テレビのページ
2013- @ 43 Min. 劇映画
出演者 レギュラー
Hugh Dancy
(Will Graham - FBI のプロファイラー)
Mads Mikkelsen
(Hannibal Lecter - 医師、FBI に協力する精神分析の開業医、美食家)
Laurence Fishburne
(Jack Crawford - FBI 特別捜査官、グレアムの上司)
Caroline Dhavernas
(Alana Bloom - 精神科教授、FBI に協力するプロファイラー、レクター博士の友人)
Hettienne Park
(Beverly Katz - FBI の CSI 捜査官、繊維の専門家)
Scott Thompson
(Jimmy Price - FBI の CSI 捜査官、指紋の専門家)
Aaron Abrams
(Brian Zeller - FBI の CSI 捜査官)
Gillian Anderson
(Bedelia Du Maurier - レクター博士の精神分析医)
第8回の出演者
Demore Barnes
(Tobias Budge - 弦楽器の製作者)
Dan Fogler
(Franklin Froideveaux - レクター博士の患者)
Vladimir Jon Cubrt
(Garret Jacob Hobbs - 殺人犯)
Darren Josephs
(Stewart - 警官)
Kevan Kase
(Dormau - 警官)
Zachary Bloch
(Zachary Bloch - チェロを弾く少年)
Carter Siddall
(Douglas Wilson - チェロの形で殺されたトロンボーン奏者)
Daniel von Diergardt (死人)
見た時期:2013年11月
★ タイトルと監督
この週のタイトルは《チーズ》。ドイツ語のタイトルは《暗い音/響き》。
英語のタイトルがなぜついたのかは良く分かりませんでした。ドイツ語のタイトルはまあ主題と合っています。
ティム・ハンターはベテラン監督で、80年代前半から長きに渡ってテレビ、映画で監督をしています。初期からテレビでは有名な作品を手がけています。テレビの仕事が圧倒的に多く、劇映画で私が知っているのはレイ・リオッタ主演のコントロールぐらい。ハンニバルでは現在のところ4本契約をしていて、作られたのは1本(本作)。残りの3本は来シーズンの予定で、なぜか日本語の《懐石》、《蓋物》、《肉じゃが》というタイトルがついています。来シーズンどういう展開になるのか心配です・・・と肉じゃがを食べながら書いています。
★ アリエネー物語
死体発見からしてアリエネーですが、もうこの辺りからはハンニバル・シリーズは猟奇メルヘンと取るしかありません。
ある高級そうなクラシックのコンサート・ホールの舞台のど真ん中に男が座ったままの死体で発見されます。頭をガーンとやられてから椅子に座らされたのかも知れず、座っているところを襲われたのかも知れません。
男はトロンボーン奏者で、声帯を切り開かれ、口からチェロのネックの部分を喉に押し込まれ、体全体をチェロに見立てた形にされ、弓でチェロを弾けるような形にされていました。
冒頭に腸を使って弦楽器の弦を作るシーンがあったりするので、犯人は多分弦楽器職人のトゥビアス・バッジだろうと観客には見当がつきます。
笑ってしまうという意味でおかしいのは、レクター博士の患者の1人が犯人を言い当てているシーン。この男はフランクリンという名前で、シリーズの始めの方の回で1度チラッと登場しています。クロフォードがレクター博士を初めて訪ねる時で、クロフォードはフランクリンをレクター博士だと勘違いします。
フランクリンはその後も定期的にレクター博士の治療を受けており、ある時(この週)博士に「自分の知人はきっとサイコパスだ」と言い出し、博士に成り代わって楽器職人のトゥビアス・バッジを分析して見せます。彼はレクター博士を信奉するあまり、博士の役割を自分の一部にしてしまったようです。こういう現象が起きたので業界の掟通り博士はフランクリンの治療を中止し、他の医者に回そうとしますが、皮肉な事にフランクリンの開陳する理論はぴったり真実を言い当てています。フランクリンの予測通りバッジは人を殺し、舞台の中央に異常な形にされた死体を置きます。
フランクリンがこの事件を言い当てられたのは、バッジがちょっと前にフランクリンに「こういう事をやって見たい」と語っていたから。レクター博士はその話を聞き、ちょっと難しい立場に陥ります。患者が分析医の真似を始める事も職業上の問題ですが、博士がバッジにあまりにも共感できてしまうことも困った点。しかしその後バッジは更に殺人を重ねて行くつもりなので、何とかしなければならなくなります。
レクター博士はバッジを食事に招待し話をしますが、両方とも大胆不敵。「殺した」、「殺すつもりだ」、「いずれ殺す」などという言葉が剣の舞のように飛び交います。最終的にはバッジはレクター博士を殺すつもり、レクター博士はバッジを殺すつもりで、いざ真剣勝負という時に招かれざる客が呼び鈴を鳴らします。それがグレアム。そのため勝負は一時お預け。この言葉による勝負はかなり気合が入っていました。
訪ねて来たグレアムにレクター博士は分析医の規則を破って殺人犯の可能性を示唆。そのレクター博士は自分の分析医の所へ行って話をしますが、時々患者である事を忘れて自分が彼女の医者の立場を取ろうとするので、注意されます(笑)。
演じている女優はドイツで大受けしたテレビ・シリーズの主演だったアンダーソン。役どころは患者に襲われた経験があり、現在は引退に近い状態の精神分析医。レクター博士よりやや落ち着きがあるような印象の役作りをしています。
グレアムはレクター博士の言葉に従い、ボルチモアの楽器商の所へ出かけて行きます。グレアムは尋問中に幻聴を起こし店の外へ出ます。その間に一緒に来ていた警官が殺され、バッジは消えています。バッジはなぜ知人のフランクリンに続いてレクターに自分がやる予定の犯行を話してしまうのでしょう。
バッジの店の地下は楽器職人の仕事場になっていて、証拠となる腸や化学物質が置いてあります。そこにもう1人の警官の死体が・・・。死体を発見されたバッジはグレアムにも襲い掛かりますが、機転を利かせたグレアムは格闘中に発砲。
ピストルは弾を人に当てて怪我をさせたり殺すだけの物ではないのだと改めて知りました。耳の側で大きな音を立てる役にも立ちます。これほど近い所で爆発音がすると頭がガーンとして、暫く行動不能になります。そのチャンスを生かしてグレアムは生き残ります。このアイディアはこれまで犯罪映画やテレビで見た事が無く、独創的です。
店から消えたバッジはレクター博士の診療所に逃げ込みます。折り悪くそこではフランクリンが治療を受けている最中。博士がフランクリンに最後通牒をつきつけ、「他の医者に変われ」と言っている最中。飛び込んで来たバッジが人を殺した事がはっきりし、フランクリンはレクター博士に成り代わり精神分析をしながらバッジを説得し始めます。この一瞬はフランクリンに取っては得意の絶頂で、演じている俳優は役を良く理解しています。
レクター博士はバッジの性格を見抜いているので、フランクリンの命を救おうと、診療所から出ることを勧めるのですが、分析に夢中になっているフランクリンは忠告を聞こうとしません。しゃべり続けるフランクリンをさっと殺したのは話を聞き飽きたレクター博士。
この回のサプライズは物凄いアクション・シーン。ミケルセンが出たボンド映画でもこんなに激しいアクション・シーンはあったかなあと思うほどの大活劇に発展します。弦に錘をつけたような武器を振り回すバッジと素手のレクター博士。 格闘する2人の身のこなしは見事で、すばらしく見甲斐があります。大部分レクター博士劣勢の中、バッジの腕を折ることに成功。その後重い置物で頭を一撃。レクター博士の勝ち。後は適当に辻褄を合わせた説明。バッジがフランクリンを殺し、その後レクター博士がバッジを殺した事になります。これでレクター博士も患者に襲われた分析医になる事に見事成功(!?)。
★ かなわぬ恋
グレアムとブルーム博士の間に恋愛感情が芽生えそうになりますが、結局グレアムがあまりにも不安定で、ブルーム博士の方から話を終えてしまいます。当分は分析医にかかっている患者と見るか友人関係を続けるだけで、恋人には向かないというわけです。懸命な判断。
★ 愚痴
冒頭でチェロを弾く少年は撮影の時、聞こえて来る音通りには弾いていませんでした。
グレアムの想像のシーンでチェロを弾いて見せますが、彼もこの楽器の扱いに知識が無いらしく、およそ考えられないような動きをします。
前回はまとまりの悪い回で、もう書くのを中止しようかと思うぐらい飽きて来たのに、今回はこれ1本で劇映画が作れるかというほど内容が濃かったです。「せっかく気合を入れたのだったらこういう細かい所にも気を使ってよ」と言いたくなってしまいます。
★ 精神分析界をおちょくっている
これまでも傾向が出ていましたが、この回ははっきり精神分析医の世界をおちょくった感じです。これまでも分析医が患者を取り合いしているような感じだと思っていました。レクター博士、ブルーム博士がアビゲイルを共有し、グレアムも担当していました。そこへこの週からレクター博士を治療する分析医まで登場。ジリアン・アンダーソンが演じています。彼女の地声とは全然違う低いだみ声の女性がドイツ語版で声優をやっています。
この週はレクター博士が担当している患者が徐々に博士の影響を受け、自分が分析医になったつもりで知人を分析し始め、その男がサイコパスだと言い出します。患者に時々あるパターンです。レクター博士は分析医としては正しい判断をし、その患者を他の医者に回そうとします。当然ながら患者の友人を患者の話を聞くだけで、会うこと無く分析すること(間接分析)も断わります。
精神分析業界を知った人が脚本に加わっているのではないかと思いながら見ていました。アメリカでは分かりませんが、ドイツでは分析医が同業者につく事があり、また、患者が徐々に分析医の影響を受け、分析医を真似る現象が起きます。ドイツでは一時期分析医ブームがあり、業界を広げるために大して病気でない人にも主治医が分析医を勧めた時期がありました。保険が医療費を負担した事も広がった理由の1つだろうと想像されます。
それまで分析医が精神分析だけで食べて行くのはなかなか大変だったのですが、その時期には大学が分析医を大量生産し、保険が利くようになったため、ある程度商売が成り立つようになったようです。
アメリカは一足か二足先に分析医ブームになっていて、ドイツはその後を遅ればせながら追った感じです。ただアメリカの医療制度はドイツとかなり違うため、売れっ子の分析医はがっぽり儲ける事ができたのでしょう。ドイツは公的な保険の会員が大半なので、法外な値段は取れず、精神分析だけを商売にする人たちはなかなか大変だったようです。
分析ブームになるとちょっとした事でも3年とか5年医者にかかる事ができ、その間の費用は保険と、小額の自己負担金でまかなわれました。町は犬も歩けば患者に出会うといった風景でした。しかし患者はリバウンドする人が多く、分析医に依存してしまう人も出る始末で、これで十分な効果があるのだろうかと思った事がありました。
個人的な話なのであまり詳しくは語れませんが、日本なら知人、友人、先輩、年長の親戚、学校の先生、会社の上司などに相談して解決するような話をドイツ人は分析医の所へ持って行くようでした。分析医は患者に具体的に「こうしなさい」とは言わない規則になっています。迷える患者の方は誰かに「こうしなさい」と言ってもらいたい。なので永遠に平行線。患者が自分でその事に気づくまで毎週5000円とかの費用がかかり続けるわけです。本当の意味での異常者を扱う以外の場合は結構おいしい仕事と言えます。
もっとおもしろいことに気づいたことがありました。英語が元ネタの心理学に関する本が出版されていました。ハウツー物で、親子関係や職場の力関係で弱い立場にいる人が何かを主張しなければならない時、両者がどういう心理状態で、弱い方はどういう点を克服しなければならないかについて書かれています。
同じ著者の同じ本のドイツ語版が出ていたので見てみたら、ドイツ語版には問題提起だけが書かれていて、英語版にある解決法は書かれていませんでした。これは一体どうしたことかと考えたのですが、この本を英語の内容のまま売ってしまうと、読者は精神分析医の所へ行かなくても問題が解決してしまうのです。なのでドイツでは内容の半分しか出版しなかったようなのです。
私はこの分野では患者を消費者、分析医を売り手と見るのですが、そうするとドイツでは業界が消費者の利益をあまり配慮していないように見えます。その点はサービス精神の国アメリカの方がフェアに見えます。ドイツではブームの頃分析医を大量生産してしまい、中にはこの職種にあまり向いていない人も混ざってしまいました。で、時々トラブルが報道されたりしていました。近年はブームも去り、分析医の数も淘汰されたのかも知れません。あまりトラブルの話は聞きません。
★ 皮肉な展開
この回はバッジという弦楽器職人が殺人鬼で、人間の腸からチェロの弦を作っているという設定でした。
バッジがレクター博士の患者フランクリンに自分の殺人について漏らしたので、フランクリンはレクター博士の所で「もしかしたら自分の知人は狂っているかもしれない」と言います。レクター博士としてはフランクリンがその友人の話をしても一向構わないのですが、その友人が正常かどうかなどの判断を要求されると、当然ながら答えません。
まだ見た事も無い人物について、伝聞だけで判断する事ができないのはもちろんの事、その上レクター博士の責任はフランクリンを治療する事で、それ以外の人物には関係ありません。
なので博士は業界の掟を守って、フランクリン自身の事にしか触れたがりません。更にフランクリンがレクターの影響を受け過ぎたと見ると、フランクリンの治療も断わります。フランクリンにはレクターの拒絶が気に入りません。
と、ここまでは業界の掟通り正しいのですが、レクター博士はこっそバッジに会いに行きます。これはルール違反。
その上、バッジが自分と同類だと察知すると、バッジを調べるようにグレアムに通報してしまいます。ここは医者、弁護士、神父などの辛いところで、明らかに犯人だと分かっている人物から重要な情報を得ても通報しては行けないとなっている国が多いです。レクター博士は自分の都合でそのルールを守ったり、無視したり。業界をおちょくっています。
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