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ゼロ・グラビティ /
Gravity /
Zero Gravity / Gravidade /
Gravedad /
Gravité

Alfonso Cuarón

USA/UK 2013 91 Min. 劇映画

出演者

Sandra Bullock (Ryan Stone - スーペースシャトルの司令官)

George Clooney (Matt Kowalski - スペースシャトル乗組員、医療関係専門)

Phaldut Sharma (Shariff - スペースシャトル乗組員)

Amy Warren (スペースシャトルのキャプテン)

Ed Harris (管制官)

Basher Savage (ロシアのステーションのキャプテン)

Orto Ignatiussen (Aningaaq)

見た時期:2014年2月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ いい作品です

色々いちゃもんをつける気になればつけられますが、全体としていい作品で、他の人に勧められます。

★ サイエンス・フィクションとは何ぞや

どこでもSFとされています。SFとは何でしょうか。科学系の話で、主として未来の世界を描写し、その中で現在の世界には存在しない事柄が扱われるというのが大まかなSFの説明ではないかと思うのですが、厳密に言葉を見るとサイエンスのフィクション、科学系の話で、実話ではなく、作家が思いついた話という見方も出来ます。

例えば2014年を舞台にしていて、現在発明されている機器などは話に活用され、まだ未発見の事実や、アイディアはあるけれど実用化されていない発明品は全く出て来ない中で、架空の人物を主人公にし、ストーリーに科学系の話がたくさん出て来る、そういうのを映画でサイエンス・フィクションと呼ぶでしょうか。

普通の解釈では例えば2001年宇宙の旅のように映画が撮影されたり、脚本が書かれた時点ではまだ実現していない技術が登場したり、エイリアンのようにもしかしたらいるかも知れないけれどまだ人類が出会っていない宇宙から来た生物が出て来たりするのが普通に解釈されているSFではないかと思います。

そういう意味ではゼロ・グラビティにはそういう荒唐無稽な物は出て来ません。専門の科学者が見たらいくらか綻びが出るようですが、全体としてはほぼ現在実現している要素が扱われています。

なので、科学を駆使してストーリーを組み立てたフィクションとは言えますが、エイリアン・シリーズ、パシフィック・リムバイオハザード・シリーズ、オブリビオンプロメテウスを始め、ほとんどのSFと一線を画しています。

映画のカテゴリーは色々ありますが、ゼロ・グラビティにどういう名前をつけたらいいのか良く分かりません。せめてどこかの星に着陸でもしてくれたらそれだけで通常のSFに分類できるのですが、そういう話は出て来ませんでした。

★ なぜロシアが

この作品の悪者はロシア。ロシアが自分の国の衛星を破壊したため生じた宇宙塵が国際クルーらしき主人公たちのスペースシャトルに衝突し、死者も出るという筋なのですが、私は数年前に別な国が宇宙に浮かぶ自国の古くなった衛生をミサイルをぶっ放して粉々に破壊してしまったという本当のニュースを聞いた事があり、「ありゃ?あれロシアじゃなかったような・・・」と思ったのです。それ以前にロシアもそういう事をやった事があるのかは知りません。ぶっ放し報道を目にした時は各国が迷惑を表明していました。それをそのまま映画化したのがゼロ・グラビティ。どうせどこかの国名を挙げるなら、やった国を挙げればいいのにと思ってしまいました。

★ 出演者は少ない

中心になるのはジョージ・クルーニーとサンドラ・ブロックだけ。その他に声だけで有名人としてはエド・ハリスが出ているのですが、私はドイツ語版を見たので吹き替え。ハリスの声は聞けませんでした。

前半はスペースシャトルの人たちが数人生存しており、それを演じる俳優がいるのですが、宇宙服を着ているので顔がほとんど見えず、体で演じた俳優と声で演じた俳優が別人だとしても分かりません。この人たちの大部分は宇宙塵が起こした事故ですぐ死んでしまいます。

これはネタバレではありますが、生き残った2人がどうするかがテーマなので、まあ、早々にばらしても問題ないでしょう。

★ 生存者のその後

クルーニー演じるコワルスキーは経験の長い宇宙飛行士、ブロック演じるストーンは新人。クルーニーは新人を養成する先輩の役目を上手に果たせる上司という役柄で、不慣れで慌てることの多いブロックを落ち着いた命令でサポートするといった役柄です。

クルーニーはちょっと憎たらしいほどの落ち着きようで、やがて来るだろう死に対しても日本人かと思うような向き合い方をします。

クルーニーという人物が現実にはどうなのかは知りませんが、彼が選ぶ役柄と演技を見ていると、他の人の頭より1段高い所から見下したような面が見え隠れし、今回もそんな役だなあと、あまり好感が持てませんでした。

対するブロック。一言お断りして置きますと、私はクルーニーもブロックも好きではありません。そういう前提があるにも関わらずゼロ・グラビティのブロックはいい感じです。

ブロックもクルーニー同様、役柄としてはいつものパターン、自分の領域を出ていません。彼女のパターンは《親しみ易いどこにでもいる彼女》。実際彼女は長い間オスカーなどからは遠い所にいましたが、毎年アメリカで《1番好きな彼女》と見なされ、高感度1番の賞をよく貰っていました。ドイツ系のエリートの家の出なのですが、庶民のナンバー・ワンをずっと続けています。

普段はアメリカ人には好まれ、他の国の人はげんなりするタイプのコメディーが中心で、演技力を問われる役を引き受けることは少ないです。とは言え、それが故に全米で好かれているわけなので、商売としては上手く行っていました。売り出し当初は不本意なスター・コースに乗せられてしまい戸惑っていたようですが、間もなくマネージャーやエージェントを全部入れ替え、その後は自分の意にかなった方向に前より進めるようになっていたようです。この辺は聞いた話なので自分ではよく分かりませんが、彼女は普段あほらしいコメディーを演じ、時たまシリアス・ドラマに顔を出します。あほらしいコメディーは何本か見た事があるのですが、やや教育的なテーマをスラップスティックにして笑い飛ばす方針だったようです。

シリアス・ドラマに出る時は笑わず、やや欝気味の演技。ゼロ・グラビティでは鬱っぽくはありませんが、私生活で過去に苦しみに遭遇し、そこからまだ立ち直っていないという設定。心から笑える人ではありません。実際には宇宙に人を飛ばす時には事前に心理テストもきちんと行われ、問題を抱えた人は外すようなのですが、そこはフィクション。

ブロックは誰にでもあるような、しかし深い悩みをかかえた女性を演じ、こういう人が現実にいてもおかしくないという自然な演技を見せています。彼女の目指した自然さが非常に成功しているため、大演技に見えないところがオスカーなどで不利に働く可能性はありますが、俳優として良く考慮した上での自然さです。

★ 九死に一生

ちゃんと数えていないので、死者が9人かは分かりませんが、1人しか助かりません。他の人たちは飛んで来た物に当たってそのまま死んでしまったようなのですが、クルーニーとブロックは取り敢えず物には当たらずに済み生き残ります。しかし一難去るとすぐまた一難。酸素の量が十分ではありません。時間を切られてしまいます。無線連絡が地上に届いているのかも不明。クルーニーは一応届いているとの前提で時々連絡を入れますが、話は一方通行。

死んだクルーの死体を回収してスペースシャトルに戻って見ると、そこは廃虚と化していました。シャトルに大穴が空いているので、空気は無く、国際ステーションに助けを求めに行きます。

国際ステーションにも問題があって、地球に戻る手段も無く、次に思いついたのは中国のステーション。ところがここで作業が上手く行かず、クルーニーは自ら命綱を手放してしまいます。明らかに覚悟を決めた自殺行為で、2人は助からないけれど、1人ならと考え、死を選びます。ここは違和感が生じます。日本人だけならこういう話もありかと思いますが、アメリカ人となるとちょっと首を傾げてしまいます。東西でがんばり方も諦めのつけ方も明らかに違います。

さて、1人生き残ったブロック。死につつあるクルーニーはブロックが諦めないように時間切れになるまであれこれ話しかけます。それが後で役に立ちます。

地球に戻るためには役立たずの国際ステーションでちょっと休憩。酸素不足問題からは取り敢えず開放されますが、観客にだけ先に分かる問題が間もなく生じます。船内火事。

ここはやや描写が荒く、あんな風に火が入ったら無傷で助かるはずはないのですが、そこはフィクション。炎でやられた友達もいる私にはにわかに信じられませんが、軽装のブロック、かすり傷もなく助かります。

とは言うものの国際ステーションは中は火事で船内を分離せざるを得ず、外からは宇宙塵が飛んで来て大破。後は使える物を駆使して中国ステーションに行くしかありません。

何としてでも中国のステーションにたどり着かなければ行けない状況の中、クルーニーの声もしなくなり、地上に戻っても家族もおらず、ブロックはやる気を無くしています。で、彼女も死を覚悟。クルーニーの誰かを助けるための自殺とは違い、無気力自殺。酸素のノズルを回して、酸欠状態を作り始めます。

ところが無線の混信で入って来た親と幼児の声を聞き、それが失った娘を思い出させ、酸欠で頭が朦朧としているところへ幻のクルーニーが現われます。夢に出て来たクルーニーは都合のいい事にブロックに地球に帰るための知恵まで授けて消えます。そこはフィクション。

気力をやや取り戻したブロックは酸欠にするのを止めて体勢を立て直し、取り敢えず中国ステーションに到着。帰還のための計器などを見るのですが、何と中国語で書いてあるではありませんか。リード・ザ・ファッキング・マニュアルですが、まだ見習いのブロックは多少中国語も分かるクルーニーと違い大苦労。日本人は得だなあと思います。大陸で使われている中国語の文字でも、目で見れば何が書かれているか多少は理解できます。

このあたりややご都合主義が続きますが、大気圏に入る事ができ、燃え尽きもせず、陸地に非常に近い海に着水。外に出る時に宇宙服が邪魔になったりと、思わぬ面倒が置きますが、一つ一つ問題を解決し、ついに帰還に成功。ちょっと前ロシアに帰還した宇宙飛行士同様、暫く上にいると筋肉が緩くなっていて、地上を歩くのは大変。それでも母なる大地を身近に感じてブロックはほっと一息。救援隊もこちらに向かっています。めでたしめでたし。

★ 3D

私は3D嫌い。ところがこの映画館では3Dしかやっていない。かつては眼鏡に1ユーロ取っていたのですが、今回は無料。でも眼鏡をかけるのは面倒なのでやはり3Dは嫌い。

3Dで見たら宇宙や宇宙船に立体感が出るのかと思いましたが、そんなことは全然ありませんでした。3Dで見ても2Dと変わらない。たまに物が飛んで来るのが目の前のように見えるだけ。他のシーンは何もわざわざ3Dにしなくてもと思います。今は世界中の映画館で3Dだと大騒ぎしていますが、いずれ廃れるような気がします。

★ 臨場感

自分も一緒に宇宙船に乗っているような気分で見られたSFは後にも先にも2001年宇宙の旅サンシャイン 2057 の2本だけだったのですが、そこにゼロ・グラビティが加わりました。

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