴られたミーガンはきちんと証言できる状況ではなく、苦悩が始まります。
家庭問題を抱えているミーガンは問題ありの両親を時々訪ねます。ある日ついに堪忍袋の緒が切れて、母親に暴力を振るう父親に手錠をかけて連行します。最後の瞬間に思いとどまって父親を伴って帰宅すると、そこにいたのは母親と談笑するハント。ミーガンのボーイフレンドとして母親をすっかり取り込んでいます。必死で母親に事情が違う事を示そうとしますが、母親はハントからいい印象を受け、全く取り合いません。このシーンの怖さは、銃撃戦の何十倍。
ビゲローが女性の監督として女性らしさを出しているシーンを無理して探すとすれば、ミーガンの家庭の状況がそれに当たるでしょう。家庭内暴力に数分時間を割き、父親がなぜ母親に暴力を振るうのかという問も入れている点は、公開当時としては進歩的と言えるかも知れません。後にジェニファー・ロペスも取り上げています。ビゲローもロペスも硬派で、強い男と互角に遣り合える人。弱くてやられる女性が自分の経験を涙ながらに語るというアプローチの仕方ではありません。
事態がエスカレートする中、先輩刑事ニックとミーガンは何度かハントをはめようと工夫したり、監視を続けますが、相手は尻尾を出しません。ついにミーガンはニックを差し置いて1人でハントを仕留めようとしますが、あと1歩のところで取り逃がします。しかし犯人は負傷。
ミーガンを保護するために2人は同じアパートに泊まります。2人はそこで緊張が解けてか、ルンルンの仲に。ところが頭のいいハントは何とそこの浴室に潜んでいたのです。ニックは撃たれて重症。ミーガンも入院。憤懣やるかたないミーガンは護衛の制服警官に一発お見舞いして制服と銃を奪うと町へ。
この先はちょっとご都合主義が続きますが、めでたくハントを発見し、市街戦。リボルバーは確か 6 発しか入っていないと思うのですが、主演女優の生死にかかわるここで弾の数は数えないことにして、彼女やようやく自分の手でハントを仕留めます。新しく恋人になったニックも重症とは言え助かりそう。めでたくハッピーエンド。
★ ミーガン
ミーガンほど銃の腕がたつのなら、私ならハントの肩でも撃って裁判に持ち込みます。さすがに今回は証人も証拠も揃っているので死刑か無期でしょう。
ミーガンが孤独なのは両親が長い間ミーガンの心配の種になっていて、人生を謳歌できなかったからなのかも知れません。警官という職業にあこがれたのは一種の不条理を家庭に抱えているので、社会で不条理と戦いたかったのかも知れません。そのためにはボーイフレンドなど二の次。銃を好むのはそれによって力を得たような気持ちになるためで、それが悪い方向に向くとハントになってしまう、ある意味紙一重の所にいたのかも知れません。
そして結局この商売を続けるなら同僚と結婚するしか道が無いのかも知れないという暗示がなされています。彼女のがんばりを先輩刑事は徐々に認め始めています。そして今回の功績で彼女は濡れ衣が晴れるだけではなく、刑事への正式昇進も可能になるでしょう。パトロール警官で経験を積む時も、いずれ刑事になったら何に気をつけたらいいかを先に勉強できてしまったわけです。おめでとう。
★ カーティス
カーティスはご存知トニー・カーティスとジャネット・リーの娘。一般的にはホラー映画で「きやぁ〜っ」と叫ぶのが専門のように思われていますが、実はコメディーにも向いていて、私も何本か見たことがあります。実生活でどの程度強い女性だったのかは分かりませんが、ブルースチールの冒頭、税理士とやりあうシーンを彷彿とさせるやり取りがある舞台で起きたという逸話があります。
有名人の子供の運命なのか、経済的には恵まれていても、親子関係は薄く、画面に見られる彼女の孤独な表情は本物かも知れません。特に父親は彼女の薬物とお酒の中毒の原因を作った人で、かなり迷惑したようです。ブルースチール撮影の頃はまだ中毒になっていなかったか、影響が少なかったのか分かりませんが、カーティスは非常に魅力的です。
よく見るとかなりの馬面なのですが、髪型がいいと目立たず、大きな目はきれいなだけでなく、役の求める表情をよく現わしています。高齢になってからはやや皮肉っぽい目つきになり、キャラクターが固定しそうですが、ブルースチールの時はまだ若々しさが残っています。御年31歳。しかしちゃんと警察学校を出たばかりのルーキーに見えます。このシーンはもしかして後にインファナル・アフェアに引用されたのか、少なくとも似ています。
★ ビゲロー
女性が監督になると「女性らしさ」を強調する例が多いのですが、ビゲローは名前を知らずに見ると男性と区別がつかない作風です。前に見た別の作品もそうです。あちらではボディーガード風の女性運転手が出て来ます。こちらでは張り切っている警官。その他に未亡人を作る原子力潜水艦の話を見たことがありますが、これは彼女としてはぱっとしません。
ビゲローはこの後何年も待った末アカデミー賞大量受賞を果たし、同じ年に候補に挙がったキャメロンを下しています。すでに1度アカデミー賞大量受賞をしているキャメロンは余裕で彼女を褒めていました。果たして2人の関係がそんなに友好的なものかは分かりませんが、私はいずれ彼女の受賞作を見てみようと思っています。キャメロンの受賞作は興行的には成功しますが、作品としてはそれほどおもしろくありません。
ブルースチールは事件の展開が分かり易く、恐怖は十分に出せています。主演にカーティスを使ったのは大成功と言えます。
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