January.18,2009 芝居で現実を考えたくない私

1月17日 ラッパ屋
       『ブラジル』 (紀伊國屋ホール)

        大学時代のボサノバサークルのOBOG会が千葉の海岸沿いのペンションで行なわれる。その集ってきた人間達による集団劇だ。ボサノバサークルから音楽プロデューサーになった者、ミュージシャンになった者、音楽への夢を持っていてもペンションのオーナーに納まった者、身体に病を抱えて迷い悩んでいる者、離婚した者、その離婚した妻と結婚した者、浮気をしている者、不倫をしている者、などなど。

        それらの人達が学生時代に同じサークルにいたという絆で再会し、3日間を過ごすというドラマ。昔の思い出話をするというよりも、それぞれに人生の半ばを過ぎて悩みを持っている。その人生模様が描かれていくのだが、こういうドラマって身につまされる反面、人生立ち止まって何か考えるなんてことをしないで、ただただその場しのぎで生きてきた私としては、そんなことどーでもいいじゃんという気が少しある。というか、そんなこと考えてもどうなるもんでもないし、登場人物のひとりが云うに、これから先の事だけを考えていけばいいだけの事と思うわけです。

        というわけで、こういうテーマの芝居って案外苦手。芝居を観に行くのは、ただただ楽しい時間を過ごしたいということだけなのだ、私は。自分の人生を考えるのは自分で思い立ったときに決めるから放っておいてもらいたいんですよ。・・・なんて勝手な感想なんですかねえ。


January.17.2009 期待した私が悪いんだけど

1月12日 『冬の絵空』 (世田谷パブリックシアター)

        『忠臣蔵』なのである。大石内蔵助が橋本じゅん。吉良上野介が粟根まこと、ときたら当然、劇団☆新感線のライン。そういう芝居を期待しちゃうじゃないか。さらには生瀬勝久まで出ている。これは当然期待の芝居。しかし、これは新感線じゃないというのが見抜けなかった私の失敗。まっ、脚本、演出が違えば別物だというのは当然なんだが。

        松の廊下の刃傷から切腹した浅野内匠頭が実は影武者で、本人は生きていた。それを知った大石は当然、吉良邸討ち入りには反対である。しかし、それを知らない赤穂の浪士たちはどうしても討ち入りに行くとして聞かない。この設定自体は実に面白いではないか。

        しかし、劇団☆新感線、またもしくは、つかこうへい劇団のようなものを期待してしまうと失望させられる。吉良がオカマだったりする設定もやや安易な気がする―――って、案外新感線あたりで観せられるとそうでもないんだろうけど、なんだか取ってつけた感になってしまうのだ。

        どうも偽大石内蔵助を演じる藤木直人ファンの女性が客席に多かったようなのだが、私は「えっ? 藤木って誰?」状態。

        登場人物のほとんどが死んでしまうというのも、なんかなあー。生き残るのは大石内蔵助の橋本じゅんくらいか。無駄死にのドラマとしか思えないんですねえ。観終わった後に不満ばかりが残ってしまった。これで9000円かよ。


January.11,2009 日本人の思い

1月10日 志の輔らくご in PARCO 2009

        一席目は新作『ハナコ』。日本には、予め知らせるという文化があるというマクラ。「『つまらないものですが』と差し出すと、何も聞かないで開けてみて『わっ、つまらない』という具合にはならない。電話で『今、お電話よろしいですか?』と言われたら、嫌だとは言えない。お見合写真というものも予めの確認作業になる」といった例をあげて、「この噺、初日からまだ5回しかやっておりません」との予めの前置きから噺に入る。温泉旅館へ泊まりに行った仲間。この温泉旅館の女将がやたらと、予めのお知らせが多い。やれ仲居がひとり足りないとか、やれ掛軸の雪舟は贋物であるとか、やれ温泉は本物であるとか説明が多い。その説明が夕食の黒毛和牛焼肉食べ放題の説明になると・・・。おそらく、偽装問題がいろいろ発覚した去年の世相から生まれた噺なのだろうが、志の輔の捻ったロジックを使うと、こうなる。かなりブラックなサゲが私好み。

        「赤塚不二夫さんは天才だと思うんですが、『自分を最低だと思え』と言ったのを憶えています。また一方の天才、うちの師匠は『人間、プライドだよ』と言うんですね」と二席目『狂言長屋』に入る。これは三年前にやはりこの会で観ている。今回も感想としては同じで繰り返すことは特にない。

        三席目が『柳田格之進』。これも以前横浜で聴いている。今回思ったのは、人間、白黒をつけることがそんなに重要なことなのだろうかということ。大店の主人が五十両というお金が紛失したことを、どうでもいいと思う気持ち。そんなことよりも人間関係を大切にしたいという気持ちってわかるんだなあ。まあ、金銭的に余裕があるからこそ可能なんだろうけど、金や物なんて人間関係が壊れるよりも、どうだっていいというという気がするのだよ、最近つくづく。

        日本人って不思議だなあと思う。三席に共通するのは、どこか日本的な曖昧文化が見え隠れしている。日本だけにしか存在しない落語って文化も、そんなところから生まれてきたのだろうか?



January.10,2009 復活! 『初めての除夜』

1月4日 新作落語お正月寄席 (プーク人形劇場)

        おそらく喬太郎が出るからだろうか、整理券が出た。整理券を受け取って、まずは腹ごしらえ。どこで食べようかとウロウロしているうちに開場時間が近づいてきてしまった。こういうときはすぐに食べられる回転寿司。戻ってきたらちょうど開場したところ。場内ギッシリ。

        開口一番は鈴々舎やえ馬『高齢者社会』とでもいう噺なのか、おじいさん噺四題。カラオケの客引きがおじいさんだったら。ヒーローインタビューのアナウンサーがおじいさんだったら。卒業式の呼びかけをおじいさんがやったら。お嬢さんを私にくださいと両親に挨拶に行くのがおじいさんだったら。それぞれ面白いのだけど、なぜかオチが無いのがほとんどって何? 無理矢理でもオチを着けようよ。落ち着かないから。ねっ、これでもオチになるんだから。

        川柳つくしは、師匠川柳川柳とのお正月風景をマクラにして『心中夫人』。十年付き合ったカレシを男に取られた女性斉藤さんが自殺系サイトにアクセスしてネット心中をしようと思い立つ。オフ会に参加するとくじ引きでカツプルをつくり、心中ということになる。斉藤さんの相手は中村くんという男性。この男が煮え切らない男で、ここから『品川心中』のようなトンチンカンでブラックな笑いが盛り込まれる。ラストに救いがあるのが、後味がいい。

        古今亭今輔はお得意のクイズ番組のマクラ。どっと反応があるのは、まだ聴いてない人が多いのか。鉄板のマクラになってきている。噺は『死人に口なし』。本人、作りこんだ感があるという自信作。私はこれ聴くの三回目。さりげなくラーメンが出てくるのはオチに繋げるため。こういうのでもいいんだよね、やえ馬さん。

        瀧川鯉朝は、前の席に座っていたお客さんが芸協の福袋を持っていたところから、先ほどまでその福袋を売っていたんだと、その福袋を借りて中身の解説。噺は『街角のあの娘』。2006年のプークでも、これ聴いている。南千住駅前の不二家のペコちゃん人形を擬人化したお噺。聴いているうちに、私の中でちょっとしたアイデアが浮かんでくる。

        三遊亭丈二は、師匠円丈の飼犬ロッキーの話を持ってきて、公家をペットにする『公家でおじゃる』。これも2006年プーク正月に聴いている。突然にSFになるのだが、古今和歌集ビームは大受けで、このあと喬太郎まで使っていた(笑)。

        林家彦いちは、正月に真っ赤な自動車で寄席を移動中に皇居近くで警察官に止められたという話。さらにもう6年もやっているスタバ店員と闘った話をマクラに『ジャッキー・チェンの息子』へ。

        柳家喬太郎はプークの前に師匠のさん喬と親子会を演ってきたところ。「『粗忽長屋』を演ったんですが、入れ事を入れすぎてグズグズになっちっゃた。帰りの電車ん中で、『師匠、グズグズですみませんでした』と言ったら、『そういう芸人さんでしょ』 師匠に見捨てられたー!」 すっかり有名になってしまった忘年会での酔っ払って師匠へ暴言を吐いた事件の話から、昨年の一門忘年会前のボーリング大会の話など、いつネタに入るのかわからないほどのマクラから、久しぶりにかけたという『初めての除夜』。どうも大分変えてきているものらしい。除夜の鐘を撞く役目を初めておおせつかった坊主を主人公に、その除夜の鐘の音を聞く市井の人達の人間模様。家族連れやカップルなど。年越しそばを売るそば屋も出てくる。年の瀬の様子を描いて、いいなあと思わせておいて、突然の出来事から大爆笑の展開に突き進む。これ、面白いよ。

        出待ちして、喬太郎師匠、今輔師匠、つくしさんに新年の挨拶。鯉朝師匠には、さきほど浮かんだ計画をそっと打ち明ける。さあ今年も面白いことになりそうだ。


January.4,2009 『勧進帳』をぶっとばせ!

1月3日 新作落語お正月寄席 (プーク人形劇場)

        開場前のプークに行ったらば、それほどの列でもない。整理券も出てないので、とりあえず腹ごしらえと北牧場でジンギスカン。肉が柔らかくて旨い。食べ終わってプークへ戻ったら開場していた。客の入りはどうかと思ったら、開演前には立見も出た。数年前までは楽勝でゆったりと観られたのに、やっぱり落語人口は増えたんだろうなあ。

        開口一番は三遊亭玉々丈。プロポーズした女性が煙草嫌い。禁煙を条件にプロポーズを受け入れられて禁煙クリニックに行くが、どうもここは詐欺っぽい。煙草をやめるにはどんどん煙草を吸う方がいいという。ううう、煙草嫌いの私は聴いているうちに気持ち悪くなる。

        三遊亭亜郎は、円丈落語のテクニックを声楽の面からうまく分析してみせて、福島の「だっぺ」という方言が声楽的に面白いというマクラから、だっぺおじさんが出てくる噺。『ドレミの歌』を新しい歌詞にしてみせる。ドはドラえもんのド、レはレレレのおじさんのレ、ミは美輪明宏のミ、ファはファインディングニモのファ、ソはその時歴史が動いたのソ、ラはライオンキングのラ、シはシルバーシートのシ。こっちの方がいいなあ。でも歌いにくい(笑)

        三遊亭天どん『通信簿』。通信簿を偽造した息子に激怒した母親が、父親に叱ってもらおうとするが、この父親も父親という噺。ベタだけど面白いな、これ。

        鈴々舎わか馬は、川柳川柳の『大ガーコン』。ええっ? わか馬って何歳? 1974年生まれって、30代じゃん。こんな古い歌の数々よく知っているねえ。

        夢月亭清麿は毎年恒例の今年死ぬ人予想のマクラから。噺は、あれ? 聴いたことあるな、これ。そうそう2003年の正月にも、ここプークで聴いている『昌子の皿』だ。 あのときはプロレスラーが出てきて皿を割っていたが、今回は相撲取り。

        三遊亭白鳥『仔羊物語』を聴けたのは大収穫だった。歌舞伎の『勧進帳』をベースにして作られたこのスペクタクル落語の面白さはどうだ。細かな伏線を仕込んでおいて、子羊を抱えての逃避行。そしてクライマックスの『勧進帳』のパロディで仕込んでおいた伏線が一気に爆発していく。お得意の座布団を飛び道具として使うのもこの人ならでは。これはまた白鳥の代表作のひとつになりそうな予感がする。

        本日各寄席掛け持ちで四席目だという三遊亭円丈はこれまた代表作の『悲しみは埼玉に向けて』。これは鉄板ネタ。何度も聴いているけれど、何回聴いても飽きないんだよなあ。


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