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トランセンデンス /
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Transcendence: Identidad virtual /
Trascender

Wally Pfister

UK/USA/China 2014 119 Min. 劇映画

出演者

Johnny Depp
(Will Caster - 人工知能研究所の学者)

Rebecca Hall
(Evelyn Caster - 人工知能研究所の学者、ウィルの妻)

Paul Bettany
(Max Waters - 人工知能研究所の学者、ウィルの親友)

Morgan Freeman
(Joseph Tagger - 人工知能研究所のチーフ)

Cillian Murphy
(Buchanan - FBI捜査官)

Kate Mara
(Bree - 反テクノロジー・テロリスト)

Cole Hauser
(Stevens - 大佐)

Clifton Collins Jr.
(Martin - ウィルとエヴェリンが作った施設の作業員)

見た時期:2014年10月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

SF ですがファンタの作品ではありません。

★ 向き、不向き

監督に取っては初仕事。そう考えるとまあ、何とか形を作ったと言えますが、冴えた作品ではありません。キャスティングが半分ほど悪く、他の人にしたらもう少しましな作品に仕上がったのではと思います。役を貰った人のうち、ベテラン勢は一応役者としての面目を保っていますが、どことなく気合の入らない演技です。

注目すべきは普段エキセントリックな人物やノイローゼ気味の人物を専門に演じていた役者や、やくざやチンピラ専門だった役者に、普通の考え方をする人間やいつもと違う役を割り当ててあるところ。俳優としては喜んだのではないかと勝手に想像しています。

さすがこれまで撮影監督をしていただけあって、特殊撮影の指示は手慣れた物。ただ、トランセンデンスには個性がありません。フィスター(ドイツ系の姓で、ドイツ語ではプフィスターと呼びます)はこれまで何本も印象深い作品の撮影を手掛けて来た人ですが、映画の出来は監督の意志に左右されるものだという事を感じさせられます。監督に強い意志が無ければ、個性ある画面もできないのかと変に納得する作品です。

クリストファー・ノーランとの組み合わせが良く、フィスターはノーランの作品をたくさん手がけています。1人の監督の多くの作品を撮っていますが、それぞれが他の作品と似ておらず、1つ1つの個性が生きています。他にフェリックス・ゲイリー・グレイのミニミニ大作戦も撮っていますが、これも撮影に不満の出ない作品でした。

長年俳優や撮影監督をやった人がいつかは独り立ちして監督になってやるぞと望むのは分かりますが、人によっては元の分野の方が手堅い仕事ができる人もいます。運のいいことに、イーストウッドやアフレックのようにやってみたら両方うまく行った例もありますが、上昇志向が先行して、作品がぱっとしないこともあります。

フィスターが今後ノーランの所に戻って撮影監督をやるのか、別な仕事を依頼されて監督業を続けるのかは現在の経済不況の中では不明。ただ、一頃のように映画界にお金がどんどん流れ込んで来る時代ではないので、下手を打つと後が続きません。撮影監督では権限も制限され、収入も低いのかも知れませんが、評価を受ける場所にとどまるのが生き残るための策かもしれません。

★ あらすじ

らしくない2人が夫婦の役で登場。長年ちょっと変わった役ばかり見て来たので、ジョニー・デップが普通の夫と言われるとピンと来ない人が多いかもしれませんが、過去に普通のお父さんを演じたことがあり、上手でした。

ここに出て来る夫婦は人工知能研究所の学者。もう1人、この2人と仲のいい同僚がいて、トランセンデンスでは三角関係のもめ事は起きません。この親友が殺人鬼など危険な役や変な役が多かったベタニー。かれが平凡な男を演じるのを見るのはこれが初めてです。

科学技術の発展のし過ぎに懐疑的な若者がテロを行う近未来。主人公のエヴェリンは優秀な学者で、最先端の科学技術に携わりながら、「本来世界はこうあるべきだ」という理想像を描いています。科学をこういう風に使って、あれをどうして、それをどうして、人類は最後には病気も食糧危機も克服して幸せに暮らせる・・・と夢見ています。ちょっと女学生的な夢ではありますが、皆が幸せになり、人殺しや搾取の無い世界を望んでいます。

監視社会がますますひどくなる中テロリストたちはハッキングをしたり、人を直接襲ったりして抵抗しています。過激な自然保護団体をモデルにしたような描き方です。巨大な組織になるとすぐ発見されるので少人数で廃屋などを使って場所を移動しながらの行動。

主人公3人組エヴェリン、ウィル、マックスは研究所では人工知能の能力を高め、人間以上の力を持たせようと毎日仕事に励んでいました。しかしある日同時テロに見舞われ、ウィルたちの先輩に当たるタガーの事務所では職員が大勢毒殺され、別な場所にいたウィルはテロリストの凶弾に倒れます。

ウィルは即死ではありませんが、受けた弾が放射性物質を含んでおり、短い期間を経て死ぬことが確実視されています。

重要な研究員が間もなく死ぬというので、3人はグルになってウィルの意識をデジタル化してネットにアップロードし、デジタル化された生命を維持しようと考えます。そしてめでたく成功。

バーチャルな世界でウィルは活動を開始し、さっそく株式市場、金融、軍事などに関心を示します。あっという間に株で大儲けをし、エヴェリンの口座にお金を放り込みます。

そしてエヴェリンに砂漠の中の廃村同様の荒れた小さな町を買い取らせ、そこに大きな研究所を建設。町の住民の病気を無料で治療して、研究所の作業員として使い始めます。

一方デジタルのウィルが本当のウィルかどうかに疑いを抱いたマックスはこの計画からリタイア。ほどなくして、テロリストに拉致され、監禁されてしまいます。

エヴェリンは廃村同様の町全体のオーナーに収まり、研究所を経営。四六時中デジタル・ウィルと話しながら色々な作業をしています。町からは病人と失業者が減って行きます。

いつの間にかウィルの計画に危惧を抱いた先輩タガー、テロ組織、正式の軍隊、FBI は意見が一致し、まとまって、まずエヴェリンを研究所から救出しようと試みます。4者はウィルが病気を治した町民が普通の人間の能力を超えた力を発揮し、ウィルの言うままに動いていることを知り、現在はたまたま研究所の建設作業をしていても、いずれ倒すことのできない軍隊を編成することができ、世界はウィルに支配されるだろうという危惧を抱き、そこで意見が一致しました。

研究所に出向いて説得してみたもののエヴェリンは納得せず、暫くはノーと言います。しかし間もなくデジタル・ウィルが自分の細かい感情までチェックしていたことを知り、カッカと怒って家出。町の安ホテルで結婚指輪をはずして休憩。そこへ軍人が防護服をつけて襲って来て拉致。

今はハズマットが必要な時代に入り、よくニュースで見かけますが、トランセンデンスのこのシーンでなぜハズマットなんだろうと一瞬浮かんだ疑問。勝手な解釈ですが、警官やスワットなどは相手が犯罪者でないと出動させられない、軍は国内では出せないし、こちらも相手が敵でないと出動させられない、それに対し放射性有害物質、伝染病、化学物質などであれば法的に問題なくホテルの部屋に乗り込めるという理由づけの策だったのかな。

エヴェリンが連れて行かれた先にマックスやタガー、FBI などが現われて、もう1度説得。 ようやく納得して、みんなの作戦に乗ります。一種の自殺行為。デジタル・ウィルにエヴェリンをデジタル化させて、デジタル・エヴェリンのアップロードの時にエヴェリンの中に仕掛けて置いたウィル退治のビールスをウィルのスーパー・コンューターに逆流させようというもの。

結局最後は、2人は安らかに死にました、地球が助かってめでたしめでたし。

★ 何が言いたいの?

デップ演じるウィルは世界征服を狙う悪漢の役ですが、デップはその迫力は無く、ただの若い研究員風。それもそのはず。ウィルが世界征服をもくろんだわけではなかったからです。

彼はエヴェリンにぞっこんで、彼女の夢をかなえてやりたかっただけ。その手段として廃村同様の村の住民の病気や怪我を直し、ネットに組み込んで意のままに操れるようにします。仕事中に大怪我をしても研究所に運び込めば人工手術台であっという間に蘇生。長い間失業者だった村人に取ってもうれしい事。

研究所は砂漠地帯にありますが、植物を増やす研究も行われていて、いずれ仕事の順番が回ってくればその辺は緑の森に変わる予定。何もかもがエヴェリンの夢を実現するために動いていました。

しかし他の科学者、軍、テロリストはそれぞれの考えから「これは危険な世界征服計画だ」と評価。別々の活動では到底抑え切れないと判断し、協力関係に。

要約すると、悪気の無いエヴェリンの夢を、悪気の無いウィルがかなえてやろうとし、その時点で動かせるあらゆる科学技術を駆使して見たら、市場で大儲けができて、その金で廃村を買い取り、太陽光パネルを敷き詰め、周囲の住民を使って目的に近づいた、でも他の人がその規模の大きさ、実績に躊躇いの気持ちを持ち、阻止されたという話です。

「目的が良くても力を持ち過ぎると怖いから、止めさせる」というつもりで作ったのかも知れませんが、どうしても見終わって?????となってしまいます。主張の切れが悪く、結局何を中心に主張しているのかが見えないのです。むしろ現代に起きている様々な弊害の言い訳に使われそうで、「生身の人間や大地を使ってトライアル・アンド・エラーはしないでいただきたい」と言いたくなりそう。

主演のキャスティングに失敗があったのかも知れません。エヴェリンは最初からおバカさんに見えるし、あまり科学を身に着けた人に見えません。デップは久しぶりに普通のおっさんに見える役で、そこは良かったと思いますが、あっという間に凶弾を受けてしまい、その後は肉体的に衰えるメイクになるため、普通のおっさんを演じる時間は短いです。しかも部分的には2013年にファンタに出た駄作 Aurora のパクリのよう。あまり受けなかったジョン・バダム監督のニック・オブ・タイムはデップの演技が良くて私は高く評価しています。トランセンデンスの前半のデップはそれに近く、私はこういうデップが好きです。ただ、彼もあまり学者風に見えず、2人の役の解釈が浅かったのか、らしくない演技を指示されたのかは不明。

ベタニーは今回は珍しく連続殺人者でもなく、ノイローゼでもなく、3人の中では1番理性を保った役です。こういうベタニーをこれまで見たことがありませんでした。フリーマンはどの作品に出てもこんな感じで、落ち着いたいつもの演技。大抵は善人役で、今回も善人。マーフィーもノイローゼ気味かエキセントリックな役を何度か見ましたが、今回は目立ち過ぎない FBI 捜査官。特に切れるわけでもなければ捜査の邪魔をするわけでもない役。

コリンズ(ゴンザレス・ゴンザレスとして知られていた)はメキシコ系俳優として由緒正しい家の出ですが、長い間悪役の端役が多かった人。近年はセリフも増え、時には悪漢でない役も貰えるようになっています。

これだけの役者を揃えて、しかもかなり自由のある SF の分野だったら、ノーランならもう少しメリハリのある作品に仕上げたのではと思ったりします。監督をノーランにやらせて、フィスターが撮影監督だったらもう少しいい作品ができたのではと思いますが、トランセンデンスでは撮影は別な人にやらせています。

★ 世界改造計画

ギリシャ、フランスなどが一部砂漠化しているのをご存知でしょうか。シチリアにも砂漠っぽい場所がありました。かつてはアフリカ北部も含む地中海は緑の国だったのです。それが木を伐り過ぎて今は砂漠。

ドイツより北の国も場所によって3000メートルの山の天辺でもないのに木が少なく、砂漠っぽい場所があります。

ではドイツはと見ると、ベルリンのような大都会でも田舎でも緑だらけ。これは役所が監視していて、木が害虫にやられたり、嵐で倒れたりするとすぐ職員が飛んで来て新しい木に植え替えるからです。何かあると驚くほど迅速に人がやって来ます。ちなみにベルリンではすべての木に番号がついています。田舎の山でもちゃんと森の監視員という役所の人がいて、高速道路の排気ガスで森が(枯れて)茶色になったりするとすぐ対策が動き始めます。

これが意味するところは、「放って置くから砂漠になる、ダメになった所はすぐ新しいのを植えればいい」ということでしょう。かつて日本でも禿山が増えた時期がありましたが、土砂崩れで死人が出たりしているうちに考え方が改まり、その後は木を伐ったら次を植えるという考え方に変わっています。1種類をたくさん植え過ぎて花粉症問題が起きましたが、その失敗に気づいた今は複数の種類の木を植えているような話を聞いています。

これを世界規模でやれば森も、穀倉地も蘇ると考えたいところですが、じゃあってんで国連か何かの団体がドーッとやりだすと緑の独裁制度になってしまいます。ドイツはドイツ人が国内で同意しているからできているわけで、その恩恵をちゃんと意識しています。暇な時に町の中の公園を散歩しながらいい気分を味わっています。こういった同意が無いまま外国の組織が無理やり押し付けるのでは目的が良くても独裁になってしまいます。

トランセンデンスのキモは、「たとえ良かれと思っても・・・」という点なのではないかと思うのですが、そこが見終わっても印象に残りません。で、何のために作ったの?という問が残ってしまいます。

後記 - 的外れかもしれないかんぐり: 見終わって数日後、ノーベル賞の発表があり、米、ノールウェイの3人組が当選。ネズミを使った脳の研究で人間が現在地を感知する能力を推測したものです。なんとノールウェイ人2人は夫婦。枠だけを見るとベタニー、デップ、ホールのよう。無論ノールウェイ人の夫はデジタル・ウィルとは違い肉体も健在で、自分で賞を貰いに出かけて行ける身。

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