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2008 F/Kanada 97 Min. 劇映画
出演者
Mylène Jampanoï
(Lucie - 子供の時に虐待を受けた女性)
Jessie Pham
(Lucie、子供時代)
Morjana Alaoui
(Anna - 子供の時に虐待を受け、ルーシーと同じホームに収容された女性)
Erika Scott
(Anna、子供時代)
Catherine Bégin
(マドモワゼルと呼ばれる老女、組織のボス)
Robert Toupin (父親)
Patricia Tulasne (母親)
Juliette Gosselin (Marie)
Xavier Dolan-Tadros (Antoine)
Isabelle Chasse
Emilie Miskdjian
Mike Chute
Gaëlle Cohen
Anie Pascale
見た時期:2008年8月
ファンタらしい作品です。今年のファンタはやや弱かったのですが、その中では最も怖く、インパクトのある作品です。
類似の作品として浮かぶのは2004年にファンタに出た同じフランスの作品ハイテンション。85分、不条理な殺戮で緊張しっぱなしでした。ところがその85分の恐怖が マーターズ ではイントロのようなもので、その先があるのです。
★ あらすじ
話の発端は15年前(70年代前半)の少女拉致事件。どこかで拉致され拷問を受けながら1年以上を過ごした10歳ぐらいの少女ルーシーが脱出し、警察に保護されます。人気の無い工業地帯のどこかに閉じ込められていました。こういう事件にありがちな性的な暴行は一切受けておらず、怪我をしており、極端に怯え切っていて、彼女は自分の口から何をされたか言うことができませんでした。
事件が報道されたのは15年以上前のこと。少女は酷い目に遭った子供を専門に保護する孤児院のような施設で大人になります。専門家がいくら質問をしても頑として口を開かず、状況は謎のまま。唯一彼女が語った相手は同じ孤児院で同室だったアンナ。アンナ自身も何かしら酷い経験をし、この施設に収容されていました。
次のシーンは15年後で、1980年代中頃。突然住宅街の一戸建ての家にルーシーがショットガンを持って押し入り、最初に家の主人、次に長女の胸に有無を言わさず風穴を開けます。夫人にも大怪我をさせ、次に狙うのが長男。椅子に座らせ「あんたは両親が何をやったか知っているのか」と質問。答を聞かないで撃ち殺します。ルーシーは自分を15年前に苦しめた一家を襲ったのです。長男と長女はルーシーが苦しんだ頃にはまだ幼児だったと思われます。
夫人は大怪我をしながらまだ息がありました。ルーシーのやる事に付き合っていたアンナですが、こんな幸せそうな家族がルーシー事件の犯人だとは信じられず、その女性を助けることを考えます。ルーシーがアンナに語った事をまだ100%信じられずにいたのです。この疑惑は観客にも湧いて来ます。
ルーシーは犯行の途中ショックのあまり錯乱状態に陥り自分を傷つけ始めます。やがてアンナがその家族の母親を助けようとしているのに気付き、怒って母親を殺してしまいます。その後自分も死にます。これで一家は結局全滅。残っているのはアンナ1人。
ところがアンナは一見幸せそうな裕福な家の地下室にとんでもない秘密が隠されているのを知ってしまいます。地下の廊下に飾られているのは拷問で苦しみ抜いた人の表情を写した写真。何の目的で作られたのか考えるだけでぞっとするような部屋。そして暫く進んで行くうちにもっととんでもない発見をしてしまいます。
そこにいたのは鎖でつながれた元は女性だったらしき人物。生存はしていますが、今では人体としか言いようが無い状態。これ以上無理というぐらいやせこけ、体には傷をつけられた跡が無数。貞操帯に似たような物を腰にはめられ、頭からは目隠しヘルメットが。アンナがルーシーの言っていた事は全部本当だったと気付いた瞬間です。
この元女性がどんな目に遭ったかを見るのは観客に取っては酷く疲れる作業です。頭にはめられた目隠しをはずすためには肉に食い込ませてある金属を抜き取らなければならず、出血します。ようやく鎖と目隠しから解放し、風呂に入れてあげようとしますが、すっかり恐怖に取り付かれてしまったこの女性はまともに口を利くこともできません。15年前のルーシーもこの手の恐怖を経験し、人に説明することもできなかったのだとアンナは悟ります。
あまりのショックで、見ている私にはここまでで何分経ったのかも分からなくなってしまいました。そこへ何人かの男女がどやどやと来て、助かったと思ったアンナは15年前のルーシーの代わりに囚われの身。終わりの無い拷問が始まります。
ルーシーが一家を襲っているシーンがイントロだと分かるのはここからなのですが、この後は SAW が子供騙しに見えます。延々拷問が続き、無理やり食事をさせられたり殴られたり。女性が対象になっているので不快きわまりませんが、この家の夫人も荷担していたわけで、男が女を苦しめるという単純な図式ではありません。
延々続く拷問シーンで見えて来るのは、これが組織立って行われていること。やっている人間の一部は特殊部隊のような行動を取り、他の一部はインテリ層に属す金持ち。チラッと思い出したのはジョニー・デップ主演のナインスゲート。アンナには逃げ道が全くありません。暫く見ているとルーシーが15年前脱出できたのがどんなに幸運だったかが分かります。
★ このまま帰宅すると悪夢
ショーダウンは意外な形で起きます。この邪悪な組織は拉致して来た女性を1箇所に閉じ込め、毎日延々と拷問をし、恐怖を植え付けます。段階があって、犠牲者が1つの段階を超えると次の苦しめ方に移ります。恐怖のために発狂してしまうと落第。恐らくは発狂した場合は殺されてしまい、次の犠牲者が拉致されて来るのでしょう。
指揮を取っているのは現在は年寄りの女性。もし彼女が退いたら次が女性か男性かは分かりません。組織には男女両方が入っています。手下として働いているのは中年以下の若い人で、組織を所有しているらしき上層部はほとんどが白髪の老人たち。男女両方います。目的は性的な虐待ではなく、痛みや絶望、恐怖に関する研究。なぜか実験対象に選ばれるのはいつも女性ですが、男性の方が早く発狂してしまうからだという説が仲間内で出ています。組織の究極の目的は死の後に何があるかを知ることらしいです。ですからやっている人たちには犠牲者に対する同情などは一切ありません。終わりに近づくまでに観客が感じる恐怖はもっぱら拉致、幽閉、拷問によるものですが、終わりの方で感じるのは社会的地位の高い人たち、身なりも履歴もきちんとした人たちが確信をもってやっているという点です。
この作品はこの日4番目に上映され、最後にもう1つありました。アルジェントのしょ〜もないホラー映画でしたが、こういうばかばかしい作品を見て口直ししないとその日は怖くて眠れなかったでしょう。
★ SAW とは違う
私は SAW には酷く腹を立てた口です。意味も無い拷問や苦しみを映画にして、観客を意味も無く怖がらせるとプンプン怒っていました。だったら マーターズ にもさぞかし腹を立てただろと思われても当然ですが、マーターズ にはこういう事をやる人間に対する作る側の嫌悪が感じられ、本当に怖いのは実は○○○なんだと指摘を受けたような感じでした。
主催者の話では マーターズ はアレックスといい勝負の大激論を呼んだとのことですが、私はアレックスにも腹を立てていません。普通の生活を一夜にして一生元に戻らないように台無しにされた一般市民の立場を代弁しているように思えたからです。マーターズ では説明することもできないほどの恐怖を味わった子供の運命と、顔色1つ変えずにせっせと研究にいそしみ、その研究成果を冷静に聞いている老人たちを描写しており、単に観客を怖がらせるだけで作ったのではないように思えます。
★ タイトル
意味は《殉教する人々》となるのですが、私は宗教に弱いので、どうも意味が分かりませんでした。単純に解釈すると信仰のために命をささげる人と言うことなのですが、どう見てもルーシー、アンナ、アンナが発見した女性は拉致されて否応無しに老人たちの研究に使われたモルモット。《犠牲者》というタイトルでないと変です。キリストのように自分で信じるところがあって肉体的な苦行を受け入れたのとは話が全然違います。
フランス語はまだ習っておらず、西洋の宗教観に無知なので、私がどこかで大きな勘違いをしているか、知識がスパッと抜けているのだと思います。
★ 他のファンタの映画との接点
ここでアンナがとりあえず救出した女性はもしかすると15年前ルーシーだけが逃げることができ、やむなくもう1人を置いて来なければならなかった、その時のもう1人の犠牲者ではないかと思われます。そうすると La Chambre des morts で明暗を分けた2人の女性が思い出されます。
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