真空管式カーラジオ「神戸工業R-21」の修理(Aug 3, 2009〜Nov 19, 2009)

写真は初代トヨペットクラウンに実装されていた真空管式カーラジオ。 1968年頃に同郷の友人D氏から譲り受けたものだが、過去一度も動作確認をしていない。 真空管を取り外し実家の物置で40年以上も眠っていた一品。
5球高1中2スーパーヘテロダインに外付けの2石AFアンプ(2S34+2S41)で構成されている。一般に言う所の真空管スーパーとは異なり、全てバッテリ動作でバイブレータや整流管は使用していない。メーカーはTEN(テン)こと神戸工業で型式はR-21。
プリセットボタンの上に金色でToyopetCrownの文字が描かれているのが印象深いが写真では分り難い。 電池管ではさすがに出力不足と思われ、当時は未だ珍しかったトランジスタを低周波増幅の最終段に採用し、スピーカーボックスに組み込んでいた。
今回、偶然にもこのカーラジオに使われている真空管シリーズを長野ハムセンターのWebショップで発見。 たまたまそのシリーズの周波数変換管12AD6とIC(LMF501T+LM386N)を組み合わせたラジオの試作で好結果を得た事もあり、一度も手を着けていなかったこの真空管式カーラジオの復元を試みる事になった。
\100ショップでもラジオが買える時代に、回顧主義も甚だしいと言う声が聞こえてきそうだが、そこは「趣味」、コストじゃないと意地を張る。
こうした製品には現代人が忘れてしまった温故知新的なところがあり、またコストでは計れないから面白い。
・・・理屈をこねるより、ラジオ少年に帰って先は実践!実践!。


先ず洗浄

ホコリをコンプレッサやブラシ等で綺麗に落とす。続いて水洗い、ドブ付けして汚れを流す。さらに数日間掛けて完全に乾燥させる。乾燥を確認の上、機構部分にオイルやグリスを施す。また全体にシリコンオイルなどを塗布して錆の発生を押さえる。
左は乾燥させた本体のリア・トップビュー。右はシャシ底から見るRF増幅・周波数変換とANTコネクタ。No.44393は製造番号と思われる。状態が良く製造後50年を経た装置とは思えない。


状況を確認

さらにフロントパネル裏の周波数スケールにヤハトールを吹き汚れを流す。プリセットメカ部も長年の汚れが付着しているので、ここもハヤトールを使う。
本体とは40年振りの再会となる真空管。取り外され段ボール箱でホコリまみれで眠っていたのを綺麗にして記念撮影。
通電前に出来ること、即ち真空管のヒーターをテスターで当る。すると12AD6のヒーター断が発覚。ややトホホ状態に陥るが、このメンテのきっかけになった12AD6が長野ハムセンターにある事を知っていたので早々に発注。
本体底面には6Pin角型コネクタがあり、電源やAF信号のやり取りが行われる。回路図は無いので、配線状況を診て電源・GND・AF出力・AFリターンを確認する。
ちなみにANT端子は今のカーラジオと同じコネクタがこれも低面にある。
写真左は左から12AD6(ヒーター断)・12AF6(2本)・12AE6・12BL6。右は底面のフルショット。下方に6Pin角型コネクタ、上方にアンテナJack、そしてその下にトラッキング調整用のトリマコンデンサが見える。真空管回路は小蓋が当てられて見えない。


いよいよ通電

球を実装しようとしたら管名表示が無く先ずつまづく。検波とAF増幅の12AE6は直ぐ分かる。12AD6は周波数変換7極管なので1ヵ所しかない。12AF6と12BL6は5極管でピン番が同じだ。底蓋を外すとぎっしりと詰まった部品。まずソケットの1番(G1)・2番(K/G5)・7番(G3)の接続先で12AD6を判断。12BL6と12AF6(2本)は、前者はRF増幅、後者をIF増幅とした。
電源コネクタは専用の6PinだがAF出力も含まれる。周辺の状況からGND・12.6V・電源SW経由12.6V・AF出力を確認。ワニ口で電源(12V/1A)を接続し、AF出力はDCカットC経由でアンプ内臓SPへ、2m程度のビニール線をアンテナ端子につなぐ。
通電するとパイロットランプが点灯。暫くすると各管のヒーターが灯りだした。しかしSPからはブーンとHum音ばかり。オシロで見ると確かにHum。12AE6の1番(G)に指を触れるとブーン音が増大・・・AFアンプはOKだ。12AF6の1番(G1)にSGから455KHz変調波を注入すると出力にAFが現れる・・・ここまでは生きている!。テスタで電源ラインを当たると到着が10Vと低い。1A電源なのでがオーバーロードかも知れないと13.8V/DM-330MVに変更するとサーとノイズが出た。しかし高周波らしいノイズじゃない。それで長年の感。球の接触を当たるとRF増幅の12BL6が可笑しい。球をソケットを馴染ませる。バリバリとノイズがしたかと思うと、あの懐かしい中波ラジオのノイズ。同調ノブを回すと見事にJOFGはじめとする中波ラジオ局を拾い上げる。特段の再同調は行っていない、見事だ。写真はワニ口リードが接続された様子。
これで見事復活となった。このラジオはRF回路の結合Cの中心はスチロールコンで初期の状態が良好に保たれてる模様。ケースに電源と共に収めて据え置きラジオとして使いたい。


まとめ

友人から中学時代(40年前)に譲り受けたこのラジオは今まで一度も鳴らす機会が無かった。最初から部品取り程度にしか考えていなかったからだ。その存在を忘れていた事で40年も手付かずで眠っていた。そしてたまたま12AD6をネット上で発見した事で思いがけない展開に発展した。
復活した半世紀前のラジオが現在の新しい放送を鳴らしている。なんとも不思議な感覚になる。一連の出会や発見、そして時間経過に運命的なものを感じる。今夜はこのラジオでJOFGの「ラジオ深夜便」を聞きながら床に就くことにする。まるでラジオ少年だ。1965年7月に初めてゲルマニュームラジオを作った時と同じ感激に浸っている。(Nov 19, 2009)
左は最終的にとった入出力特性。信号源はHP8657Jで1MHz(1KHz40%変調)。レベル計はShibasokuAH979G。測定点は12AE6(低周波増幅初段)のプレート出力をカップリングコンデンサ経由で100KΩ受けした。VRは110dBμ入力で聴感上歪まない位置(たまたま出力は0dBs)に固定。0dBμ未満の入力ではS/Nが悪化し定量的な測定が出来なかった。(Nov 29, 2009)
回路図

以下は友人からの資料を基に、オーナーが作画ソフトで手書きした回路図。
感度不足を補うためにRF増幅1段・IF増幅2段、すなわち俗に言う「高1中2」構成になっている。
またトップのRFチューニングはμ同調の複同調で構成されイメージ混信の抑圧を狙ったものと思われる。複同調の結合はμコイルのコールドエンドに挿入されたC(0.003)で行っている。
12AE6で2つある2極管部を、プログラム(音声)検波用と、AGC電源検波(整流)用に使い分けているのが印象的。
またカソードを直接接地するなどG1バイアスの浅い(グリッドリーク依存)真空管ならではの回路となっているのが興味深い。
スピーカーアンプ(この部分は現存しない)は発売間もないゲルマニウムトランジスタ2段で構成されている。そして歪低減とf特改善のためにしっかりとNFBを掛けている。まだトランジスタの規格が統一される前で、呼称方式が今と違うのが面白い。



関連情報
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