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USA/Kanada/F 2012 102 Min. 劇映画
出演者
Jessica Biel
(Julia Denning - 看護婦)
Jakob Davies
(David - ジュリアの息子)
Eve Harlow
(Christine - ジュリアの息子のベビーシッター)
Colleen Wheeler
(Johnson - 子供をさらわれたホームレスの女性)
Jodelle Ferland
(Jenny - 言葉を話せない少女)
Samantha Ferris
(Tracy - ジェニーの母親)
Stephen McHattie
(Dodd - 刑事)
William B. Davis
(Chestnut - 保安官)
Lucas Myers
(Campbell - 保安官代理)
Janet Wright
(Trish - ダイナーの店主)
Ferne Downey
(Mrs. Parker Leigh - )
Derek J. Finnik
(FBI 捜査官)
Jodi Sadowsky
(子供を引き取る女性)
John Mann (Douglas)
Teach Grant (Steven)
Garwin Sanford (Robert)
Katherine Ramdeen (Carol)
Georgia Swedish (Ashcroft)
Prya Lily Campbell (Tiffany)
Ricardo Hubbs
Rene Mousseux
Steve Taylor
見た時期:2012年8月
★ 今年のファンタの中で
今年のファンタは通しで見た年全部の中で最低の出来でした。責任は主催者には全く無いと思います。その年の開催日までに映画界が出来のいい作品を作っていなければ、欧州の映画祭に毎回足を運び、会社と交渉をしても、いい作品は手に入らないからです。過去にはいい作品があっても交渉条件が難しく、入手困難という話もありました。中には粘って翌年に取って来ることもあったようです。
しかし今年の様子を見ていると、映画界全体がお金の都合でしぼみがち。まだ何とか生き延びている会社は、石を1個投げて、3羽、4羽の鳥を獲ろうと欲張り、鳥どころか虻も蜂も取れずに終わっています。
俳優の能力は十分なのに、脚本に十分お金をかけられなかったのかなと思える作品も多く、俳優のギャラも減らされているのかと思ったりもしました。主催者よりみすぼらしい服で来たゲストもいました。みすぼらしいと言ってもちゃんとした普通の服。私たちがその辺の店で買うような普通の服です。古くもなっていない。
もう1つ開催前に目についていたのは、映画が2つの方向に分かれたこと。1つは出演者を究極まで絞って出演料を浮かせる方向。もう1つは、筋は大した事の無い作品に書き切れないほどの出演者が登場する方向。後の例は、ドイツで ABM と呼ばれる失業対策で、できるだけ大勢の人に薄く広くお金を払おうという試みのようです。
そんな中、(私の見たうちの)1本だけ恐ろしくお金がかかっているように見える作品があり、目立ちました。この予算でインディー系なら2本ぐらいは軽く作れそうです。どこからそんな大金が入ったのかと思ったら、どうやら英国の国営放送が払っている様子。英国も受信料を取る国です。時代によって違いがあるようですが、私がよくラジオを聴いていた頃は、政府に対して批判的で、女王陛下に対して忠誠を誓うような方向の論調でした。一応中立性を保つことになっているのですが、映画などを見ていると左翼系の作品かと思えるような作品があり、かと思えば日本人の原爆被爆者をこけにして自らの品位を落としたり、時たまどこの誰のための放送局なのか分からなくなる時もあります。しかし全体を長い目で見ると、一応英国内のどの勢力に組みするにせよ英国の国益に沿って動く放送局のようです。私は英国人ではないので、全てに感心するわけではないのですが、情報の幅広さ、深さが各方面に見られ、ただの科学番組や語学番組でも十分資料を集めて取り掛かっている印象を受けます。
そういう国のそういう放送局がお金を払って作っているので、もう少し時代考証に力を入れ当時の古い感じを出せばと思いました。ああいう風にあっさりと現代的にしてしまうのなら、安い予算で2本作ってはと思ったわけです。
・・・などと書いて、アップロードまでその辺に置いていたら、この放送局から連続してとんでもないスキャンダルが浮上しました。長い時間をかけて築いた信用が足元から崩れてしまい、呆気に取られているところです。
とまあ、映画人が生き延びるのが難しい中、ダメな作品の数の多い年になりましたが、数本いい作品がありました。中の1つが The Tall Man です。
★ 小さくて大きな作品
トール・マンと言われるとまず思い出すのはドン・コスカレリのファンタズム・シリーズに出て来る怖いおじさん。ジェシカ・ビールの作品でも子供をさらう怖いおじさんが登場。しかしこちらのトール・マンにはきちんとした説明があり、所謂ホラーではありません。ミステリー、スリラー、犯罪映画のジャンルに入りますが、オカルト、モンスター、ゾンビ、SF といった非現実的なストーリーではありません。
この作品をホラーとして紹介しているインターネットのサイトを見かけましたが勘違いか、同じ監督の別な作品を見て勝手に想像したかです。監督は超怖いマーターズを作ったパスカル・ロジェ。マーターズとは全く違うテーマ、違うスタイルですが、最後まで見ると奥行きの深い話で、そこにうっすらと共通する点が見えます。
ちなみにロジェはヘル・レイザーのリメイクを依頼されたようなのですが、制作者と方針の違いで揉めて降りています。
予算の節約は大事な要素だったのでしょう。ロケーションは恐らくアメリカより経費の安いカナダ。今はさびれている、炭鉱で食べていた村が舞台。どうやらストーリーの中ではワシントン州ということになっているようです。人に良く名の知られているスターは主人公を演じるジェシカ・ビールのみ。ベテランのあまり有名でない俳優が脇をがっしり固めています。小ぶりのインディー映画のようにして始まり、ずっとそういうムードで進みますが、見終わってみると世界的な規模の物語だったのだと気づかされます。
★ あらすじの冒頭
見る前にあらすじを聞いても楽しめる作品は多々ありますが、この作品は聞かないで入った方がいいです。
ここでは枠になる部分だけご紹介します。場所はアメリカ北部ワシントン州の山の町コールド・ロック。かつては鉱山で栄えたと思われるのですが、6年前の鉱山閉鎖後目抜き通りの店はほとんど閉店。食堂が1軒あり、人々のたまり場になっています。ほとんどの人が失業中。生活はトレーラー。主人公の未亡人ジュリアは看護婦で、大きな屋敷に住んでいます。医師だった夫は少し前に不審死を遂げています。その後は彼女が町に取っては半ば医師の役割を担っています。
現在彼女はその大きな家に息子デビッドと暮らしています。デビッドにはベビーシッターのクリスティーンがついています。ベビーシッターを雇っているのは単なる贅沢ではありません。この町にはいつの間にかトール・マンと呼ばれるようになった謎の男が徘徊し、男が現われるたびに町の子供が消えてしまうからです。そしてある日、ジュリアが仕事から戻って来るとデビッドが消えています。ベビーシッターは縛られ軽い怪我。
誘拐直後に気づいたため、ジュリアは誘拐犯の車にしがみつき必死で追いすがります。車の横転までにはこぎつけたものの、自分は怪我をし、子供は結局トール・マンに連れ去られてしまいます。ジュリアは近辺で起きる同様の事件の何十人目かの被害者となります。
★ この後の捻り
ここから先は一見地味で静かな作品にアッと驚く捻りが入り、脚本のすばらしさに驚きます。ホラー映画だという宣伝は与太話で、れっきとした理論が成立する小児誘拐の犯罪映画です。それも予想外の方向に進みます。そこを具体的に言ってしまうと皆さんの楽しみを奪ってしまうことになりますから、どうしても読みたい方はページを1つめくって下さい。
今年のファンタにはこのようにアッと驚くうっちゃりをかます作品が2本ありました。どんなに予算が少なくても人を感心させる作品は作れるのだという証明になります。
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