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USA/F 2014 109 Min. 劇映画
出演者
Michael C. Hall
(Richard Dane - 額縁屋)
Vinessa Shaw
(Ann Dane - リチャードの妻)
Brogan Hall
(Jordan Dane - リチャードの息子)
Wyatt Russell
(Freddy Russel - 指名手配中の家宅侵入者)
Sam Shepard
(Ben Russel - 仮釈放中のフレディーの父親)
Don Johnson
(Jim Bob Luke - 私立探偵)
Nick Damic (Ray Price)
Lanny Flaherty
(Jack Crow)
Happy Anderson (Ted)
Ken Holmes (Burglar)
Kristin Griffith (Kay)
Bill Sage
(野球の実況アナウンサー)
Kris Eivers (探偵)
Rachel Zeiger-Haag (Valerie)
Tim Lajcik (Mex )
Joseph Anthony Jerez (大男)
Joe Lanza
(Ray Price - 警官)
Joseph Harrell
(Kevin - 警官)
Soraya Butler (婦人警官)
見た時期:2014年8月
★ 原作、監督
原作はジョー・R・ランズデールの小説凍てついた七月。監督は作品数は少ないですが、2010年のメキシコ映画猟奇的な家族のリメイクに当たる2013年の肉で評判を取り、Cold in July はその次の作品です。
肉は駄作ではないかということで賛否両論のある作品ですが、取り敢えずホラー映画なのでファンタに出しても良かったと思います。私は元ネタに当たるメキシコ版の方をその年のファンタで見ています。演技や、撮影はうまくまとまっていました。それ以上の評価を受けるかは、テーマに対する賛否で分かれるでしょう。
さて、ランズデールはいくつかの職業を持ち、その1つが作家です。複数のジャンルの作品があり、映画の脚本を書くこともあります。ババ・ホ・テップはドン・コスカレリが映画化し、プレスリーVSミイラ男というタイトルで2003年のファンタに出ています。ランズデールは色々な賞を取っており、エンターテイメント性のある作品を書く人のようです。小説凍てついた七月は1989年に出版されており、映画版も現代に時代を移していません。
ですので現代のつもりで見ると微妙に様子がずれます。注意すべきはスマホなどがまだ使われていない時代だ、警察の捜査に現代よりやや時間がかかる、現代より身元、身分を隠し易い時代だ、作品中で扱われる犯罪が当時は現代よりずっと大きな衝撃を起こしたといった点です。
2014年から見ると、80年代は既に30年前になりますが、私たちのような年齢だと、当時の事も今の事も《現在》として経験しており、境目なく流れるように時が経っているので、時代劇を見るのとは感じ方が違います。また世界大戦を経験していない世代なので、ある日を境に世の中がガラッと変わったという経験が無く、何となく当たり前のように感じる事の連続です。しかしこの作品を見る時は、描かれているのがどういう時代かに少し気を配る方が《正しく》楽しめるかもしれません。
★ 小説との差
私自身は小説に行き当たっていないのですが、インターネットなどの解説を読むと、主人公やその妻の性格が映画より長く描かれているようです。日本語の解説では話の本体に当たる、前半は陰に入って見えていなかった犯罪については言及が全くありませんでした。
映画ではホールが無口な演技をし、主人公リチャードの性格を表現しています。妻のシーンはほぼカット。心ならずも仲間になってしまった3人の男の関係と、警察が行っていない捜索の部分に重点が置かれています。
★ あらすじ
ここから大々的に筋がばれます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。
犯罪小説を映画にする時は2時間ほどの間に本に書かれている出来事をどういう風に時間配分するかが重要です。Cold in July ではミスリードしているわけではないのですが、まず観客は息子を殺された父親ベンの復讐劇だろうという印象を受けます。トレイラーもそちらに比重をかけています。そして当の父親もそのつもりでいました。
今年のファンタには観客をわざと誘導しているわけではないけれど事件が意外な方向に展開する佳作がいくつかありましたが、Cold in July も感じ良く方向転換します。
☆ 事件の発端と主要メンバー
夜中家族が眠っている時に不法侵入して来た男がおり、その家の主リチャードが正当防衛で家宅侵入男フレディーを射殺してしまいます。こんな時間に他人の家に押し込んだのだから、裁判も無く、あっさりリチャードは無罪放免。
リチャードが普通の良心を持った一般市民だったため、フレディーの墓地を訪問し、犯人の父親ベンに挨拶。ベンは暴力犯罪で長く刑務所に入っていて、たまたま息子フレディーが射殺された時期に仮釈放。長い間待っていたのに会えたのは遺体だったという最悪のタイミング。人の家に強盗に入るような息子の父親なので当然リチャードはベンに「今度はお前の息子を殺してやるぞ」風に脅されます。
まだ小学校ぐらいの年の息子が通学中ベンにつけられた形跡があり、警察に保護を依頼。しかしベンは誰にも危害を加えていなかったため警察は何もできません。その後リチャードの家に侵入した形跡があったので、今度は保安官が見張りに来ます。しかしそれ以上の事が起きていないので、警察は「この件は終わったことにしたい」と考えます。手続きのために警察に呼ばれたリチャードはそこでフレディーの指名手配写真を目にし、とんでもない事に気づきます。
自分が射殺した男の顔と全然違うではありませんか。警察官にその事を言うと、意外な事に無視されます。
その上警察官がベンを車に乗せ、どこかに運ぶのを目にします。密かに後をつけて行くと、警官が動けなくなったベンを轢死体にしようと工作しているところ。警察は息子の死に絶望し、泥酔して列車に轢かれて死んだというシナリオを書いている様子。自分の家族を脅した男ではあってもこんな死に方はフェアではないと考えたリチャードはベンを救います。
ベンはまだ事情を呑み込んでおらず、リチャードに恨みを持っています。それで2人はフレディーの墓を暴きに行きます。棺の中の死体は銃で撃たれたのではなく、しかも指紋の鑑定ができないように指が切り取られています。
翌日警官がやって来て、リチャードに事実を説明。しかし納得の行く話ではありません。そこへベンの知り合いの探偵ジムが訪ねて来ます。演じるはドン・ジョンソン。
このドン・ジョンソン、メラニー・グリフィス一家に麻薬を持ち込みかけ、アントニオ・バンデラスから私的な接近禁止を言い渡されるような人で、私は長年悪い印象を持っていました。グリフィスがアルコールや麻薬の誘惑に負けやすいと言うか、相手に同情しやすい性格だったらしいです。ジョンソンとグリフィスは不倫話ではなく、グリフィスがバンデラスと結婚してから、何かで悩んでいるジョンソンを家に招いたとかで、ただ話の相手をしていただけだったようですが、子供のいる家に麻薬やお酒は絶対ダメというバンデラスからは嫌われていたようです。バンデラスは一時世紀の色男と思われ、マドンナを始め当時有名だった女性からラブ・コールを送られていました。しかし彼を勝ち取ったのは大スターでないメラニー・グリフィス。グリフィスはそのためか大勢の有名女優から恨まれていたようです。ちなみにバンデラスは固い家の出身。
バンデラスは意外にも家庭を大切にする人だったらしく、2人の結婚は18年持ちましたし、「家に子供の害になるような物を持ち込むな」と頭から湯気を出して怒ったのもバンデラス。そういう意味ではグリフィスに取ってはモラル上頼りになる夫だったので、破局のニュースを聞いて残念に思います。グリフィスはしかしバンデラスを狙う女性に悩まされていたようです。結婚後も女優としてバリバリやるか、家庭に専念するかを始めに決めていればもう少し幸せに暮らせたのかなとは思います(こういった情報は全てこちらのゴシップ雑誌が情報源)。
他方 Cold in July のドン・ジョンソンはノリノリで、非常にいい演技をしています。かつて大スターだった時代もあり、1度沈んでもまた浮かび上がって来る人でした。所謂スターでありながら演技派の作品もあり、歌手としても通用するつぶしの利くスターです。最近は60歳を越え、大スターとしてのカムバックは目指してはいないようですが、Cold in July に出たところを見ると自分に合った作品を選んでいるようです。
ジョンソン演じるジムのキャラはコミカルで、暗い話を救っています。リチャードがごく普通の市民で、あまり明るい性格ではなく、ベンは凶暴性を秘めた上、息子を殺されたばかりで明るくなりようの無い状況。保安官もいかにも南部の保安官という感じでにこりともしない。そんな中ジムがユニークなタイプの男なので観客はそこで時々笑う事ができます。
☆ 司法取引で大転換
探偵のジムが加わり、フレディーの身辺を調べているうちに、フレディーがマフィア関係の犯罪に巻き込まれていて、司法取引の結果身分を隠して生きていることが判明。リチャードとベンは喧嘩を止め、ジムと3人で詳しい事情を探り始めます。リチャードは確かに誰かを射殺したはず。一体それは誰だったのかを知りたい。ベンは生きている息子を確認したい。
ここでふと思ったのは、もしフレディーが警察の手によって隠されたとしたら、出所して来た父親と会うわけにもいかないのかなという点。親子揃って事件に巻き込まれたのなら親子ともに隠れればいいわけですが、息子だけが父親の懲役が終わる前に事件に巻き込まれ、当局と話がついた場合は、息子を死んだことにしなければ行けなくなるのだろうか。親父さんが戻って来て息子を探し始めたら困るので、この時に押し込み強盗をやって射殺されたことにしてしまったのだろうか・・・などと深く考えると話が進まなくなってしまうので、この辺で。
もしかしたら作品のどこかでこの問題が取り上げられていたのかも知れませんが、今年は疲労困憊で、注意が全てに行き届きませんでした。
普通は当局の手によって保護された人物は何かしらのまっとうな仕事に就いて、目立たないように暮らしていると思うのですが、Cold in July を見ているとそれは犯罪に関係の無い生活をしている人間の思い込みだと気づきます。フレディーは新しい身分で別な町で暮らし始めてからも犯罪に手を染めていました。何とそれはスナッフ映画製作。
ベンは暴力犯ではありますが、スナッフ映画の世代ではなく、物事には犯罪でも限度があると考えるらしいオールド・スクール。一般市民のリチャードや探偵のジムに取っては当然ながら許しがたい犯罪。なのでここでも3人の意見は一致し、調査を続けます。
☆ 悲しい父子関係
リチャードがまだ幼い息子を守ろうと言うのは当然の話。ベンも多少犯罪を犯してもやはり息子に対する愛情はあり、元々はそれでリチャードと揉めていました。しかし息子がやっているのがスナッフ映画製作、しかも出来上がったビデオを運ぶだけの下っ端の役割ではなく、撮影に深く関わっているとなると、ベンの立場は複雑になって来ます。ベンは考えた末、息子を殺すことを決心。殺人にもいい殺人と悪い殺人があるんだ!?
欧米の映画の父(息)子関係となると普通は親子の間に嫉妬が生じ、ゲルマンの古い言い伝え通り、父親が息子を殺してしまう結末になるのですが、ここでは親子間の嫉妬は生じず、ベンは息子のやっていることにダメ出し。苦しそうですが、殺そうと決めます。
フレディーや一味が撮影をやっている建物に乗り込んだ3人は撃ち合いの末大怪我。一瞬のためらいが怪我の元。しかし何とかベンはフレディーを仕留めます。ついでに次の撮影のために捕らえられていた女性たちを救出。
一応3人は助かり、犯罪一味は全滅というハッピーエンドですが、ジム以外の登場人物は暗い感じで、その上スナッフ映画というテーマなので、ドン・ジョンソンがあのキャラで演じてくれないと、奈落に落ちるような雰囲気です。
★ 出来のいい構成、なんか変なランク付け
今年のファンタの中では長めの上映時間ですが、飽きる暇がありません。事件の展開と時間配分のバランスが良く、だれてしまう前に次の謎が登場します。
この作品の目的は悪のランク付けかと思えて来ます。冒頭の殺人は正当防衛なので、悪事ではありません。
次は死体のすり替え。これも司法取引に関係しているので、お目こぼし。ただ、リチャードに真実を伝えていないので、リチャードにトラブルが舞い込みます。それに棺に入っていたのは誰で、なぜ死んだのかという謎が残ります。ちょっと干からびた死体。
その次は警察の手によるベン殺人未遂。これはれっきとした犯罪。それをやるのが警官だというのでたちが悪いです。ベンが前科者で、息子も犯罪者だから構わないだろうというどんぶり勘定だったのでしょうか。それでもリチャードのような人間には受け入れ難い。
その先はもう言い訳のできない犯罪。その犯罪者を退治しに赴くのが警官でも検事でもない人たち。私立探偵は調査はしてもいいけれど、犯人退治は警官の仕事のはず。ここはひどいどんぶり勘定です。
そしてスナッフ。モンスターになってしまった息子を殺しに行く父親が正しい事をしているような錯覚に囚われます。ダメですよ、そんな風に考えたら。神経が麻痺しそうです。桑原、桑原。
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